婚約者に逃げられて精霊使いになりました〜私は壁でありたいのに推しカプが私を挟もうとします。〜

一花カナウ

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5:清算のためにすべきこと

無駄に長生きしているからな

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「……よかったのか?」
「別に話をすることもないので」

 結局、駅まで走ってもらった。ここからならタクシーも借りられよう。人も多くて少し目立ってしまったが、別にじろじろ見られようとどうとも思わない。かえって堂々としておいたほうが人間は興味を失うらしいということは学んでいた。

「兄だろ、彼は」
「血のつながりしかない相手ですよ」
「オズリック氏のところに行くにあたって、心配していたんだと思うが」
「ああ、スタールビーさんが情報を流した犯人ですか?」

 私が尋ねると、スタールビーは面倒くさそうな顔をした。

「犯人呼びはやめろよ。……動くときは連絡しろと言われていたからな」
「知り合いのくせに、初対面を演じていたんです?」
「直接会ったのは初めてだ。連絡先は知っているし通信は何度かあるが、写真でしか顔は知らない」

 そう説明されれば、そういうこともありえるだろうと納得できる。前に社交界の話題を振ってきたことがあったのを思うに、スタールビーがルシウスを遠目に見かけていた可能性はありそうだが、接点はなかったという話だろう。
 私は大きく息を吐き出した。

「……ほんと、あなた、顔が広いんですね」
「無駄に長生きしているからな」
「また、無駄とかいう……」

 私と似ていると意識するようになってから、彼が選ぶ言葉に引っかかるようになった。自分も選びがちな否定的な言葉を私はついつい拾ってしまう。
 私がむすっとすると、スタールビーは不満げな顔をした。

「無駄だって言いたくなるだろ。兵器として生まれたのに、兵器として活躍できず人間の真似事を続けているんだから」
「それはあなたの意志であり、マスターの意志でもあるのでしょう?」
「ああ」
「ならば、無駄だと言い切るのはよくないですよ。選んだんですから。選べなかった私より、有意義であるはずです」

 彼の顔を指差して指摘すれば、彼はすぐに私の指先を握って下げさせた。

「それは君の願望であって、俺の現実じゃない」
「そうですかね?」

 同意できない。私が睨んでいると、スタールビーははあっと大きなため息をついた。

「とにかく、目的地に急ぐぞ。人間の多いところで襲撃されたら厄介だ」

 念のためといった様子で周囲を見渡している。妙な気配は感じないので、近くにはなにも異常はないだろう。

「襲撃される可能性はあるんですね……」

 憂鬱だが、自分の置かれている状況としては襲撃されることは十分にあり得る。

「俺と君がどこで出会ったのか覚えていないのか?」
「忘れてはいないですよ」

 私は肩をすくめておどけてみせた。
 そうだ、あのときの魔物はたくさんの命を奪ったのだ。忘れてはならない。

「なら、先へ、だ」
「はーい」

 私たちは次の行動に移る。
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