婚約者に逃げられて精霊使いになりました〜私は壁でありたいのに推しカプが私を挟もうとします。〜

一花カナウ

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4:私の選択

これが私の手に入れたものです

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「……はっ」

 返事をしたらダメ。声を出さないように息を止める。
 まずい。これはまずい。
 助けて。助けて! ここに来て!

「私はっ!」

 ぎゅっと握った拳の中に塊を感じた。
 私は強く念じる、ふたりの姿を。
 拳の中から光が生じた。

「なっ⁉︎」

 兄が怯む。まばゆい光が周囲を照らし、ゆっくりと消え去れば二つの影が増えていた。

「マスター。呼んでくれてありがと」
「ここからは俺たちが相手になろう」

 私と兄の間に、アメシストとシトリンが現れた。
 兄が目を丸くして、尻もちをついている。

「なぜだ。お前たちはさっき破壊したはず。ここには入れないんじゃなかったのか⁉︎」

 あからさまに動揺しているのが見てとれた。
 目の前でふたりの似姿を破壊することで私の心を折り、助けを呼べないようにしたつもりだったのだろう。
 でも、私はアメシストとシトリンの強さを知っているし、鉱物人形の特性上何度でも喚び出せることを知っている。あの程度の脅しで怯む私ではないのだ。

「ここはマスターの夢の中だからね。マスターが僕らを信じる限り、追い出すのは不可能だよ」
「それで、まだ交渉を続けるか?」

 ふたりが一緒だと心強い。私は深呼吸をして兄と再び対峙した。

「ず、ずるいとは思わないか?」
「いいですか、兄さま。これが私が手に入れた精霊使いとしての力と知識です。兄さまは誰に力を借りていらっしゃるのですか? あなたも利用されている側だと考えているのですが」
「利用されている側、だって? お前とは違う」
「そうですか。真の意味でお助けできるかと思ったのですが……そうですね。直接お会いしたときにしましょうか。ここでは、干渉されるみたいですもの」

 鮮明だった景色がぼやけてきている。それは私がアメシストとシトリンを喚んだからだけではない。
 兄が頭を押さえて顔を歪めた。

「ちっ……。ジュエル、僕を敵に回したことを悔やむがいい」
「兄さま、それは小物の捨て台詞です。大物は何も告げずに退場するものですわ」

 悔しそうな顔をして、兄の姿をした何者かは姿を消した。
 景色が変わり、最初の荒廃した世界に戻る。

「……兄さま」

 本人かどうかは確証を得られなかった。元婚約者と比べたら小物っぽいところはあるけれど、もう少し大人のように思っていたのだけども。

「あれが君の兄なの?」

 アメシストが尋ねてきた。私は肩をすくめる。

「ガワはそうなんですけどね。あれが本人だったら幻滅です。仲のいい兄ではないのですが、もう少し格好いい人だと信じていたので」

 誰かが演じているようにも感じられなかった。もっときょうだい仲がよかったら、ふたりの間でしかわからない情報を交わして探りを入れるところなのだが、そういう思い出のカケラもないのが悔やまれる。
 だが、交渉場所を元婚約者の屋敷にしていた理由はなんだったのだろう。それがヒントなのだろうか。

「マスター、そろそろ夢から出ないとまずい」

 身体が不安定になっているのがわかる。シトリンにうながされて、私は頷いた。

「そうね。あとは夢から醒めてにしましょう」

 そう答えて、私は両目を閉じた。
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