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4:私の選択
罠に嵌めたつもりはないのよ?
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※※※※※
スタールビーを食堂に連行すると、そこには精霊管理協会本部に戻っているはずのセレナがいた。
「……ええ?」
にこやかに手を振られて、私は驚いた。彼女は制服を着ていて、私たちのように寝起きというわけではなさそうだ。
いつからそこにいたのだろう。外はまだ暗いし、時間帯は明け方というよりもまだまだ深夜なのだが。
「天啓があって、飛んできたの。通信機を使うと傍受されちゃうでしょ?」
「天啓……」
スタールビーがセレナの言葉に諦めたような表情を浮かべた。
「知らず知らずのうちに誘導されていたってことか」
「ごめんなさいね。別に罠に嵌めたつもりはないのよ?」
セレナとスタールビーのやり取りを聞いていると、天啓だと告げたのが本当なのか冗談なのかわからなくなる。見えないところで高度な駆け引きがされていたのだろうか。
真相がわかるかと思ってオパールに目を向けると、彼もまた呆れるような表情を浮かべていた。この顔を見るに、よくあることなのかもしれない。
「俺はなにをミスしたんだ?」
「うふふ。ミスってほどじゃないの。ただ、あなた、月長石を持ち歩いているでしょう?」
「ああ。仲間にいたからな」
その指摘に、スタールビーはそれがどうしたのだという顔をする。セレナはニコニコしながら、立てた人差し指を口元に当てた。
「月長石って、夢に干渉できる石だから、ね。本気でジュエルさんの心配をしているなら、あなたはその石を貸し出すんじゃないかって思うのよ。それをしないってことは、あなたがその石を使っているってことかなあって」
確かに!
私は納得した。スタールビーは身を守るようにとルビとダイヤを渡してきたし、予知の力を使うために月長石はお勧めだと告げたこともあったのを思い出す。彼が月長石を持っているのも明らかなのだ。
石の性質や効能を知っていたのに私は見落としていたのだ。
「なるほどなあ……」
「鉱物人形が他の石の力を引き出せるかどうかは不明な点が多いけれど、元鉱物人形だった石で、意思疎通が可能であればできないことはないんじゃない?」
セレナの解説に、スタールビーは項垂れた。概ね指摘の通りなのだろう。
「大した推理だな……」
「詳細はあとで聞かせてもらうわ」
「そうだな……今の本題はそこじゃない、だろ?」
スタールビーに促されて、私とセレナは頷いた。
ここに集まったのは悪夢を発生させるメカニズムの話をしたかったからではなく、どうしてスタールビーが私に危害を加えようとしていたのかについてを聞き出すためだ。
「そうだな。話は長くなるんだろう? お茶の準備が整ったぜ」
セレナにスタールビーを引き渡して席を外していたオパールが厨房からティーセットを持って戻ってきた。人数分のカップが用意されている。
「長話をするつもりはないんだが……聞き出したいことがたくさんあるということか」
テーブルにお茶を入れたカップを並べるオパールを見ながら、スタールビーがため息をついた。
「そう嫌そうな顔をしないでください、スタールビーさん。答え合わせもしていきたいところではありますけど、このまま防戦一方では長期戦になってしまいます。私の成長を待っていただくのもいいのですが、時間をかければかけるほどおそらく不利になる。あなたの身体の負担も軽減したいですし、悠長なことはしていられないでしょう」
私はスタールビーの前に回り込んで、彼の顔をじっと見つめる。彼は目を瞬いた。
「ずいぶんと頼もしい言い方で迫ってくるが、何か妙案でもあるのか?」
「ええ、ありますよ。とっておきの方法が」
「ふぅん?」
「なので、まずはお話してください。あなたの抱えている任務と事情を、話せる範囲で。私が、私の問題を片付けるついでにあなたも救ってみせますから」
私は自分の胸をポンと叩いて言い切った。
一瞬ポカンとして、スタールビーはふっと懐かしそうに笑う。
「……本当に、お嬢さんはあの人にそっくりだ」
スタールビーはポツポツと昔語りを始める。自分が誰の鉱物人形で、今どんな状況に置かれているのか、そして、これからどうしたいのかを。
スタールビーを食堂に連行すると、そこには精霊管理協会本部に戻っているはずのセレナがいた。
「……ええ?」
にこやかに手を振られて、私は驚いた。彼女は制服を着ていて、私たちのように寝起きというわけではなさそうだ。
いつからそこにいたのだろう。外はまだ暗いし、時間帯は明け方というよりもまだまだ深夜なのだが。
「天啓があって、飛んできたの。通信機を使うと傍受されちゃうでしょ?」
「天啓……」
スタールビーがセレナの言葉に諦めたような表情を浮かべた。
「知らず知らずのうちに誘導されていたってことか」
「ごめんなさいね。別に罠に嵌めたつもりはないのよ?」
セレナとスタールビーのやり取りを聞いていると、天啓だと告げたのが本当なのか冗談なのかわからなくなる。見えないところで高度な駆け引きがされていたのだろうか。
真相がわかるかと思ってオパールに目を向けると、彼もまた呆れるような表情を浮かべていた。この顔を見るに、よくあることなのかもしれない。
「俺はなにをミスしたんだ?」
「うふふ。ミスってほどじゃないの。ただ、あなた、月長石を持ち歩いているでしょう?」
「ああ。仲間にいたからな」
その指摘に、スタールビーはそれがどうしたのだという顔をする。セレナはニコニコしながら、立てた人差し指を口元に当てた。
「月長石って、夢に干渉できる石だから、ね。本気でジュエルさんの心配をしているなら、あなたはその石を貸し出すんじゃないかって思うのよ。それをしないってことは、あなたがその石を使っているってことかなあって」
確かに!
私は納得した。スタールビーは身を守るようにとルビとダイヤを渡してきたし、予知の力を使うために月長石はお勧めだと告げたこともあったのを思い出す。彼が月長石を持っているのも明らかなのだ。
石の性質や効能を知っていたのに私は見落としていたのだ。
「なるほどなあ……」
「鉱物人形が他の石の力を引き出せるかどうかは不明な点が多いけれど、元鉱物人形だった石で、意思疎通が可能であればできないことはないんじゃない?」
セレナの解説に、スタールビーは項垂れた。概ね指摘の通りなのだろう。
「大した推理だな……」
「詳細はあとで聞かせてもらうわ」
「そうだな……今の本題はそこじゃない、だろ?」
スタールビーに促されて、私とセレナは頷いた。
ここに集まったのは悪夢を発生させるメカニズムの話をしたかったからではなく、どうしてスタールビーが私に危害を加えようとしていたのかについてを聞き出すためだ。
「そうだな。話は長くなるんだろう? お茶の準備が整ったぜ」
セレナにスタールビーを引き渡して席を外していたオパールが厨房からティーセットを持って戻ってきた。人数分のカップが用意されている。
「長話をするつもりはないんだが……聞き出したいことがたくさんあるということか」
テーブルにお茶を入れたカップを並べるオパールを見ながら、スタールビーがため息をついた。
「そう嫌そうな顔をしないでください、スタールビーさん。答え合わせもしていきたいところではありますけど、このまま防戦一方では長期戦になってしまいます。私の成長を待っていただくのもいいのですが、時間をかければかけるほどおそらく不利になる。あなたの身体の負担も軽減したいですし、悠長なことはしていられないでしょう」
私はスタールビーの前に回り込んで、彼の顔をじっと見つめる。彼は目を瞬いた。
「ずいぶんと頼もしい言い方で迫ってくるが、何か妙案でもあるのか?」
「ええ、ありますよ。とっておきの方法が」
「ふぅん?」
「なので、まずはお話してください。あなたの抱えている任務と事情を、話せる範囲で。私が、私の問題を片付けるついでにあなたも救ってみせますから」
私は自分の胸をポンと叩いて言い切った。
一瞬ポカンとして、スタールビーはふっと懐かしそうに笑う。
「……本当に、お嬢さんはあの人にそっくりだ」
スタールビーはポツポツと昔語りを始める。自分が誰の鉱物人形で、今どんな状況に置かれているのか、そして、これからどうしたいのかを。
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