婚約者に逃げられて精霊使いになりました〜私は壁でありたいのに推しカプが私を挟もうとします。〜

一花カナウ

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5:清算のためにすべきこと

元婚約者とお食事を。

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※※※※※


 セレナとの通信のあと、私たちはオズリックと食事をすることになった。応接室から広間に移動すると、食事の準備ができている。

「オズリックさま、本当は私たち以外のどなたかと夕食のご予定でもあったのではありませんか?」

 あまりにもトントンと話が進むので、私は思わず疑問を口にする。彼には歓迎されていないと思っていたから、なおさら引っかかる。

「お前さんはそう思うかい?」

 オズリックは私の後ろに回りながらからかうように笑った。

「だって、私と会っていてもあなたはいつだって自分のこと中心で、会食は完全に外向けのパフォーマンスだったではありませんか」

 これまで指一本触れようともしなかった。それなのに今日の態度はなんだというのだろう。
 いや、別に私は彼と触れ合いたかったわけではない。冷たい態度を取られても、家でもそういう接し方をされてきたわけで、生かしてもらえているだけでいいかと受け入れるつもりでいたくらいだ。お飾りでいいというなら飾りでいようと構えていたわけで、この変化は戸惑ってしまう。

「そうだな。距離を取るようにはしていた」

 私が座るべき椅子を、オズリック自らが引いてくれる。ここには使用人もスタールビーもいるわけで、彼がそうするべきではないのに。
 距離が異様に近い。断るのもタイミングが難しく、使用人たちもたしなめるようなことはしなかったので、私はおとなしく腰を下ろす。
 オズリックの身体が近づいて、彼のオーデコロンがふわりと香った。

「――だが、これからは口説いても許されるからなあ」
「は、はい?」

 耳元で囁くように告げられて、私はびっくりする。聞き間違いかと思って彼の顔のほうを向けば、想像以上に近くに整った顔があって言葉を失う。
 綺麗な顔も可愛らしい顔も見慣れているつもりではあるけど……大人の魅力は、ちょっと……
 しまったな、と思った。異性として意識をする経験がなかったからオズリックとのデートを淡白にこなしていたわけで、そういうつもりで見られたり見たりするのは免疫がない。
 それにしても、どうしてこの人は独身なんだ? 私みたいな田舎の小娘を口説くくらいなら、もっとよい条件の娘はいるだろうに。
 異性として意識してしまうと動けなくなりそうだったので、他のことを考えるようにする。
 ん? そうか。会うのも最後だから、からかってやろうって魂胆かしら? 特殊な事情もなくなったから、そういう意趣返し的な感じで。

「……俺は席を外したほうがいいか?」

 私たちの一連のやり取りを見て、スタールビーが声をかけてくる。
 私は首を横に振った。

「る、ルビーさんは一緒にいて下さい!」
「ほう。仮の御付きはずいぶんと気がきくじゃないか。ステラは絶対に離れなかったからなあ」

 愉快げにオズリックは笑い、自分のための席に歩いていく。

「オズリックさまが私に冷たい態度をとっていらしたのって、ステラのせいだったのですか?」
「ははは。どうだろうなあ」

 席に座って、オズリックはスタールビーに座るように手で指示した。スタールビーは躊躇するような仕草をしたが、小さく息を吐き出して椅子に座った。
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