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6:新たな門出に
夜中に部屋を抜け出して
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※※※※※
夜になって、私は部屋を抜け出す。アメシストとシトリンにはあらかじめ言っておいたので、追いかけてはこなかった。
薄暗い廊下を歩いていると、背後に気配。
「……あら、奇遇ですね」
私が先に声を発すると、背後の人物はため息をついた。
「お嬢さん、急激に成長しすぎだろ。これでも一応、気配は消しているつもりなんだぜ?」
「魔力の感じでわかっちゃうんですよ」
肩をすくめて私が振り向くと、そこにはスタールビーがいた。寝間着姿の彼は困惑顔をしている。
「優秀なのは結構だが、あまり人前で発揮しない方が賢明だ。悪いヤツらに利用される」
一応私の身を案じてくれてはいるようだ。
でも、なんで私の背後に立つのに気配を消したのかしら?
不用意に脅かさないためだとしても少々不自然だ。彼は今夜の見回り担当ではないし、私にそっと近づく必要があったとも思えない。
「アドバイスには感謝しますけど、スタールビーさんは結局のところ、どこに所属されている方なんです?」
スタールビーはラリサの守り石から生まれた鉱物人形らしい。ラリサが聖女としての仕事に就くにあたって、スタールビーは別の精霊使いに譲渡された。
なお、精霊使いは必ず精霊管理協会に所属しているものであり、鉱物人形も精霊管理協会に所属する形で登録管理されている。私自身は精霊使いではなく研修生ではあるが、研修生も精霊管理協会の所属である。なので、私が喚び出したアメシストとシトリンも精霊管理協会の下にいることになっている。
現在、スタールビーは私と仮契約を結ぶことで、精霊管理協会と敵対する意志はないことを示している。だがそれは、精霊管理協会の設備を利用するための仮のものだ。忠誠を誓っているなら、私と本契約を結ぶだろう。
すぐにそうしないということは、彼には何か事情があるのだ。
「お嬢さんが俺を好いてくれていたら、乗り換えるんだがなあ」
「なんですか、その言い方」
ここにきて本題から逸らすような話をしないでほしい。私が小さく膨れると、スタールビーは私の頬に触れた。
「ちょっ……気軽に触らないでください」
油断していた。私は彼の手を軽く退ける。退けようとしたその手をスタールビーに握られてしまった。
「……あの」
「少し、回復させてほしいんだ」
からかっている様子はない。切実な声に、私はじっとスタールビーを見つめる。
「私、オズリックさまのところにお話をうかがいに行く途中でして、あまり時間は取れないのですが」
「なら、粘膜接触で短時間で終えてくれていいんだが」
彼は自分の唇を人差し指でツンツンと指し示した。
「ルビさんみたいなことを言わないでほしいんですけど」
「俺もアイツも似たようなものじゃないか」
「鉱物の組成的にはそうかもしれませんけど、別人でしょ? なんなら、同位体だって、双子みたいなもので別々の個体じゃないですか」
迫られて追い詰められる。背中に壁が当たった。こういうとき、悲鳴をあげたほうがいいのだろうか。
見上げる程度にはスタールビーは背が高い。廊下は薄暗いはずなのにはっきりと彼を捉えられるから、うっすらと光っている気がする。
「君にはそう見えるってことだな」
「あの……スタールビーさん、私がひとりになるのを待っていたんですか?」
私のそばには常に誰かがいた。その誰かは石の状態だったこともあった。完全に独りだったのは、しいていうならセレナがいない間の入浴中くらいだっただろう。
今の私は単独行動中。鉱物も身につけていない。彼はこうなる瞬間を狙っていたのかもしれない。
スタールビーの口角が上がる。
「邪魔されると、加減してやれなくなる」
独特な光を宿したスタールビーの瞳に熱を感じる。
これは、逃れられないな……
紅玉には性的魅力を高める効果があるらしい。私の好みからは彼の魅力は外れるのだけども、じっと見つめられると抵抗できなくなるのはそういう力が働いているからなのかもしれない。
私は黙ったまま目を閉じた。
唇が触れる。
夜になって、私は部屋を抜け出す。アメシストとシトリンにはあらかじめ言っておいたので、追いかけてはこなかった。
薄暗い廊下を歩いていると、背後に気配。
「……あら、奇遇ですね」
私が先に声を発すると、背後の人物はため息をついた。
「お嬢さん、急激に成長しすぎだろ。これでも一応、気配は消しているつもりなんだぜ?」
「魔力の感じでわかっちゃうんですよ」
肩をすくめて私が振り向くと、そこにはスタールビーがいた。寝間着姿の彼は困惑顔をしている。
「優秀なのは結構だが、あまり人前で発揮しない方が賢明だ。悪いヤツらに利用される」
一応私の身を案じてくれてはいるようだ。
でも、なんで私の背後に立つのに気配を消したのかしら?
不用意に脅かさないためだとしても少々不自然だ。彼は今夜の見回り担当ではないし、私にそっと近づく必要があったとも思えない。
「アドバイスには感謝しますけど、スタールビーさんは結局のところ、どこに所属されている方なんです?」
スタールビーはラリサの守り石から生まれた鉱物人形らしい。ラリサが聖女としての仕事に就くにあたって、スタールビーは別の精霊使いに譲渡された。
なお、精霊使いは必ず精霊管理協会に所属しているものであり、鉱物人形も精霊管理協会に所属する形で登録管理されている。私自身は精霊使いではなく研修生ではあるが、研修生も精霊管理協会の所属である。なので、私が喚び出したアメシストとシトリンも精霊管理協会の下にいることになっている。
現在、スタールビーは私と仮契約を結ぶことで、精霊管理協会と敵対する意志はないことを示している。だがそれは、精霊管理協会の設備を利用するための仮のものだ。忠誠を誓っているなら、私と本契約を結ぶだろう。
すぐにそうしないということは、彼には何か事情があるのだ。
「お嬢さんが俺を好いてくれていたら、乗り換えるんだがなあ」
「なんですか、その言い方」
ここにきて本題から逸らすような話をしないでほしい。私が小さく膨れると、スタールビーは私の頬に触れた。
「ちょっ……気軽に触らないでください」
油断していた。私は彼の手を軽く退ける。退けようとしたその手をスタールビーに握られてしまった。
「……あの」
「少し、回復させてほしいんだ」
からかっている様子はない。切実な声に、私はじっとスタールビーを見つめる。
「私、オズリックさまのところにお話をうかがいに行く途中でして、あまり時間は取れないのですが」
「なら、粘膜接触で短時間で終えてくれていいんだが」
彼は自分の唇を人差し指でツンツンと指し示した。
「ルビさんみたいなことを言わないでほしいんですけど」
「俺もアイツも似たようなものじゃないか」
「鉱物の組成的にはそうかもしれませんけど、別人でしょ? なんなら、同位体だって、双子みたいなもので別々の個体じゃないですか」
迫られて追い詰められる。背中に壁が当たった。こういうとき、悲鳴をあげたほうがいいのだろうか。
見上げる程度にはスタールビーは背が高い。廊下は薄暗いはずなのにはっきりと彼を捉えられるから、うっすらと光っている気がする。
「君にはそう見えるってことだな」
「あの……スタールビーさん、私がひとりになるのを待っていたんですか?」
私のそばには常に誰かがいた。その誰かは石の状態だったこともあった。完全に独りだったのは、しいていうならセレナがいない間の入浴中くらいだっただろう。
今の私は単独行動中。鉱物も身につけていない。彼はこうなる瞬間を狙っていたのかもしれない。
スタールビーの口角が上がる。
「邪魔されると、加減してやれなくなる」
独特な光を宿したスタールビーの瞳に熱を感じる。
これは、逃れられないな……
紅玉には性的魅力を高める効果があるらしい。私の好みからは彼の魅力は外れるのだけども、じっと見つめられると抵抗できなくなるのはそういう力が働いているからなのかもしれない。
私は黙ったまま目を閉じた。
唇が触れる。
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