婚約者に逃げられて精霊使いになりました〜私は壁でありたいのに推しカプが私を挟もうとします。〜

一花カナウ

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5:清算のためにすべきこと

迎えに来たよ

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※※※※※


 肌を撫でる風が熱い。
 大型の魔物が三体ほど、屋敷の中を探るように動いている。
 瓦礫が溢れている中、人影を発見してルビに指示する。彼のそばに寄せてもらい、私は声をかける。

「オズリックさま」
「お前さん……」
「ここは危険です。建物が崩れてくる範囲内ではありませんか」

 地面に降り立った私の肩を、オズリックは強く掴んだ。すごく怒っている。

「どうして出てきたんだ? あれらの標的はお前さんじゃないか。あのシェルターの中なら、魔力も感知されることもない。安全だったんだ。なのに」

 特注品だったのかもしれない。《聖女》の特性を理解して準備していたものなのだろう。

「それでも、この問題は私が私の力で解決しないと意味がないんです。私が逃げ回っていたのでは、また誰かが犠牲になってしまう。ですから、ここで終わらせます」

 魔物たちに気づかれたようだ。向けられる殺気にルビがいち早く反応して、私とオズリックの腕を引いて後退。そこを炎がひと薙ぎした。
 間一髪。
 どうも魔物の中に炎を吐き出せる個体がいるようだ。

「――ジュエル。迎えにきたよ」

 てっきり声をかけてくるのはステラだろうと思っていたのに、炎を背景に立っていたのはルシウスだった。隣には両腕のない星条青玉の鉱物人形・ステラがいる。

「兄さま」
「婚約は白紙に戻ったんだ。こんな場所にはもう用事はないだろう?」
「ですから、乱暴な真似はよくないとお伝えしたではありませんか」

 私はオズリックをルビに預けて、ルシウスと対峙した。

「我が愛し子。貴女が逃げ回るから、こうして脅さねばならなくなったではありませんか」
「逃げていないです。それに、こんな大掛かりなことをなさるのは、騒ぎを起こしてどさくさに紛れて私の死体をでっち上げようって魂胆でしょう? 私の所有権を握ろうと、画策していることは自明です」

 ステラの呼びかけにも私は毅然と返す。

「おおかた、私をあの組織に差し出せば、いい役職を与えるなどという低俗な約束でもなさっているんではありませんか? そうやって、私をモノとして扱いたいのでしょう?」

 私は、誰のものでもない私のものだ。誰かに身を任せるのではなく、自分で決めて自分で責任を取って、自分で前に進みたいとやっと思えたのだ。
 脅かされてなるものか!

「ああ、そうだよ、ジュエル。だからお前のことが大事なんじゃないか」
「そんな考え方だから、いつまでも家督を継げないんじゃないですか⁉︎ いい年齢でありながら、代行にしかなれないんですよ」
「ジュエルに何がわかる⁉︎ ようやく自分の手で掴めるんだ。立場と名声を。それに乗らない手などないだろう?」
「肉親の命を差し出しておいてよく言いますね。ほんっと、最低。そうやって、私の姉も嵌めたんですか?」

 私の指摘にルシウスが怯んだ。
 私とルシウスは歳が離れている。その差は十二。その理由を知る機会はずっとなかったのだが、セレナに自分の魔力の由来を調べてもらって告げられたのだ。私には姉がいたことを。

「私がたくさんの魔力を保有しているのは姉さまの魔力も持っているからなんですって」

 そう説明し、私はルシウスに侮蔑の気持ちを込めて笑った。

「自分の魔力にするつもりでいらしたのでしょう? 当てが外れただけでなく、私がこういう体質だったから、ずっと恨んでいらっしゃったのよね」
「そ、それは違う」
「あともう一つ。ステラは兄さまの味方にはならないわ。ステラは私が国の結界になることを望んでいないもの。あなたを裏切るって断言するわ」

 ステラは私の言葉には動じず、黙ってこちらを見ている。

「兄さま。あなたはもう負けを認めて、私の前から消えなさい。私もあなたの前に姿を見せないと誓いますから」
「うるさい! 僕の前から消えるのはお前のほうだ!」

 魔物が動く。
 ステラがそれよりも一瞬早く動いて、私の前に結界を張った。
 衝撃波があたりを削る。
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