婚約者に逃げられて精霊使いになりました〜私は壁でありたいのに推しカプが私を挟もうとします。〜

一花カナウ

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5:清算のためにすべきこと

シェルターの前で

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「オズリックさま」

 シェルターの入り口にオズリックの姿があった。私が思わず声をかけると、彼は驚いたような顔をした。

「無事だったか」
「はい、皆さんの誘導が的確でしたので」
「屋敷が半壊して燃えていると報告が入ったから、間に合ってよかった」

 その発言に、私はヒヤッっとした。大きな物音も特になかったので、そんな大変なことになっているとは思いもしなかったのだ。

「それで、なにが起きているのです? 魔物に襲われているのであれば、私も手を貸すことができますので」

 私が申し出れば、オズリックは苦い顔をした。

「魔物もいるが……厄介な者もついているようだ。お前さんはここで隠れているといい。頼らねばならないほど、僕は弱くないのだ」
「わ、私だって、今までのお人形だった頃とは違います! まだライセンスはもらえていないですけど、精霊使いとしての基礎は学んできました。私は戦えるようになったんです!」

 胸に手を当てて宣言する。
 有り余る力を保有していながら充分に扱えず、隔離されてきた頃の自分とは違う。私は私の意志でこの魔力を使えるようになったのだ。
 私は守りたい。

「ジュエルさん」

 オズリックは私に近づくなり、ふんわりと抱きしめてきた。私は目を丸くする。
 え、あ、なに?
 戸惑う私の耳元で、オズリックは告げる。

「僕はお前さんを失いたくないようだ」
「そう思っていただけるのは嬉しいのですけど……あの、私」
「彼女の代わりにお前さんを見つけたはずだったのだがな……情が移らぬようにと気をつけていたはずなのに、どうしてだろうなあ」

 彼女?
 なんの話をしているのだろうと思案していたのがよくなかった。
 オズリックに突き飛ばされてシェルターの奥に入れられると、扉が閉められてしまった。

「ちょっ⁉︎」

 シェルターには数人の使用人がいる。オズリックとスタールビーは外だ。

「だ、出してください! 私はっ!」

 扉を叩くが反応がない。スタールビーが扉を開けてくれるんじゃないかと期待したが、何度強く叩いても変わらなかった。

「……どうして」

 私は泣き崩れる。
 精霊使いの仕事は魔物の脅威から一般市民を守ることだ。魔物の襲撃を受けているのであれば、私が鉱物人形に命じて戦闘を指示するのがセオリーのはずだ。どうして止められないといけないのだろう。
 なんのために精霊使いになったのか、わからなくなっちゃうじゃない。
 シクシク泣く私に使用人の一人が近づいてきて、肩に手を置いた。

「ジュエルお嬢さま」

 優しい女性の声はだいぶ年配の人のものに感じられた。
 私はゆっくり顔を上げて彼女の顔を見る。
 この人は確か……私が訪ねるたびにそばについていてくれた女性よね?

「オズリックさまは、あなたを同じ目に遭わせたくない一心でこちらに案内したのですよ。ここは安全です。静かにお待ちくださいませ」
「ですが、私は精霊使いなのです。魔物から市民を守るのが私の仕事なんですよ。ここで隠れているわけにはいかないの」
「ジュエルお嬢さま。オズリックさまを悲しませないでください」
「私は必ず勝利します」
「そういうことではないのです!」

 怒鳴られて、私はビクッと震えた。
 彼女はじっと私を見つめた。

「――オズリックさまは精霊使いを憎んでいらっしゃいます。かつて、恋人を奪われてしまったから。ジュエルお嬢さまとお付き合いされるようになったのは、恋人を取り戻すためでもありました。そのあなた様が、精霊使いになられたのを、オズリックさまは快く思っていないでしょう」
「恋人……?」

 パチっとパズルのピースがはまったような気がした。


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