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4:私の選択
夢の世界、襲ってきたのは
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※※※※※
なるほどなあと、納得してしまった。
私が恐れているのがなんなのか、わかってしまったというか。
「――これは、夢、ですね」
天井を見上げながら呟いた。
私の服を脱がそうとしていた相手の動きが止まる。
「私に悪夢を見せて、どうしようっていうんですか? セレナさんをこの保養所から引き離したのも、私にターゲットを絞るためですね」
私の指摘に、相手は苦笑した。
彼は偽りの姿から本来の姿にゆっくりと変わっていく。
赤い髪、紅玉の瞳。その美しい瞳の中に三つの線が交わってできる星が見える。
「お嬢さんはよくわかってるなあ」
「あなたは私の兄とも面識があるのですか……いえ、意外ではないんですけども」
繋がりはあるのだろうとうっすら感じていた。
ステラと知り合いであったことを考えれば、まったく面識がないということもないからだ。
私は改めて彼を睨むように見据えた。
「スタールビーさん。気が変わりましたか?」
私を押し倒して襲おうとしていたのはスタールビーだった。気配からして、これはただの夢ではなく彼本体を経由している。
「君への協力は惜しまないつもりだが、俺にも都合があってな」
「人質でも取られているんですか? 鉱物たちは揃っているから、前のマスターの関係者、ですかね?」
「…………」
スタールビーは顔をそむける。でも私の上からは退いてくれなかった。
「助けを求める相手を間違えないでください。直接襲ってこなかったのは、私のそばにアメシストとシトリンがいたからだけではないですよね?」
「……俺は、もう身体がもたない」
言いにくそうにボソリと呟く。
身体が……そうね。
嘘ではないのだろう。先日の戦闘によるダメージはいくらか手当てで回復させているが、どういうわけか完全に修復できてはいない。正しいマスターによる修復ではないからかと考えていたが、それだけが原因ではないらしかった。
「では、私と契約をし直しますか? 私をマスターとすれば、維持できるのでしょう?」
その呼びかけに、彼は首を横に振った。
「悪いな。できればそうしたいんだが、まだ任務の途中だから契約するわけにはいかない」
「そうですか……」
ルビとダイヤを鉱物人形として喚ぶことを勧めてきたくせに、自分を私の鉱物人形にしてほしいと言ってこないことが気になっていた。前のマスターは死んだと説明していたはずなので、それが正しいなら新しいマスターと契約するのが筋だと思える。
ならば、そこに何か理由があるはずだ。任務の途中だから、とスタールビーが告げたことで私はある可能性に気づいた。
「ひとつ、確認してもよろしいですか?」
「なんだ?」
「あなたの本来のマスターは、存命ですよね? 前のマスター……ルビさんやダイヤさんのマスターは亡くなりましたけど、あなたのマスターは別の精霊使いなのでしょう?」
スタールビーはため息をついた。
これは、正解か?
私は探りを入れることにした。
「私があの人に加担することになれば、あなたの本来のマスターは解放されるのでしょうか?」
あの人――元婚約者の計画に乗れば解決する問題なのではないかと考えて確認する。
しかし、スタールビーは首を横に振った。
「いや、それはない。というか、解放されたところで、命はもたないだろう」
明言を避けたが、スタールビーのマスターは存命だということだ。それも、厄介なことに私も関わっているというある計画に巻き込まれている。
ステラがスタールビーにいろいろ告げて揺さぶっていたのを思い出す。彼のマスターは私と似た境遇、もしくは力を持っているのだろう。それで、あの人に目をつけられた。
私を花嫁にって言っていたんだから、彼のマスターは男性なのかもしれない。
とにかく、私は私にできることをしよう。
私はスタールビーの顔に手を伸ばした。
なるほどなあと、納得してしまった。
私が恐れているのがなんなのか、わかってしまったというか。
「――これは、夢、ですね」
天井を見上げながら呟いた。
私の服を脱がそうとしていた相手の動きが止まる。
「私に悪夢を見せて、どうしようっていうんですか? セレナさんをこの保養所から引き離したのも、私にターゲットを絞るためですね」
私の指摘に、相手は苦笑した。
彼は偽りの姿から本来の姿にゆっくりと変わっていく。
赤い髪、紅玉の瞳。その美しい瞳の中に三つの線が交わってできる星が見える。
「お嬢さんはよくわかってるなあ」
「あなたは私の兄とも面識があるのですか……いえ、意外ではないんですけども」
繋がりはあるのだろうとうっすら感じていた。
ステラと知り合いであったことを考えれば、まったく面識がないということもないからだ。
私は改めて彼を睨むように見据えた。
「スタールビーさん。気が変わりましたか?」
私を押し倒して襲おうとしていたのはスタールビーだった。気配からして、これはただの夢ではなく彼本体を経由している。
「君への協力は惜しまないつもりだが、俺にも都合があってな」
「人質でも取られているんですか? 鉱物たちは揃っているから、前のマスターの関係者、ですかね?」
「…………」
スタールビーは顔をそむける。でも私の上からは退いてくれなかった。
「助けを求める相手を間違えないでください。直接襲ってこなかったのは、私のそばにアメシストとシトリンがいたからだけではないですよね?」
「……俺は、もう身体がもたない」
言いにくそうにボソリと呟く。
身体が……そうね。
嘘ではないのだろう。先日の戦闘によるダメージはいくらか手当てで回復させているが、どういうわけか完全に修復できてはいない。正しいマスターによる修復ではないからかと考えていたが、それだけが原因ではないらしかった。
「では、私と契約をし直しますか? 私をマスターとすれば、維持できるのでしょう?」
その呼びかけに、彼は首を横に振った。
「悪いな。できればそうしたいんだが、まだ任務の途中だから契約するわけにはいかない」
「そうですか……」
ルビとダイヤを鉱物人形として喚ぶことを勧めてきたくせに、自分を私の鉱物人形にしてほしいと言ってこないことが気になっていた。前のマスターは死んだと説明していたはずなので、それが正しいなら新しいマスターと契約するのが筋だと思える。
ならば、そこに何か理由があるはずだ。任務の途中だから、とスタールビーが告げたことで私はある可能性に気づいた。
「ひとつ、確認してもよろしいですか?」
「なんだ?」
「あなたの本来のマスターは、存命ですよね? 前のマスター……ルビさんやダイヤさんのマスターは亡くなりましたけど、あなたのマスターは別の精霊使いなのでしょう?」
スタールビーはため息をついた。
これは、正解か?
私は探りを入れることにした。
「私があの人に加担することになれば、あなたの本来のマスターは解放されるのでしょうか?」
あの人――元婚約者の計画に乗れば解決する問題なのではないかと考えて確認する。
しかし、スタールビーは首を横に振った。
「いや、それはない。というか、解放されたところで、命はもたないだろう」
明言を避けたが、スタールビーのマスターは存命だということだ。それも、厄介なことに私も関わっているというある計画に巻き込まれている。
ステラがスタールビーにいろいろ告げて揺さぶっていたのを思い出す。彼のマスターは私と似た境遇、もしくは力を持っているのだろう。それで、あの人に目をつけられた。
私を花嫁にって言っていたんだから、彼のマスターは男性なのかもしれない。
とにかく、私は私にできることをしよう。
私はスタールビーの顔に手を伸ばした。
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