婚約者に逃げられて精霊使いになりました〜私は壁でありたいのに推しカプが私を挟もうとします。〜

一花カナウ

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6:新たな門出に

プロポーズではなくて。

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「それは悪かった。お嬢さんをからかったつもりはないんだ。低く見ているつもりもない。優秀な精霊使いだと思うから、俺は仲間を君に託そうと考えたし、俺自身も君に身を委ねようと身辺整理をしているんだ。もう散ってもいいと考えたこともあったが、お嬢さんが精霊使いになるなら力を貸したいと――その気持ちに偽りはない」
「じゃあ、なんで誘惑するんですか! しかも、能力を使って! 紅玉って、催淫効果もあるんですよね? 思い出しましたよっ!」

 私が文句をつければ、スタールビーは気まずそうな顔をした。
 書物で読んだときは私は恋愛についてよく知らなかったし、性愛についての知識も経験もなかったからピンと来なかったが、この体験は催淫効果によるものだと唐突に理解した。媚薬と呼ばれるものに期待される効果だ。

「……ほんと、お嬢さんは詳しいな」
「わかっててやるなんてひどいです! 危うく流されるところでした!」

 私が熱くなればなるほど、スタールビーは冷静さを取り戻していく。彼は苦笑いを浮かべた。

「恋愛感情は置いておくとして、な。ルビもそうだが、紅玉は性質上、性欲が強くてだな……好みの相手がいると強烈に惹かれてしまう。お嬢さんに対して、そういう気持ちが起きないように注意を払ってきたが、契約者として意識したらどうにも衝動が……すまない」

 スタールビーがしょんぼりしている。反省してはいるようだ。
 とはいえ、そういう性質があると覚悟しないといけないということか。身がもたないかもしれない。
 私は咳払いをする。

「本来の契約者から離れていて、しかもその契約者さんも弱っている状況では、スタールビーさんも身体を維持するのが大変であるということは察しています。適宜魔力を与えたほうがいいとはセレナさんからも言われているので、仮契約もして協力しているつもりなんです。さっきのキスも……必要だからしたのであって、それを踏み躙られたのは、ほんと、ムカつきます」
「……ごめんなさい」
「未熟さゆえにつけ込まれそうになった自分自身にも腹が立ちます。私にはまだあなたを制御できるほどの技術がない。だからだと思うと、すごくすごく悔しい……」

 言葉がまとまらない。
 スタールビーには事情がある。彼が生きてきた時間が私よりも長いのを知っている。事情ゆえに、その事情ごと彼を受け入れようと決めて頑張ろうって誓ったのに。
 視界が歪む。

「俺が軽率だった。お嬢さん、俺が悪かったよ。泣かないでくれ」
「だったら、私をお嬢さんって呼ぶのをやめてください。私の名前はジュエルです」
「…………」

 言葉を探すような間があって、スタールビーは視線を私に向けた。

「――ジュエル。俺も君に向き合うようにすると誓う。だから、泣かないでほしいし、君自身を責めないでほしい」

 名を呼ばれると背筋が伸びる。
 私はスタールビーに笑顔を作った。

「……わかりました」

 涙を拭う。私は自分で進む道を決めるんだ。

「スタールビーさん、この一連の騒動にきちんと終止符を打ちましょうね。それで、私のものになってください」
「……プロポーズみたいな台詞だな」
「茶化すなっていう話をしたばかりなんですが」
「ただの感想だ」

 不満げな物言いだが、スタールビーの耳が赤いのに気づいた。照れているらしい。嬉しかったのだろうか。

「スタールビーさんって、求められたことがないんです?」
「そっちこそ、茶化してくれるな」
「失礼しました」

 はじめはふたりきりだったはずだが、オパールとセレナが扉の向こうで様子を伺っているのを察する。うるさくしすぎたようだ。

「部屋に戻りますね」
「……そうだな」

 そうして私たちはそれぞれの部屋に戻る。
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