106 / 123
5:清算のためにすべきこと
私の秘策
しおりを挟む
「魔力しか持たないお前になにができるっていうんだ!」
ルシウスは私に言い放った。
「説得できるとは、もう考えてはおりません」
話し合いの時間は終わった。あとは実力行使あるのみ。
乱暴はいけないと諭している側でありながら、こういう行動を選択するしかない自分はまだまだ未熟だと思うけれど、おそらくこの方法がルシウスには一番効くはずだ。
迷わず真っ直ぐにルシウスとの距離を縮めると、私はペンダントトップを握りしめたまま兄の頬を殴った。
「いい加減にっ目を覚ませっ!」
「がぁっ⁉︎」
遠慮なんてせず、精一杯の力を込めて殴れば、ルシウスの身体は飛んでいく。
引きこもりだった私の一発なんてたかが知れている。なので、精霊使いの秘技――石の力を魔力で引き出して拳に付与した。アメシストとシトリンの加護が乗せられた一発は、生身の人間にはかなり効くはずだ。
ちなみに、石の状態でも効果を引き出して使えるというのは、スタールビーが月長石の力を借りていることから思いついてセレナに確認したことである。
ルシウスは思ったより吹っ飛んでくれたし、私の拳はふたりの加護のおかげで痛みもない。アメシストの浄化の力がこの一撃でどの程度有効なのかわからないが、物理的なダメージはしっかり入っているのが一目瞭然だ。
「ちっ……なんで、なんでなんだ、ジュエル」
「ルシウス兄さま。あなたが見下していた人間も、あなたと同じように生を受けた人間だということをお忘れなく」
「僕は……僕は家督を継ぐことが約束された、選ばれた人間なんだ。なのに、なのにっ⁉︎」
「もう一発、いっておきますかお兄さま。どこまで我が家を侮辱すれば気が済むのです? 自分の愚かさを認めて、罪を償う気持ちは湧いてこないのですか?」
私よりもずっと高等な教育を受けていたはずの兄がこんな倫理観で大人になってしまったことを恥ずかしく思う。一族の汚点ではなかろうか。地方の貴族で政治的な影響力は最早ほとんどないとはいえ、長い歴史を持つ血筋のはずなのだが。
ううん、そういうことでもないか……
今の時代に合わせた教育を受けられなかったから、歪んでいるのかも知れない。私が今の私であるのは、彼らが連綿と続けてきた教育を施されることがなかったからだ。
許しを請う気配のないルシウスに近づく。もう一発殴っておこうと私が構えたとき、背後に魔物の気配が強くなった。
私は殴るのを諦め、次の行動に移る。
「アメシストさん、シトリンさん!」
せっかく考えた召喚の呪文は省略だ。石の中に込められた精霊たちが出ると言っているんだから、私はその道を開くだけである。
私の呼びかけに、ペンダントトップを握りしめたままの掌が強く光る。
影が形を作る。
「いくよ、弟っ!」
「心得た!」
見慣れた彼らよりも数段煌めきが増したアメシストとシトリンが私の両脇に出現。
アメシストが結界を作って魔物の火炎放射を無効化し、炎を避けるために高く跳躍したシトリンが鉱物の剣を構えて魔物の首を斬り落とした。
魔物は瞬時に霧散する。
「あはは。呪文、使えなかったねえ」
「苦労して考えた呪文ですけど、しょせんはおまじないなので気にしませんよ」
アメシストに言われて、私は肩をすくめて返す。
そう、呪文なんてなくても、石に込められた精霊と意思疎通ができれば鉱物人形の正式な契約はできる。召喚に必要なのは、彼らとの対話と従えるだけの強い魔力だ。
私はペンダントトップに加工された紫黄水晶とは話ができる状態なので、精霊に呼びかけて魔力を流せば再召喚は容易なのである。精霊に好かれていない場合はこんなに簡単には呼べないのだから、ふたりは特別だ。
ルシウスは私に言い放った。
「説得できるとは、もう考えてはおりません」
話し合いの時間は終わった。あとは実力行使あるのみ。
乱暴はいけないと諭している側でありながら、こういう行動を選択するしかない自分はまだまだ未熟だと思うけれど、おそらくこの方法がルシウスには一番効くはずだ。
迷わず真っ直ぐにルシウスとの距離を縮めると、私はペンダントトップを握りしめたまま兄の頬を殴った。
「いい加減にっ目を覚ませっ!」
「がぁっ⁉︎」
