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4:私の選択
先送りにしたい問題
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アメシストは首を横に振る。
「マスターのこととは、別の話だよ。これはきっと、僕の問題」
困ったように笑って、アメシストは頭をかく。
「……模擬戦で負けたのが尾を引いているんだよね。鉱物人形として肉体を得てから日が浅いことを思えば、負けるのも当然ではあるんだ。鉱物としてのスペックも、彼らに劣る。能力が戦闘向きじゃないから相性もあるんだろうって思う。でも、悔しいものは悔しいんだ」
大きく大きく息を吐く。そしてゴロンと横になった。
「僕は足手まといにはなりたくないよ。マスターにとっての一番になりたいんだ」
「アメシストさん……」
「ふふ。弱音を吐くのは終わりにするね。おやすみ」
これ以上話をしたくなかったのだろう。アメシストは目を閉じてしまった。
私はシトリンと目を合わせる。
「兄は拗ねてるな」
「そうですね……。私の言い方がまずかったのでしょうか」
もっと誉めておくべきだっただろうか。率直な意見を伝えることで、相手を不用意に傷つけてしまうことはある。言葉は慎重に選ぶべきだとは考えているが、どうしてもうまくいかないことはある。
シトリンはゆっくりと首を横に振った。
「正直に答えず、兄を持ち上げるような発言をしていたとしても、見抜かれていたから変わらないだろうな」
「そう、ですかねえ……」
何が正解なのかわからない。でも、関係を深めていくには対話するしかないのだろうとは思えた。失敗を恐れて何もしないわけにはいかない。一緒に乗り越えていくのが、地道ではあるが確実なのだろう。
「気に病むことはない。兄も君に甘えたいだけだ」
「うまくお応えできないのがもどかしいです」
「その姿勢を見せていれば、離れることはない」
「……だといいですけど」
難しいなあと思う。親しい友人もいない私からしたら、どう関係を構築したらいいのかわからない。
精霊使いと鉱物人形として接していくなら、もっと主従を意識した関係を構築するのが望ましいだろう。共に並び立ち戦場に向かうことを考えるなら、それに見合う信頼関係を築くように強くなる努力をしたい。
私はどうなりたいのだろう。
ぐるぐる考え込んでいると、シトリンに押されて転がった。びっくりしている間に、彼にのしかかられる。
「マスター?」
「ええっと?」
意識が一気に現実に戻ってきた。身の危険を感じて咄嗟に脱出方法を探ってしまう。
シトリンが笑った。
「もう眠ったほうがいい」
「横にはなりましたが、この状態では」
「……そうだな」
逡巡する間があって、シトリンは私の横に寝転んだ。思わず安堵してしまう。
「――俺を怖いと思ったなら、それでいい」
「え?」
「兄が眠っている今ならと隙をついたつもりだったのだがな……そういう気分にさせられなかったのは、悔しいな」
これ、ちょっと危なかった?
もし、押し倒されてその先も期待しているような素振りをしていたら、そういうことになっていたということだろうか。
冷や汗が流れる。
「わ、私は、あなたとそういうことは、考えられないのですが……」
「今はそれでいい。でも、俺は諦めないし、諦められない。――寝る」
私の答えを拒むように、シトリンは目を閉じる。
……どうしよう。
できるだけ先送りにしたい問題だけれど、そうもいかないような予感がした。
「マスターのこととは、別の話だよ。これはきっと、僕の問題」
困ったように笑って、アメシストは頭をかく。
「……模擬戦で負けたのが尾を引いているんだよね。鉱物人形として肉体を得てから日が浅いことを思えば、負けるのも当然ではあるんだ。鉱物としてのスペックも、彼らに劣る。能力が戦闘向きじゃないから相性もあるんだろうって思う。でも、悔しいものは悔しいんだ」
大きく大きく息を吐く。そしてゴロンと横になった。
「僕は足手まといにはなりたくないよ。マスターにとっての一番になりたいんだ」
「アメシストさん……」
「ふふ。弱音を吐くのは終わりにするね。おやすみ」
これ以上話をしたくなかったのだろう。アメシストは目を閉じてしまった。
私はシトリンと目を合わせる。
「兄は拗ねてるな」
「そうですね……。私の言い方がまずかったのでしょうか」
もっと誉めておくべきだっただろうか。率直な意見を伝えることで、相手を不用意に傷つけてしまうことはある。言葉は慎重に選ぶべきだとは考えているが、どうしてもうまくいかないことはある。
シトリンはゆっくりと首を横に振った。
「正直に答えず、兄を持ち上げるような発言をしていたとしても、見抜かれていたから変わらないだろうな」
「そう、ですかねえ……」
何が正解なのかわからない。でも、関係を深めていくには対話するしかないのだろうとは思えた。失敗を恐れて何もしないわけにはいかない。一緒に乗り越えていくのが、地道ではあるが確実なのだろう。
「気に病むことはない。兄も君に甘えたいだけだ」
「うまくお応えできないのがもどかしいです」
「その姿勢を見せていれば、離れることはない」
「……だといいですけど」
難しいなあと思う。親しい友人もいない私からしたら、どう関係を構築したらいいのかわからない。
精霊使いと鉱物人形として接していくなら、もっと主従を意識した関係を構築するのが望ましいだろう。共に並び立ち戦場に向かうことを考えるなら、それに見合う信頼関係を築くように強くなる努力をしたい。
私はどうなりたいのだろう。
ぐるぐる考え込んでいると、シトリンに押されて転がった。びっくりしている間に、彼にのしかかられる。
「マスター?」
「ええっと?」
意識が一気に現実に戻ってきた。身の危険を感じて咄嗟に脱出方法を探ってしまう。
シトリンが笑った。
「もう眠ったほうがいい」
「横にはなりましたが、この状態では」
「……そうだな」
逡巡する間があって、シトリンは私の横に寝転んだ。思わず安堵してしまう。
「――俺を怖いと思ったなら、それでいい」
「え?」
「兄が眠っている今ならと隙をついたつもりだったのだがな……そういう気分にさせられなかったのは、悔しいな」
これ、ちょっと危なかった?
もし、押し倒されてその先も期待しているような素振りをしていたら、そういうことになっていたということだろうか。
冷や汗が流れる。
「わ、私は、あなたとそういうことは、考えられないのですが……」
「今はそれでいい。でも、俺は諦めないし、諦められない。――寝る」
私の答えを拒むように、シトリンは目を閉じる。
……どうしよう。
できるだけ先送りにしたい問題だけれど、そうもいかないような予感がした。
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