65 / 123
4:私の選択
趣味を探しましょう
しおりを挟む
「ひとりが心細いのであれば、遠慮せず呼んで構わないのだぞ?」
「そうですね。なにかあれば呼びますよ」
「僕らふたりがそろってるよりひとりずつがいいっていうなら、それでもいいよ?」
どうしたらそういう発想になるのだろう。アメシストの提案に私は目を瞬かせた。
「私的にそれはないですね」
「あれ? そうなんだ」
私の返答に、ふたりは同時に驚いたような顔をした。
おや? 期待と違う答えだったのかな?
「一応、部屋の中は安全という話ですし、私に付き合わず、おふたりでのんびりしてくださいな」
入浴のときでさえ同じ時間に合わせて移動している。セレナの講義も一緒だったことを思うと、ほとんどふたりはそばにいる。ならば、ある程度まとまった時間を別行動してもいいだろう。
「そう?」
「することも特にはないんだが……」
私が勧めると、ふたりは顔を見合わせた。
まあ、急に休めと言われても趣味もないだろうしなあ……
鉱物人形となって身体を得てから日が浅いふたりに、時間のつぶし方はわからないだろう。ずっと仕事続きで、寝ているときでさえ護衛任務中ではあったのだ。
「なら、時間が空いたときにする趣味を探してください。そういうのも生きるには必要なんです。……ああ、でも、部屋にはいてくださいね」
「趣味、か……」
言葉の意味は通じたようだ。真面目な顔をして、シトリンは腕を組む。
そんなシトリンの顔をアメシストが覗き込んだ。
「ふたりでできることでも考えてみるかい?」
「ひとりでできたほうが都合がいいのでは?」
「さみしい……」
ふてくされるアメシストの頭を、シトリンはおもむろに撫でた。
「除け者にしようというわけではないのだ。……部屋で一緒に考えようか」
「うん。そうこなくっちゃ」
機嫌を直したアメシストは歩き出す。シトリンはそれを追う。
「お昼の時間になったら迎えにきてくださいね」
「了解だよ」
アメシストとシトリンは私に手を振って部屋に帰っていった。
見送って、私は部屋に入る。
それはそうと、ふたりは距離が近いなあ。
仲がいいことはよきことだ。元気をわけてもらったところで、私はひとりでやらねばと思っていたことに着手することに決める。
婚約者から送られてきた書類を精読し、返信をすること。
主旨は理解したと思うが、ステラが彼らの思惑について語っていた内容を考えると心穏やかではない。
いずれ実家と話し合いをする必要もあるだろう。今後の身の振り方を考えるには避けて通れないことだ。
私はため息をついて、書類の入った封筒を棚から出したのだった。
「そうですね。なにかあれば呼びますよ」
「僕らふたりがそろってるよりひとりずつがいいっていうなら、それでもいいよ?」
どうしたらそういう発想になるのだろう。アメシストの提案に私は目を瞬かせた。
「私的にそれはないですね」
「あれ? そうなんだ」
私の返答に、ふたりは同時に驚いたような顔をした。
おや? 期待と違う答えだったのかな?
「一応、部屋の中は安全という話ですし、私に付き合わず、おふたりでのんびりしてくださいな」
入浴のときでさえ同じ時間に合わせて移動している。セレナの講義も一緒だったことを思うと、ほとんどふたりはそばにいる。ならば、ある程度まとまった時間を別行動してもいいだろう。
「そう?」
「することも特にはないんだが……」
私が勧めると、ふたりは顔を見合わせた。
まあ、急に休めと言われても趣味もないだろうしなあ……
鉱物人形となって身体を得てから日が浅いふたりに、時間のつぶし方はわからないだろう。ずっと仕事続きで、寝ているときでさえ護衛任務中ではあったのだ。
「なら、時間が空いたときにする趣味を探してください。そういうのも生きるには必要なんです。……ああ、でも、部屋にはいてくださいね」
「趣味、か……」
言葉の意味は通じたようだ。真面目な顔をして、シトリンは腕を組む。
そんなシトリンの顔をアメシストが覗き込んだ。
「ふたりでできることでも考えてみるかい?」
「ひとりでできたほうが都合がいいのでは?」
「さみしい……」
ふてくされるアメシストの頭を、シトリンはおもむろに撫でた。
「除け者にしようというわけではないのだ。……部屋で一緒に考えようか」
「うん。そうこなくっちゃ」
機嫌を直したアメシストは歩き出す。シトリンはそれを追う。
「お昼の時間になったら迎えにきてくださいね」
「了解だよ」
アメシストとシトリンは私に手を振って部屋に帰っていった。
見送って、私は部屋に入る。
それはそうと、ふたりは距離が近いなあ。
仲がいいことはよきことだ。元気をわけてもらったところで、私はひとりでやらねばと思っていたことに着手することに決める。
婚約者から送られてきた書類を精読し、返信をすること。
主旨は理解したと思うが、ステラが彼らの思惑について語っていた内容を考えると心穏やかではない。
いずれ実家と話し合いをする必要もあるだろう。今後の身の振り方を考えるには避けて通れないことだ。
私はため息をついて、書類の入った封筒を棚から出したのだった。
0
お気に入りに追加
48
あなたにおすすめの小説
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
余命宣告を受けたので私を顧みない家族と婚約者に執着するのをやめることにしました
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
【余命半年―未練を残さず生きようと決めた。】
私には血の繋がらない父と母に妹、そして婚約者がいる。しかしあの人達は私の存在を無視し、空気の様に扱う。唯一の希望であるはずの婚約者も愛らしい妹と恋愛関係にあった。皆に気に入られる為に努力し続けたが、誰も私を気に掛けてはくれない。そんな時、突然下された余命宣告。全てを諦めた私は穏やかな死を迎える為に、家族と婚約者に執着するのをやめる事にした―。
2021年9月26日:小説部門、HOTランキング部門1位になりました。ありがとうございます
*「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
※2023年8月 書籍化
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
【書籍化確定、完結】私だけが知らない
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。
優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。
やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。
記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2024/12/26……書籍化確定、公表
2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位
2023/12/19……番外編完結
2023/12/11……本編完結(番外編、12/12)
2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位
2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」
2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位
2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位
2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位
2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位
2023/08/14……連載開始
妹に傷物と言いふらされ、父に勘当された伯爵令嬢は男子寮の寮母となる~そしたら上位貴族のイケメンに囲まれた!?~
サイコちゃん
恋愛
伯爵令嬢ヴィオレットは魔女の剣によって下腹部に傷を受けた。すると妹ルージュが“姉は子供を産めない体になった”と嘘を言いふらす。その所為でヴィオレットは婚約者から婚約破棄され、父からは娼館行きを言い渡される。あまりの仕打ちに父と妹の秘密を暴露すると、彼女は勘当されてしまう。そしてヴィオレットは母から託された古い屋敷へ行くのだが、そこで出会った美貌の双子からここを男子寮とするように頼まれる。寮母となったヴィオレットが上位貴族の令息達と暮らしていると、ルージュが現れてこう言った。「私のために家柄の良い美青年を集めて下さいましたのね、お姉様?」しかし令息達が性悪妹を歓迎するはずがなかった――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる