婚約者に逃げられて精霊使いになりました〜私は壁でありたいのに推しカプが私を挟もうとします。〜

一花カナウ

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4:私の選択

痴話喧嘩に巻き込むな

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「セレナにぶっ飛ばされそうな発言は勘弁してくれ!」

 ドアを開けたのはオパールだった。その後ろで、ルビが腹を抱えて笑いを堪えているのが目に入る。

「くくっ……。マスター、君は聞かされていないんだろうが、その部屋、教官に盗聴されているんだぜ? 今の発言はいろいろ問題があるんじゃないか?」

 オパールが慌てた理由を、ルビが親切に解説してくれた。なお、ルビは説明しながらもずっと笑っている。

「ええ……」

 というか、どうしてオパールとルビが廊下で待機していたんだろう。

「マスター、ごめんね。調子に乗った。お願いだからオパールさんのところには行かないで」
「マスター、俺も悪かった。君が嫌がることはもうしない。だから、そばにいることを許してほしい」

 アメシストとシトリンが並んで頭を下げてくる。
 ええっと、なんか、こういうシチュエーション、読んだことがあるぞ。修羅場ってやつだな?
 ルビがまだ廊下で笑っている。頑張って堪えようとしているらしく、肩が震えていた。

「なんの騒ぎだ?」

 スタールビーが騒ぎを聞きつけてやってきた。廊下から声をかけてくる。ルビが震えながら片手を上げる。

「痴話喧嘩に教官殿のパートナーが巻き込まれたところだな」
「なんでそういう話になってるんだよ……」

 ルビの説明に、スタールビーがあきれる声を出す。
 その説明は的確だろうけれど、そこだけ聞くと意味不明だな?
 ルビが深呼吸をして、笑いそうになるのを落ち着けている。彼は目の端に残る涙を拭いながら、説明を追加した。

「ま、そもそもは、マスターが精神攻撃を受けていることに気付いたんで、逆探知するために俺とオパールで待機していたんだな。それで、マスターが目覚めて、すったもんだがあったわけだ」

 なるほど、逆探知。
 ルビの説明に私とスタールビーは各々頷いた。

「――とにかく、ですね。アメシストさんとシトリンさんはちゃんと反省をしてください。私があなたがたを制することができないと困るわけで、次に何かしたらそれなりの処分をします。いいですね?」
「はい……」
「心得た……」

 シュンとしているのを見ると甘やかしてしまいそうになるが、ここはぐっと堪えないといけない。許してしまったら一線を越えてしまう。それはよくない。
 私はひと息つくと、オパールに顔を向けた。

「それで、逆探知はできたんですか? 相手に思い当たる節はあるんですけど、本当に彼なのかの確証が得られなくて」
「うーん、それがね。向こうもそれなりに対策しているみたいで、鉱物人形の気配はあるけれど何者なのかまでは辿れなかった」
「そうですか……」

 オパールが肩をすくめるのを見て、私はがっかりした。
 あれは兄だったのか、それとも……
 そもそも、兄も搾取されている側だろうと考えている。自分の利益のことには敏感ではあるが、利益を大きくできるほどの賢さも運もないというのが父の評価だった。私も同意見である。

「きみ自身は大丈夫なのか?」

 軽く握った手を口元に当てて考え込んだ私に、オパールが心配そうに尋ねてきた。私は努めて笑顔を作る。

「昨日の悪夢はキツかったですけど、今日は大丈夫ですよ。ふたりに助けてもらいましたし。同じ悪夢は心構え次第で対策できるので」

 アメシストとシトリンに一緒に寝てもらっていること自体に意味がある。私が彼らに魔力を供給する都合だけではない。
 私がきっぱりと答えると、オパールは驚いたような顔をした。

「結構な精神攻撃だったと思うんだが……概ねふつうの人間には耐えられないくらいのだと測っていたんだぞ」
「そうなんですか? 確かに、みなさんを粉々にされた上に身内に裏切られる展開第二弾って感じではありましたが、所詮は夢でしょう?」
「粉々……」

 想像してしまったらしい。みんなの顔がさっと青ざめた。鉱物人形にとって粉々になるのは嫌なことなのだな。
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