婚約者に逃げられて精霊使いになりました〜私は壁でありたいのに推しカプが私を挟もうとします。〜

一花カナウ

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4:私の選択

故郷の食べ物

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※※※※※


「ずいぶんとご機嫌じゃないか」

 食堂に入った私に、ルビが声をかけてくる。彼は一足先に食べ始めていたようだ。

「機嫌がいいのは良いことじゃないですか」
「辛気臭いよりはマシだが、俺の前でいちゃついてくれるな」

 私がふたりと手を繋いでいるのを指して、むすっとする。
 ルビは私と触れ合いたいとずっと願っているようだが、それは変わらないようだ。昨日の怪我はきちんと回復させたはずなので、私からの魔力を必要としていないだろうに。不思議である。

「仲良くしているだけですよ?」

 ね、と確認のためにアメシストとシトリンを見やれば、ふたりとも真面目な顔で頷いた。そういうものなのだという様子でさえある。

「ルビくん、そうやって拗ねたり妬いたりするのはよくないなあ。あれはいちゃついているというよりも、ペットと飼い主だな。リードがないから手を繋いでいるだけだ」

 状況を見守っていたオパールが助け舟を出してくれたが、その表現は心外である。
 ルビが笑った。あざけりを含んでいるような笑みだ。

「ああ、そういう考えもあるか。番犬を従えている……そう見えればいいんだろうが、マスターが頼りないから、愛玩動物を連れているみたいだな」
「ん? 私が愛玩動物ですか?」

 その発言に私が首を傾げると、ルビとオパールが同時にふきだした。ルビはゲラゲラと笑い、オパールは堪えるようにお腹を抱えている。
 アメシストとシトリンも笑いを堪えているようだ。苦笑していないだけいいのかもしれないが、これはどういう意味だろうか。

「くふふ……きみ、面白いね」
「失言だったみたいですけど、何が面白いのかさっぱりわからないんですが」
「マスターは今のままでいいと思うよ」
「そうだな、俺もなごんだし」
「はい?」

 涙を指先で軽く弾きながらのオパールの感想に私が疑問符を頭上に並べていると、アメシストとシトリンがフォローしてくれた。いや、フォローなのかよくわかんないけど。

「皮肉を解説するほどくだらないこともないからな。ほら、あんたらも食べな」

 すっかり毒気が抜かれてしまったようで、ルビは大きく息を吐き出して食事に戻る。なにかと突っかかってきがちなルビへの対応は何か考えておくとしよう。
 私はルビに勧められたので、適当に空いている席を選ぶ。座席は今のところ自由にしているが、ここを本拠地のようにするならばある程度は固定したほうがいいのかもしれない。

「昼食はスタールビー主体で作ってもらったんだ。なんでも、前のマスターの故郷の料理なんだとさ」

 なるほど、懐かしいからルビさんも昼食に出てきたわけだ。
 夜通しの番だったので夕方まで休むのかと予想していたのに食堂に来ていたのは、思い出のにおいに釣られたからなのだろう。お皿もほとんど空になっていたし。
 私が納得していると、スタールビーがトレイに料理をのせて運んでくる。

「俺の得意料理でもあるからな。死んだマスターが、これだけは作れるようにしておけって、喚び出された初日に仕込まれたんだよ」

 そう説明して、私の前に皿を置いてくれた。

「……え?」

 これは故郷の料理なのだと言った。
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