婚約者に逃げられて精霊使いになりました〜私は壁でありたいのに推しカプが私を挟もうとします。〜

一花カナウ

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4:私の選択

得意なことと苦手なことと

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「ルビさんたちと比較したら得意じゃないかもしれませんが、シトリンさんと組んだときはなかなか惜しい場面も多かったですよ。精神攻撃もお見事でした」

 得意ではないと言っているが、活躍する場面がなかったわけではない。私が誉めると、アメシストは微苦笑を浮かべた。

「決まればね。でも、接近戦が得意な相手に対して、近づかないと効き目が出ないのは使い勝手が悪いよ」
「そこは俺と組めばタイミングを合わせられる」
「それはそうなんだけど」

 仲間が陽動になり、隙をついてアメシストが相手の内側に潜り込んで術を発動させる――それがうまくいくのがシトリンと組んだときのみだった。特に合図した様子もないのに、息のあった行動で敵を翻弄する。普段から行動がそろいがちな彼らだからできる芸当なのだろう。
 シトリンは壁に背中を預けた状態で、手を見つめながら握ったり開いたりさせる。

「武器召喚を封じられて、俺は自分がいかに剣に頼っていたのかがわかったな。体術も学んで、より強くならねば」
「弟は真面目だなあ……僕はもうベコベコにへこんで、立ち直れそうにないよ……」
「自分の能力を見極めるための模擬戦じゃないか。へこんでいる場合ではないだろう。格上の相手の胸を借りて判断できるのは興味深かった」
「否定はしないけどさあ……」

 負けた数はアメシストが多い。戦闘が不得手であること、攻守であれば守りを得意とすることなど、今回の模擬戦では不利な立場だったのだ。

「俺は、兄と戦えたことも勉強になったと思っているんだ。今後も敵対することはないだろう?」
「弟、本気になるんだもん。手のうちがバレているからなにも通用しなかったし」
「そこは頭を使うところだ」
「そういうの苦手なんだよ……」

 面倒くさがっているわけではなくて、苦手意識が強いのだろう。何がそう思わせるのかわからないけれど、解決したほうが良さそうだ。

「アメシストさんは課題が多そうですねえ」
「笑わないでよ、マスター。僕、泣いちゃう」
「私は笑いませんよ。みなさん、得意なことと苦手なことがあることがわかりましたからね。今後、任務をこなすにあたってどうメンバーを組めばいいのか、参考にしようと思います」
「ほんと、君は有望な精霊使いだな」
「スタールビーさんもお疲れ様でした」

 落ち着いたところで、スタールビーが近づいてきた。私が労うと彼は笑う。

「いい運動になったよ。昨日の戦闘で、身体が鈍っているのを自覚していたし、ルビやダイヤと久しぶりに手合わせできて実力を測れたのは助かった」
「スタールビーさんって、ずっと裏方だったんでしたっけ?」
「魔物との直接戦闘は避けてたな」
「それって何か理由があるんですか?」

 私の質問に、スタールビーは意外そうな顔をした。

「そりゃあ、ルビとダイヤがいれば俺は裏方でもいいだろ」
「ですが、スタールビーはルビの上位互換の能力をお持ちのはずですが」
「基本性能としてはそうであることが多いだろう。だが、俺よりもルビのほうが強いだろ?」

 模擬戦の成績を踏まえるとルビのほうが成績はよかったし、ダイヤにもスタールビーは負けが多い。とはいえ屋内の制限された戦闘であることを加味して考えれば、別に著しくスタールビーが劣っているわけではないと判断できた。

「強くなったのは、ルビさんが戦闘に特化して成長されたからだと思います。御本人もそう説明されていましたし、伸び代としてはスタールビーさんのほうがあったのでは?」
「そう評価してもらえて嬉しいが、それはちょいと買い被りすぎってやつだ」

 スタールビーはそう告げて笑う。
 なにか彼は隠している。

「俺は戻るわ。んじゃ」

 ひらひらと手を振って、スタールビーは出て行く。
 彼の背中をじっと黙ってダイヤが見ていた。
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