遠慮なんてせず、精一杯の力を込めて殴れば、ルシウスの身体は飛んでいく。
引きこもりだった私の一発なんてたかが知れている。なので、精霊使いの秘技――石の力を魔力で引き出して拳に付与した。アメシストとシトリンの加護が乗せられた一発は、生身の人間にはかなり効くはずだ。
ちなみに、石の状態でも効果を引き出して使えるというのは、スタールビーが月長石の力を借りていることから思いついてセレナに確認したことである。
ルシウスは思ったより吹っ飛んでくれたし、私の拳はふたりの加護のおかげで痛みもない。アメシストの浄化の力がこの一撃でどの程度有効なのかわからないが、物理的なダメージはしっかり入っているのが一目瞭然だ。
「ちっ……なんで、なんでなんだ、ジュエル」
「ルシウス兄さま。あなたが見下していた人間も、あなたと同じように生を受けた人間だということをお忘れなく」
「僕は……僕は家督を継ぐことが約束された、選ばれた人間なんだ。なのに、なのにっ⁉︎」
「もう一発、いっておきますかお兄さま。どこまで我が家を侮辱すれば気が済むのです? 自分の愚かさを認めて、罪を償う気持ちは湧いてこないのですか?」
私よりもずっと高等な教育を受けていたはずの兄がこんな倫理観で大人になってしまったことを恥ずかしく思う。一族の汚点ではなかろうか。地方の貴族で政治的な影響力は最早ほとんどないとはいえ、長い歴史を持つ血筋のはずなのだが。
ううん、そういうことでもないか……
今の時代に合わせた教育を受けられなかったから、歪んでいるのかも知れない。私が今の私であるのは、彼らが連綿と続けてきた教育を施されることがなかったからだ。
許しを請う気配のないルシウスに近づく。もう一発殴っておこうと私が構えたとき、背後に魔物の気配が強くなった。
私は殴るのを諦め、次の行動に移る。
「アメシストさん、シトリンさん!」
せっかく考えた召喚の呪文は省略だ。石の中に込められた精霊たちが出ると言っているんだから、私はその道を開くだけである。
私の呼びかけに、ペンダントトップを握りしめたままの掌が強く光る。
影が形を作る。
「いくよ、弟っ!」
「心得た!」
見慣れた彼らよりも数段煌めきが増したアメシストとシトリンが私の両脇に出現。
アメシストが結界を作って魔物の火炎放射を無効化し、炎を避けるために高く跳躍したシトリンが鉱物の剣を構えて魔物の首を斬り落とした。
魔物は瞬時に霧散する。
「あはは。呪文、使えなかったねえ」
「苦労して考えた呪文ですけど、しょせんはおまじないなので気にしませんよ」
アメシストに言われて、私は肩をすくめて返す。
そう、呪文なんてなくても、石に込められた精霊と意思疎通ができれば鉱物人形の正式な契約はできる。召喚に必要なのは、彼らとの対話と従えるだけの強い魔力だ。
私はペンダントトップに加工された紫黄水晶とは話ができる状態なので、精霊に呼びかけて魔力を流せば再召喚は容易なのである。精霊に好かれていない場合はこんなに簡単には呼べないのだから、ふたりは特別だ。
0
気軽に感想をどうぞ( ´ ▽ ` )ノノΞ❤︎{活力注入♪)
お気に入りに追加
48
あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

酒の席での戯言ですのよ。
ぽんぽこ狸
恋愛
成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。
何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。
そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。

好きでした、さようなら
豆狸
恋愛
「……すまない」
初夜の床で、彼は言いました。
「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」
悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。
なろう様でも公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる