婚約者に逃げられて精霊使いになりました〜私は壁でありたいのに推しカプが私を挟もうとします。〜

一花カナウ

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5:清算のためにすべきこと

招かれざる客

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「あの、それはどういう」
「ご想像にお任せしよう」

 そんなやり取りをしている間にデザートが運ばれてきた。ケーキとタルトが皿にのせられている。
 私がお皿に気を取られていると、オズリックに使用人の一人が耳打ちをした。頷いて、難しい顔を一度見せ、すっと立ち上がる。

「すまないな。急用で少し席を外す。食後のお茶が運ばれるまでには戻るから、晩餐を楽しんでいってくれ」
「は、はい」

 なにがあったのだろう。私はオズリックを見送った。
 途中で退室すること自体はよくあることだ。私とオズリックの間では珍しくはない。

「……忙しい男だな」
「置き去りにされるのは日常茶飯事ですよ、私」
「それはどうなんだ?」
「いちいち気にしていられませんよ」

 スタールビーの感想に私は自分の感想を告げる。

「言及を避けるために逃げたんじゃないのか?」
「どうでしょうね。――私の好みを誰から聞き出したのかって、ツッコまれたくない内容でしょうか」

 ひと口分に切り分けて、ケーキを食べる。しっとりしたスポンジにさっぱりした甘さのクリームが美味しい。私の好きな味だ。

「そもそも、私の好みを把握していそうな人物って少ないんですよ。ずっと監視していたステラを除くと、使用人も私のことなんて興味はなかったでしょうし、家族もそう。そもそも、嫌いなものとか苦手なものって少なくて、好みを明言したこともなかったんじゃないかしら」

 好き嫌いをしていたら食事が無くなりかねなかったという理由もある。結果、私は肉も魚も野菜もよく食べる子に育った。薄味でも濃いめでも、甘くても辛くてもきちんと食べる。表情や態度に気持ちが出やすいらしいとはいえ、好みの味がなんなのか把握するのは難しいのではないだろうか。

「そうだな。君を見ていても食事の好みはわからないかもしれん」
「社交の場に出ることもないですし、これまでオズリックさまと食事をしていた時もこの土地のものばかりだったから……ああ、それはそれでとても美味しかったんですよ。はじめての晩餐のとき、緊張で味がよくわからなかったのを思い返すたびに悔しく思っていたんですから。だから、私――」

 ケーキの最後のひと口を口の中に含んで、何かが意識に引っかかった。
 スタールビーが作ってくれた料理のこと。
 スタールビーが明かした、本当の契約者のこと。
 あれ、もしかして。
 ケーキを飲み込んで、私はスタールビーを見る。確認の言葉を告げる前に、館全体に警報音が鳴り響いた。

「なにごと?」

 スタールビーに持たせていた通信機も鳴って、彼は耳を当てる。

「――なるほど、了解」
「関連がある情報だったりします?」
「あるだろうな。……ステラが脱走したらしい」

 ルシウスがこの屋敷を襲わなくとも、ステラが襲ってくる可能性は充分にある。

「鉱物人形って、契約者の位置がわかるんでしたっけ?」
「そうだな。レベルによるがある程度は絞り込めるはずだ」
「ということは、のんきにしていたら危ないですよね……」
「そういうことだ」

 日頃から避難訓練が実施されているのだろう。使用人たちが速やかに避難行動を始めている。立ち上がった私たちに対しても誘導をしてくれた。

「――襲撃してきたのがステラだとして、狙いは私でしょうか?」
「さあ、どうだろうな」

 避難用のシェルターは別館にもあるとのことだったが、今回は攻撃を受けた場所から近過ぎるという事情で使えないため、本館に移動することになったらしい。地下通路を移動して、私たちは本館に案内された。
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