婚約者に逃げられて精霊使いになりました〜私は壁でありたいのに推しカプが私を挟もうとします。〜

一花カナウ

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6:新たな門出に

任務として同行することに。

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※※※※※


「おはよう、ジュエルさん」
「おはようございます」

 アメシストとシトリンを伴って食堂に行くと、セレナが先に朝食を始めていた。制服に着替え終えているのをみるに、すぐに仕事に向かうのだろう。昨夜は遅くにこちらに戻ってきたというのに、忙しいことである。
 マグカップに注がれたお茶を飲んで、セレナが告げる。

「今日の午後、調査に入ることになると思うから、準備をしておいて」
「ラリサさんをお迎えする準備、ですよね。お任せください」
「ううん、あなたも行くのよ」
「はい?」

 私は聞き間違いかと思って首を傾げた。

「スタールビーにも話はしてあるわ。一緒に迎えに行きましょう」
「新人が行ってもいい場所なんですか?」
「あなたの力が必要なのよ」
「生贄にされるのはごめんなんですが……」

 そう返すと、セレナは笑った。

「それは大丈夫。私が阻止するわよ。あなたに万が一のことがあったら、ステラくんが精霊管理協会を吹き飛ばしてしまうでしょうから、それはもう慎重に警護するわ」

 ね、と、厨房から出てきたオパールに話を振る。焼きたてのパンのいい匂いがした。

「オレも一緒に行くからな。全力で守るさ」
「むむ……」

 気が乗らないが、業務命令らしい気配もある。私に拒否権はなさそうだ。

「僕たちも一緒に行っていいの?」

 黙って聞いていたアメシストが挙手して尋ねた。

「もちろん。それに、キミたちは知っておいたほうがいい」
「どういう意味だ?」

 意味深なオパールの言葉に、シトリンが怪訝な顔をする。

「行けばわかる」

 オパールは真面目な顔で告げて、テーブルにパンを置いて厨房に戻ってしまう。これ以上は何も語らないという意思表示。
 アメシストとシトリンは顔を見合わせた。ふたりとも不安げである。

「任務として同行すればいいってことですかね?」

 私が確認すると、セレナは頷いて立ち上がった。

「そういうこと。昼食は早めにすませておいて。迎えに戻るから」
「承知しました」

 ラリサのいる場所に何があるのかはわかっている。彼女が何をさせられているのかも。概要も聞かされている都合上、私はあまり近づきたくなかったが仕方がない。
 私が承諾すると、セレナはオパールを伴って食堂を出て行ったのだった。


※※※※※


 午後。
 約束したとおりにセレナが迎えにきた。私はアメシスト、シトリン、スタールビーと一緒についていくことにする。
 ダイヤとルビは保養所に残り、オズリックの警護を担当する。ふたりが残るなら戦力的には問題ないだろう。経験も積んでいるから安心だ。

「こちらに連れて戻る予定で話は進めているそうなので、オズリックさまは待っていてくださいね」

 見送りに来てくれたオズリックに、私は声をかけた。

「ああ、わかっている。だからお前さんは無理をしないようにな」
「はい」

 心配そうにいうので、私は虚勢であっても笑顔を作った。
 セレナを信用してはいるが、何事もなく終わるようには思えない。

「あまりのんびりしていられないから、出るわよ」

 セレナの号令に、私たちは転送装置に乗りこむ。胸がざわざわした。

「行ってきます」
「気をつけて」

 ちゃんとここに戻ってこられますように。
 セレナの操作で、私たちは目的地に近い精霊管理協会本部に転送された。


※※※※※


 精霊管理協会本部はこれまで世話になった支部と比べてずっと大きな施設である。フロアにはさまざまな部署があるらしくやたらと広いし、それでいながら上にも下にもフロアがあるのだという。案内の看板を見てもちっとも頭に入らなかった。
 迷路みたいな場所だと感じたが、セレナは確信を持って進んでいく。
 使い慣れているんだな……
 あまり意識してこなかったが、オパールが前に教えてくれたようにセレナはこの協会ではそれなりの地位にいる人間のようだ。挨拶をする人間や鉱物人形も多く、その後ろをキョロキョロしながらついていく私は気恥ずかしい。
 いくつかのエレベーターを乗り継いでたどり着いた高層階。窓から見える景色は壮観である。ビルが多く立ち並ぶ様は私の実家周辺とは大きく異なっている。
 あれ?
 この景色には見覚えがあった。確かこの国の歴史や地理を勉強したときに資料にあった写真に酷似している。私はここが首都であることに気づいた。

「よう。ちゃんと揃っているな」

 会議室のような場所に通されると、そこにはオパールがいた。

「すぐに向かうものだとばかり思っていたんですが……なにか相談でも?」

 扉が閉められると私はオパールに尋ねる。彼が一緒に迎えにこなかった理由はここにあるのだろう。
 私の問いかけに、オパールは肩をすくめた。

「いんや。説明はあらかた済んでいるから、問題ない」
「じゃあ――」

 私はさらに話しかけようとして、口をつぐむ。そして背後の気配に備えてアメシストとシトリンの袖を掴んだ。
 ドアが叩かれる。
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