婚約者に逃げられて精霊使いになりました〜私は壁でありたいのに推しカプが私を挟もうとします。〜

一花カナウ

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6:新たな門出に

目をそっと閉じて

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「ん……」

 抵抗しなかったからだろう。触れるだけでは終わらない口づけをして、身体が少しだけ痺れた。胸がドキドキしている。
 呼吸が乱れる。

「……アメトリンともこういうこと、しているのか?」

 私はとろんとした心地のまま、スタールビーを見上げる。

「アメシストさんもシトリンさんも、添い寝してるだけで何もないですよ」

 隣で寝ているだけだ。私も含めて寝相はいいほうなので、ぶつかってもいないのだろう。
 ただ、私の目が覚めたときにアメシストとシトリンのふたりがぴったりくっついていることについては、もはや驚かなくなってしまった。別室で寝てもらうことになったら、彼らには大きなベッドを与えようと思う。

「そう……なのか。それにしてはキスが上手だ。慣れている」

 照れた様子でキスが上手だなどと言うので、こっちまで恥ずかしくなってしまう。意識しないようにしていたのに。

「な、何を言ってるんです⁉︎ これは医療行為みたいなものじゃないですか。だから応じただけで、上手とか下手とかどうでもいいことです。ま、ましてや、慣れているだなんて」
「ふぅん?」

 ニヤニヤしないでほしい。
 私はぷいっと顔をそむけた。

「ついでに言っておきますが、私があなたに魔力を分け与えることで、あなたを私に縛り付ける効果も期待しているんです。勝手なことをして裏切られるのはもうゴメンですからね! 私を巻き込んだ責任は最後まで取っていただきたいのです!」

 私は宣言をする。
 どこからが計画だったのか知らないが、私がこうして精霊使いの道を歩むことになったのはスタールビーに会ったからだ。あの日、町で声をかけられなかったら私はここにいない。
 スタールビーが小さく笑う。

「責任、ねえ」
「あなたにはまだ聞きたい事がたくさんあるんです。聞かれないからって話していないってこと、たくさんあるのでしょう?」
「まあ、こんな見てくれだが長生きはしているからな」

 冗談めかしてスタールビーは返す。
 どうしてこういうときの彼は誠実な態度で向き合ってくれないのだろう。
 私は言葉を続ける。

「あなたには私の力になってほしいの」
「なぜ?」
「それがきっと、あなたにとっての贖罪になると思うから」
「……そう」

 ちらりと彼の顔を見ると、寂しげに笑っていた。それを見て私はハッとする。

「あ、でも、ですね? ラリサさんと一緒に一生を終えたいなら、私は引きとめませんよ。そこまでの権限は、私にはない、から――」

 言葉は口づけに呑まれる。
 なんで?
 さっきよりも情熱的な口づけだ。身体が熱る。力が入らなくてスタールビーに縋ってしまった。

「やっ……」
「……ラリサには恩があるし、仕える相手ではあるんだが……君へのこの感情とは違うんだよなあ」
「わ、私、別に、あなたを誘惑しては……」

 よくない事態だ。気を許しすぎた。

「誘惑してくれたら、もっと気持ちよくしてやれるぞ」
「そうやって私から聖女の資格を奪うつもりなんでしょう?」
「奪った方がいいなら、命じてくれよ」

 誘惑するように熱のこもった視線で見つめられて唇を指先でいじられると、命じてしまいそうになる。術でも使われているみたいだ。
 唇を動かすが、声は出さない。
 どうしよう。二人きりになるんじゃなかった。
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