婚約者に逃げられて精霊使いになりました〜私は壁でありたいのに推しカプが私を挟もうとします。〜

一花カナウ

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昔話をしましょう

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※※※※※


 昼食まで自由時間があって、私はアメシストとシトリンを連れて保養所内の散策をすることにした。精霊使いとして生活する場合、設備の把握はしておいたほうが都合がいいだろうと考えたわけだ。
 途中でダイヤと合流して、前の部隊での話を交えて散策に付き合ってくれた。ありがたい。

「――ダイヤさんは」
「なんでしょう?」
「私に仕えることになったこと、どうお考えなんでしょう?」

 昔話を淡々と聴かせてくれるダイヤに、私はふと湧いた疑問をぶつけた。ルビと違って感情の起伏があまり見られないため、ダイヤの気持ちを読み取りにくい。
 話自体は昔を懐かしんでいるように感じられないこともないのだが、どことなく仕事の報告を聞いているような感じで思いが薄い。

「新しいマスターを迎えられて嬉しく思っていますよ。私は兵器ですからね、再び戦えることには喜びを感じています」
「ですが、今のところ戦場に送り出していないじゃないですか。おそらく、今後も護衛任務が中心になると思うんですよ。それでも、私の下で働いていただけますか?」

 精霊使いとして、彼ともうまくやっていきたい。予期せぬ事件が度々発生した都合であまりコミュニケーションを取れていないことを私は気にしていた。
 そんな私に、ダイヤはうっすらと微笑んだ。

「貴女がそう望むのであれば、私は構いません。どんな任務であっても、誠意をもって対応いたします。私が素っ気なく感じられてしまうのは仕様なので、慣れてください」
「仕様……」

 そうか、私のことが気に食わないとか、仕事に不満があるとかそういうことではないのか。
 補足されて、私はほっとした。

「それに、他の金剛石の鉱物人形と比べても、私は初期型だからか情動を表すのが得意ではないのです。兵器に必要なのは戦闘力であって、感情は不要だと考えられていた名残りなのでしょう」
「そういうものなのです?」
「精霊管理協会で教わることはないかと思いますが、鉱物人形にも世代がありまして。元となる鉱物の影響を強く受けるのが初期型。以降、世代を経るごとに柔軟になります」

 そう答えて、ダイヤはアメシストとシトリンを見やる。

「彼らは正規の手順で喚び出された鉱物人形ではないので、初期型に近い存在でしょう。私とルビも正規の手順ではなかったこともあって、以前と比べてより初期型の性質が出ていますね。ルビが貴女に触れたがるのも、初期型の仕様です」
「そうなんですか……。ずいぶんと鉱物人形についてお詳しいようですけど、それも前のマスターさんから教えてもらったのですか?」

 私の興味本位の質問に、彼はゆっくり首を横に振った。

「いえ。私が無表情で言葉も淡々としているので、マスターとうまく会話ができなくて。少しでも距離を縮めるために、自分自身を知ろうと研究をしたのです。そういうものだと理解してからは円滑に対応できるようになったので、こうして貴女にもお話しするのです」

 なるほど、ダイヤはすごく堅物なのだな。
 私は納得した。彼とは仲良くしていける気がする。

「すごく勉強になりました。まだまだ未熟なマスターですけど、今後も協力して頂けたら嬉しいです」
「貴女の成長に期待していますよ」

 成長できるように頑張ろう。
 私は密かに誓って、保養所内の散策に戻るのだった。

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