婚約者に逃げられて精霊使いになりました〜私は壁でありたいのに推しカプが私を挟もうとします。〜

一花カナウ

文字の大きさ
上 下
77 / 123
4:私の選択

痴話喧嘩に巻き込むな

しおりを挟む
「セレナにぶっ飛ばされそうな発言は勘弁してくれ!」

 ドアを開けたのはオパールだった。その後ろで、ルビが腹を抱えて笑いを堪えているのが目に入る。

「くくっ……。マスター、君は聞かされていないんだろうが、その部屋、教官に盗聴されているんだぜ? 今の発言はいろいろ問題があるんじゃないか?」

 オパールが慌てた理由を、ルビが親切に解説してくれた。なお、ルビは説明しながらもずっと笑っている。

「ええ……」

 というか、どうしてオパールとルビが廊下で待機していたんだろう。

「マスター、ごめんね。調子に乗った。お願いだからオパールさんのところには行かないで」
「マスター、俺も悪かった。君が嫌がることはもうしない。だから、そばにいることを許してほしい」

 アメシストとシトリンが並んで頭を下げてくる。
 ええっと、なんか、こういうシチュエーション、読んだことがあるぞ。修羅場ってやつだな?
 ルビがまだ廊下で笑っている。頑張って堪えようとしているらしく、肩が震えていた。

「なんの騒ぎだ?」

 スタールビーが騒ぎを聞きつけてやってきた。廊下から声をかけてくる。ルビが震えながら片手を上げる。

「痴話喧嘩に教官殿のパートナーが巻き込まれたところだな」
「なんでそういう話になってるんだよ……」

 ルビの説明に、スタールビーがあきれる声を出す。
 その説明は的確だろうけれど、そこだけ聞くと意味不明だな?
 ルビが深呼吸をして、笑いそうになるのを落ち着けている。彼は目の端に残る涙を拭いながら、説明を追加した。

「ま、そもそもは、マスターが精神攻撃を受けていることに気付いたんで、逆探知するために俺とオパールで待機していたんだな。それで、マスターが目覚めて、すったもんだがあったわけだ」

 なるほど、逆探知。
 ルビの説明に私とスタールビーは各々頷いた。

「――とにかく、ですね。アメシストさんとシトリンさんはちゃんと反省をしてください。私があなたがたを制することができないと困るわけで、次に何かしたらそれなりの処分をします。いいですね?」
「はい……」
「心得た……」

 シュンとしているのを見ると甘やかしてしまいそうになるが、ここはぐっと堪えないといけない。許してしまったら一線を越えてしまう。それはよくない。
 私はひと息つくと、オパールに顔を向けた。

「それで、逆探知はできたんですか? 相手に思い当たる節はあるんですけど、本当に彼なのかの確証が得られなくて」
「うーん、それがね。向こうもそれなりに対策しているみたいで、鉱物人形の気配はあるけれど何者なのかまでは辿れなかった」
「そうですか……」

 オパールが肩をすくめるのを見て、私はがっかりした。
 あれは兄だったのか、それとも……
 そもそも、兄も搾取されている側だろうと考えている。自分の利益のことには敏感ではあるが、利益を大きくできるほどの賢さも運もないというのが父の評価だった。私も同意見である。

「きみ自身は大丈夫なのか?」

 軽く握った手を口元に当てて考え込んだ私に、オパールが心配そうに尋ねてきた。私は努めて笑顔を作る。

「昨日の悪夢はキツかったですけど、今日は大丈夫ですよ。ふたりに助けてもらいましたし。同じ悪夢は心構え次第で対策できるので」

 アメシストとシトリンに一緒に寝てもらっていること自体に意味がある。私が彼らに魔力を供給する都合だけではない。
 私がきっぱりと答えると、オパールは驚いたような顔をした。

「結構な精神攻撃だったと思うんだが……概ねふつうの人間には耐えられないくらいのだと測っていたんだぞ」
「そうなんですか? 確かに、みなさんを粉々にされた上に身内に裏切られる展開第二弾って感じではありましたが、所詮は夢でしょう?」
「粉々……」

 想像してしまったらしい。みんなの顔がさっと青ざめた。鉱物人形にとって粉々になるのは嫌なことなのだな。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?

冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。 オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。 だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。 その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・ 「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」 「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。

鶯埜 餡
恋愛
 ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。  しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。

桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。 「不細工なお前とは婚約破棄したい」 この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。 ※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。 ※1回の投稿文字数は少な目です。 ※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。 表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。 ❇❇❇❇❇❇❇❇❇ 2024年10月追記 お読みいただき、ありがとうございます。 こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。 1ページの文字数は少な目です。 約4500文字程度の番外編です。 バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`) ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑) ※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです

きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」 5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。 その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?

悪意のパーティー《完結》

アーエル
ファンタジー
私が目を覚ましたのは王城で行われたパーティーで毒を盛られてから1年になろうかという時期でした。 ある意味でダークな内容です ‪☆他社でも公開

婚約破棄?一体何のお話ですか?

リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。 エルバルド学園卒業記念パーティー。 それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる… ※エブリスタさんでも投稿しています

処理中です...