87 / 123
4:私の選択
罠に嵌めたつもりはないのよ?
しおりを挟む
※※※※※
スタールビーを食堂に連行すると、そこには精霊管理協会本部に戻っているはずのセレナがいた。
「……ええ?」
にこやかに手を振られて、私は驚いた。彼女は制服を着ていて、私たちのように寝起きというわけではなさそうだ。
いつからそこにいたのだろう。外はまだ暗いし、時間帯は明け方というよりもまだまだ深夜なのだが。
「天啓があって、飛んできたの。通信機を使うと傍受されちゃうでしょ?」
「天啓……」
スタールビーがセレナの言葉に諦めたような表情を浮かべた。
「知らず知らずのうちに誘導されていたってことか」
「ごめんなさいね。別に罠に嵌めたつもりはないのよ?」
セレナとスタールビーのやり取りを聞いていると、天啓だと告げたのが本当なのか冗談なのかわからなくなる。見えないところで高度な駆け引きがされていたのだろうか。
真相がわかるかと思ってオパールに目を向けると、彼もまた呆れるような表情を浮かべていた。この顔を見るに、よくあることなのかもしれない。
「俺はなにをミスしたんだ?」
「うふふ。ミスってほどじゃないの。ただ、あなた、月長石を持ち歩いているでしょう?」
「ああ。仲間にいたからな」
その指摘に、スタールビーはそれがどうしたのだという顔をする。セレナはニコニコしながら、立てた人差し指を口元に当てた。
「月長石って、夢に干渉できる石だから、ね。本気でジュエルさんの心配をしているなら、あなたはその石を貸し出すんじゃないかって思うのよ。それをしないってことは、あなたがその石を使っているってことかなあって」
確かに!
私は納得した。スタールビーは身を守るようにとルビとダイヤを渡してきたし、予知の力を使うために月長石はお勧めだと告げたこともあったのを思い出す。彼が月長石を持っているのも明らかなのだ。
石の性質や効能を知っていたのに私は見落としていたのだ。
「なるほどなあ……」
「鉱物人形が他の石の力を引き出せるかどうかは不明な点が多いけれど、元鉱物人形だった石で、意思疎通が可能であればできないことはないんじゃない?」
セレナの解説に、スタールビーは項垂れた。概ね指摘の通りなのだろう。
「大した推理だな……」
「詳細はあとで聞かせてもらうわ」
「そうだな……今の本題はそこじゃない、だろ?」
スタールビーに促されて、私とセレナは頷いた。
ここに集まったのは悪夢を発生させるメカニズムの話をしたかったからではなく、どうしてスタールビーが私に危害を加えようとしていたのかについてを聞き出すためだ。
「そうだな。話は長くなるんだろう? お茶の準備が整ったぜ」
セレナにスタールビーを引き渡して席を外していたオパールが厨房からティーセットを持って戻ってきた。人数分のカップが用意されている。
「長話をするつもりはないんだが……聞き出したいことがたくさんあるということか」
テーブルにお茶を入れたカップを並べるオパールを見ながら、スタールビーがため息をついた。
「そう嫌そうな顔をしないでください、スタールビーさん。答え合わせもしていきたいところではありますけど、このまま防戦一方では長期戦になってしまいます。私の成長を待っていただくのもいいのですが、時間をかければかけるほどおそらく不利になる。あなたの身体の負担も軽減したいですし、悠長なことはしていられないでしょう」
私はスタールビーの前に回り込んで、彼の顔をじっと見つめる。彼は目を瞬いた。
「ずいぶんと頼もしい言い方で迫ってくるが、何か妙案でもあるのか?」
「ええ、ありますよ。とっておきの方法が」
「ふぅん?」
「なので、まずはお話してください。あなたの抱えている任務と事情を、話せる範囲で。私が、私の問題を片付けるついでにあなたも救ってみせますから」
私は自分の胸をポンと叩いて言い切った。
一瞬ポカンとして、スタールビーはふっと懐かしそうに笑う。
「……本当に、お嬢さんはあの人にそっくりだ」
スタールビーはポツポツと昔語りを始める。自分が誰の鉱物人形で、今どんな状況に置かれているのか、そして、これからどうしたいのかを。
スタールビーを食堂に連行すると、そこには精霊管理協会本部に戻っているはずのセレナがいた。
「……ええ?」
にこやかに手を振られて、私は驚いた。彼女は制服を着ていて、私たちのように寝起きというわけではなさそうだ。
いつからそこにいたのだろう。外はまだ暗いし、時間帯は明け方というよりもまだまだ深夜なのだが。
「天啓があって、飛んできたの。通信機を使うと傍受されちゃうでしょ?」
「天啓……」
スタールビーがセレナの言葉に諦めたような表情を浮かべた。
「知らず知らずのうちに誘導されていたってことか」
「ごめんなさいね。別に罠に嵌めたつもりはないのよ?」
セレナとスタールビーのやり取りを聞いていると、天啓だと告げたのが本当なのか冗談なのかわからなくなる。見えないところで高度な駆け引きがされていたのだろうか。
真相がわかるかと思ってオパールに目を向けると、彼もまた呆れるような表情を浮かべていた。この顔を見るに、よくあることなのかもしれない。
「俺はなにをミスしたんだ?」
「うふふ。ミスってほどじゃないの。ただ、あなた、月長石を持ち歩いているでしょう?」
「ああ。仲間にいたからな」
その指摘に、スタールビーはそれがどうしたのだという顔をする。セレナはニコニコしながら、立てた人差し指を口元に当てた。
「月長石って、夢に干渉できる石だから、ね。本気でジュエルさんの心配をしているなら、あなたはその石を貸し出すんじゃないかって思うのよ。それをしないってことは、あなたがその石を使っているってことかなあって」
確かに!
