93 / 123
5:清算のためにすべきこと
無駄に長生きしているからな
しおりを挟む
「……よかったのか?」
「別に話をすることもないので」
結局、駅まで走ってもらった。ここからならタクシーも借りられよう。人も多くて少し目立ってしまったが、別にじろじろ見られようとどうとも思わない。かえって堂々としておいたほうが人間は興味を失うらしいということは学んでいた。
「兄だろ、彼は」
「血のつながりしかない相手ですよ」
「オズリック氏のところに行くにあたって、心配していたんだと思うが」
「ああ、スタールビーさんが情報を流した犯人ですか?」
私が尋ねると、スタールビーは面倒くさそうな顔をした。
「犯人呼びはやめろよ。……動くときは連絡しろと言われていたからな」
「知り合いのくせに、初対面を演じていたんです?」
「直接会ったのは初めてだ。連絡先は知っているし通信は何度かあるが、写真でしか顔は知らない」
そう説明されれば、そういうこともありえるだろうと納得できる。前に社交界の話題を振ってきたことがあったのを思うに、スタールビーがルシウスを遠目に見かけていた可能性はありそうだが、接点はなかったという話だろう。
私は大きく息を吐き出した。
「……ほんと、あなた、顔が広いんですね」
「無駄に長生きしているからな」
「また、無駄とかいう……」
私と似ていると意識するようになってから、彼が選ぶ言葉に引っかかるようになった。自分も選びがちな否定的な言葉を私はついつい拾ってしまう。
私がむすっとすると、スタールビーは不満げな顔をした。
「無駄だって言いたくなるだろ。兵器として生まれたのに、兵器として活躍できず人間の真似事を続けているんだから」
「それはあなたの意志であり、マスターの意志でもあるのでしょう?」
「ああ」
「ならば、無駄だと言い切るのはよくないですよ。選んだんですから。選べなかった私より、有意義であるはずです」
彼の顔を指差して指摘すれば、彼はすぐに私の指先を握って下げさせた。
「それは君の願望であって、俺の現実じゃない」
「そうですかね?」
同意できない。私が睨んでいると、スタールビーははあっと大きなため息をついた。
「とにかく、目的地に急ぐぞ。人間の多いところで襲撃されたら厄介だ」
念のためといった様子で周囲を見渡している。妙な気配は感じないので、近くにはなにも異常はないだろう。
「襲撃される可能性はあるんですね……」
憂鬱だが、自分の置かれている状況としては襲撃されることは十分にあり得る。
「俺と君がどこで出会ったのか覚えていないのか?」
「忘れてはいないですよ」
私は肩をすくめておどけてみせた。
そうだ、あのときの魔物はたくさんの命を奪ったのだ。忘れてはならない。
「なら、先へ、だ」
「はーい」
私たちは次の行動に移る。
「別に話をすることもないので」
結局、駅まで走ってもらった。ここからならタクシーも借りられよう。人も多くて少し目立ってしまったが、別にじろじろ見られようとどうとも思わない。かえって堂々としておいたほうが人間は興味を失うらしいということは学んでいた。
「兄だろ、彼は」
「血のつながりしかない相手ですよ」
「オズリック氏のところに行くにあたって、心配していたんだと思うが」
「ああ、スタールビーさんが情報を流した犯人ですか?」
私が尋ねると、スタールビーは面倒くさそうな顔をした。
「犯人呼びはやめろよ。……動くときは連絡しろと言われていたからな」
「知り合いのくせに、初対面を演じていたんです?」
「直接会ったのは初めてだ。連絡先は知っているし通信は何度かあるが、写真でしか顔は知らない」
そう説明されれば、そういうこともありえるだろうと納得できる。前に社交界の話題を振ってきたことがあったのを思うに、スタールビーがルシウスを遠目に見かけていた可能性はありそうだが、接点はなかったという話だろう。
私は大きく息を吐き出した。
「……ほんと、あなた、顔が広いんですね」
「無駄に長生きしているからな」
「また、無駄とかいう……」
私と似ていると意識するようになってから、彼が選ぶ言葉に引っかかるようになった。自分も選びがちな否定的な言葉を私はついつい拾ってしまう。
私がむすっとすると、スタールビーは不満げな顔をした。
「無駄だって言いたくなるだろ。兵器として生まれたのに、兵器として活躍できず人間の真似事を続けているんだから」
「それはあなたの意志であり、マスターの意志でもあるのでしょう?」
「ああ」
「ならば、無駄だと言い切るのはよくないですよ。選んだんですから。選べなかった私より、有意義であるはずです」
彼の顔を指差して指摘すれば、彼はすぐに私の指先を握って下げさせた。
「それは君の願望であって、俺の現実じゃない」
「そうですかね?」
同意できない。私が睨んでいると、スタールビーははあっと大きなため息をついた。
「とにかく、目的地に急ぐぞ。人間の多いところで襲撃されたら厄介だ」
念のためといった様子で周囲を見渡している。妙な気配は感じないので、近くにはなにも異常はないだろう。
「襲撃される可能性はあるんですね……」
憂鬱だが、自分の置かれている状況としては襲撃されることは十分にあり得る。
「俺と君がどこで出会ったのか覚えていないのか?」
「忘れてはいないですよ」
私は肩をすくめておどけてみせた。
そうだ、あのときの魔物はたくさんの命を奪ったのだ。忘れてはならない。
「なら、先へ、だ」
「はーい」
私たちは次の行動に移る。
0
気軽に感想をどうぞ( ´ ▽ ` )ノノΞ❤︎{活力注入♪)
お気に入りに追加
48
あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

酒の席での戯言ですのよ。
ぽんぽこ狸
恋愛
成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。
何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。
そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる