婚約者に逃げられて精霊使いになりました〜私は壁でありたいのに推しカプが私を挟もうとします。〜

一花カナウ

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5:清算のためにすべきこと

どなたの情報ですか?

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「――私がこちらに来ているというのはどなたからの情報なのですか?」

 兄の笑顔が冷たくなった。

「それはどういう意味かな?」

 実家からだと即答しなかったあたり、自分がミスしたことに気づいたのだろう。
 元婚約者から実家に連絡が行っている可能性が全くないわけではないが、私は早朝の始業前にオズリックへと連絡を入れているので、さっきまで会議だったという兄に連絡が行っているのは不自然な気がする。
 となると、兄はオズリックから直接情報を得たか、あるいは精霊管理協会の誰かから情報をもらったことになると思うのだが。

「いえ。お忙しいオズリックさまとはこっそり会うつもりで、急遽こちらに参ったものですから」

 あまり自分の情報は明かせない。肉親ではあるのだが、この人は信用できないのだ。私を売った人だろうから。

「…………」
「お兄さまにご迷惑をお掛けするわけにはいきませんので、私は自分で足を探します」

 黙り込んでしまったルシウスに一礼して離れようとしたところで、手首を掴まれた。金剛石と紅玉があしらわれたブレスレットが揺れる。

「お兄さま、乱暴はよくないと思います」
「どうしてお前は僕を避けようとするんだ?」
「信用していないんですよ! わかりませんか? 私が助けを求めていたとき、あなたは何もしてくれなかった! いいじゃないですか、私なんてあなたの邪魔でしかないのですから!」

 なんとか振り切って、私はスタールビーの腕の中におさまった。これで手出しをしてくるなら、精霊管理協会の誰かを呼ぼう。

「ジュエル……」
「兄さま、ごきげんよう。私は家に戻りませんし、結婚もしません。これまでご迷惑をおかけしました」

 私はスタールビーの手を引いて歩き出す。
 ルシウスが不器用で立ち回りが下手であることはなんとなく察している。一方で、ルシウスが私を同じ人間だと思っていないこともなんとなくわかっていた。歳が離れ過ぎていることも原因の一つなのだろうけれど、特殊な魔力を持って生まれたことで畏怖したり危機感を覚えたりしたのだろう。
 ふつうの子どもだったら、仲良くできたのだろうか。
 少し想像してみたが、仲良くなれそうにないと判断した。家を継ぐのは兄だと決まっていたが、それが覆る可能性が少しでもあるなら、小心者の兄は排除しようと画策したと思えたからだ。

「ジュエル」

 私を呼ぶ声。でも私は振り返らない。

「行かないでくれ。僕はお前を大事に思っているんだ」

 その言葉を嘘だと思わない。
 私は立ち止まって、顔だけ彼に向けた。

「いいですか、お兄さま。私は誰かの可愛いお人形でも煌びやかな宝石でもないのです。私は一個人の人間で、結婚することも仕事を得ることもできる大人になりました。案じてくださったことには感謝いたしますが、私は私の問題を解決に行くだけですのでどうかお気になさらず」

 あの車に乗ってはいけない。また閉じ込められるに決まっている。私はあの人に会って真相を聞きださないといけないのだから、もう寄り道はしてられない。

「ジュエル!」
「ルビー、私を抱えて走って」
「はあ……了解、お嬢さん」

 スタールビーに命じて、横抱きにしてもらうと一気に加速した。
 ルシウスは追ってこなかった。
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