私は納得した。スタールビーは身を守るようにとルビとダイヤを渡してきたし、予知の力を使うために月長石はお勧めだと告げたこともあったのを思い出す。彼が月長石を持っているのも明らかなのだ。
石の性質や効能を知っていたのに私は見落としていたのだ。
「なるほどなあ……」
「鉱物人形が他の石の力を引き出せるかどうかは不明な点が多いけれど、元鉱物人形だった石で、意思疎通が可能であればできないことはないんじゃない?」
セレナの解説に、スタールビーは項垂れた。概ね指摘の通りなのだろう。
「大した推理だな……」
「詳細はあとで聞かせてもらうわ」
「そうだな……今の本題はそこじゃない、だろ?」
スタールビーに促されて、私とセレナは頷いた。
ここに集まったのは悪夢を発生させるメカニズムの話をしたかったからではなく、どうしてスタールビーが私に危害を加えようとしていたのかについてを聞き出すためだ。
「そうだな。話は長くなるんだろう? お茶の準備が整ったぜ」
セレナにスタールビーを引き渡して席を外していたオパールが厨房からティーセットを持って戻ってきた。人数分のカップが用意されている。
「長話をするつもりはないんだが……聞き出したいことがたくさんあるということか」
テーブルにお茶を入れたカップを並べるオパールを見ながら、スタールビーがため息をついた。
「そう嫌そうな顔をしないでください、スタールビーさん。答え合わせもしていきたいところではありますけど、このまま防戦一方では長期戦になってしまいます。私の成長を待っていただくのもいいのですが、時間をかければかけるほどおそらく不利になる。あなたの身体の負担も軽減したいですし、悠長なことはしていられないでしょう」
私はスタールビーの前に回り込んで、彼の顔をじっと見つめる。彼は目を瞬いた。
「ずいぶんと頼もしい言い方で迫ってくるが、何か妙案でもあるのか?」
「ええ、ありますよ。とっておきの方法が」
「ふぅん?」
「なので、まずはお話してください。あなたの抱えている任務と事情を、話せる範囲で。私が、私の問題を片付けるついでにあなたも救ってみせますから」
私は自分の胸をポンと叩いて言い切った。
一瞬ポカンとして、スタールビーはふっと懐かしそうに笑う。
「……本当に、お嬢さんはあの人にそっくりだ」
スタールビーはポツポツと昔語りを始める。自分が誰の鉱物人形で、今どんな状況に置かれているのか、そして、これからどうしたいのかを。
0
気軽に感想をどうぞ( ´ ▽ ` )ノノΞ❤︎{活力注入♪)
お気に入りに追加
48
あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ
砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。
彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。
そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。
しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。
男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。
元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。
しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。
三話完結です。
君は妾の子だから、次男がちょうどいい
月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい
金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。
私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。
勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。
なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。
※小説家になろうさんにも投稿しています。

初夜に「君を愛するつもりはない」と夫から言われた妻のその後
澤谷弥(さわたに わたる)
ファンタジー
結婚式の日の夜。夫のイアンは妻のケイトに向かって「お前を愛するつもりはない」と言い放つ。
ケイトは知っていた。イアンには他に好きな女性がいるのだ。この結婚は家のため。そうわかっていたはずなのに――。
※短いお話です。
※恋愛要素が薄いのでファンタジーです。おまけ程度です。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

酒の席での戯言ですのよ。
ぽんぽこ狸
恋愛
成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。
何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。
そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~
紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。
※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。
※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。
※なろうにも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる