婚約者に逃げられて精霊使いになりました〜私は壁でありたいのに推しカプが私を挟もうとします。〜

一花カナウ

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5:清算のためにすべきこと

出発準備

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※※※※※


 とても静かだ。
 ここ数日、鉱物人形に囲まれて生活をしてきたから、この静けさが懐かしいくらいである。
 よくよく考えてみたら、この静かな状態こそが私の日常だった。
 口うるさいステラに常に監視されているといっても、私が彼の望むように行動をしていれば干渉してはこない。ステラ以外の人間――それこそ家族ですら滅多に会わず、使用人と会っても必要最低限のやり取りだけ。ずっと孤独に生活してきた。
 それをさみしいと感じたことはない。そういうものだと思って過ごしてきた。
 私は物言わぬ駒。家族の役に立てれば生まれてきた意味もあるからと言い聞かされて育てられたし、それ以外の希望も特になかった。私は私の知る閉じられた世界しか知らなかったから、外の世界に憧れることもなかったのだ。
 そんな私は、外に出てようやく自分の足で進むことを決意した。これまでの私と決別するために対峙することを選ぶ。

「……いいのか、お嬢さん」

 私に割り当てられた部屋。
 身を着飾って準備が整ったところで、スタールビーが話しかけてきた。

「スタールビーさんはなにを迷っていらっしゃるんですか? もう決めたことではありませんか」
「それは……そうなんだが」

 歯切れの悪い言い方にイラッとして、私はスタールビーにつかつかと歩み寄った。じっと下から睨みつけてやる。

「なんです? まだ何か隠し事でもあるのですか?」
「概ね白状したぞ。聞かれていないことまでは喋っていないが、それだけだ」

 両手を肩の位置に上げて降参を示す。私はなおも彼の顔に自身の顔を近づけた。

「では、私の作戦に不満でも? それとも、不備があることに気づいた、とかでしょうか?」
「うまくいく保証はないが、賭けをするには悪くないとは思っている。最悪の場合、俺が引き受ければいいし」

 またそういう言い方をする、と私はむっとした。
 でも、自分が犠牲になれば丸く済むからと考えがちな点は私にも当て嵌まるので強く責められない。
 
「そういう事態にはさせませんよ」
「どうなるかなんてわからないだろう?」
「気にしすぎたら動けませんよ」

 ポンっと胸を叩いてやる。スタールビーは苦笑した。

「そんなに行動力があるのに、どうしてこれまで周囲に対して反抗して来なかったのか不思議だな」

 その指摘には私は苦笑いせずにはいられなかった。従順な振りをしてやり過ごしたかっただけでは説明できない。
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