婚約者に逃げられて精霊使いになりました〜私は壁でありたいのに推しカプが私を挟もうとします。〜

一花カナウ

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4:私の選択

朝食はみんな同じ時間に

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「じゃあ、食事にしませんか? セレナさんが戻るまでは精霊使いについての座学もお休みですし、待っている時間、私とお話ししましょうよ」
「僕はじゃれている今の時間が永遠に続かないかなって思ってるよ」
「もうー。わがまま言わないでください、アメシストさん」

 私は手を離してもらおうと振ってみる。だがくっついたままだ。

「それに、永遠に続いたら私が困ります」

 そこで都合よくお腹がぐぅっと鳴った。なかなか立派な音量である。

「ほら、聞きましたか? 生きてるだけでお腹が空くんです。オパールさんの作る食事、すっごく美味しいんですから、食いっぱぐれるわけにはいかないんです! 離してください」

 私が抗議すると、アメシストは私の手を握ったまま上体を起こす。

「確かに彼の料理は美味しいよ。僕らが食べても美味しいと思えるってことは、食材に含まれる魔力を効率よく摂取できているからだろうね」
「鉱物人形の味覚ってそういう仕組みなんですね」
「うん」

 アメシストはにこっと笑う。そして私の上に覆いかぶさった。雲行きがあやしい。
 紫水晶の瞳がふんわりと光る。

「僕は君の魔力を美味しいと思っているし、お腹が空いたから食べてしまいたいって思ってる」
「……ええっと」

 まずいぞ、この展開。
 助けを求めてシトリンに目を向けると、彼はやれやれといった顔をしていた。

「た、食べないで? 朝食を終えたら、ぎゅってしますから、今は、ね?」
「今すぐほしい。君がほしい」

 怖い。
 かける言葉が見つからなくて、ぎゅっと目を閉じる。
 そのタイミングでこの部屋のドアが勢いよく開いた。

「ほら、朝飯の時間だぞ。片付けの手間もあるんだ。いい加減に起きて――ああ、お取り込み中か。だが、イチャつくのは飯の後にしてくれ。みんなの体調を考えて食後は自由時間にしておくから」

 部屋に入ってきたのはオパールだった。つかつかとベッドに向かって歩みを進め、アメシストを引き剥がしてくれた。

「ノックぐらいしてほしいが?」

 アメシストは黙ったまま膨れていたが、シトリンは不機嫌にオパールに言い放つ。

「そうしてたら、君たちは無理にコトを進めていただろう? 初心なマスターには優しくしなさい」

 肩をすくめて、先輩らしくオパールが答える。シトリンはそれ以上何も言わなかった。

「オパールさん。助けてくださりありがとうございました」
「礼には及ばないが……困っているなら相談に乗るぞ? オレにはセレナがいるからな、きみに手を出すことはない」

 深刻そうな顔をしていたが、オパールは気持ちを切り替えたらしく茶化すように告げて片目をパチっと閉じた。

「そういう話はセレナさんにしますから」
「ま、それはそうだな。――とにかく、食事はみんなと同じ時間に済ませるようにしてくれ。精霊使いとして鉱物人形を従えながらの集団生活では、一緒に済ませられることはできる限り一緒にしたほうがいい。協会からお金がもらえるといっても有限だからな。節約のコツだ」

 家のことをさっぱりしてこなかった私には、とてもありがたいアドバイスだった。

「なるほど。わかりました。すぐに支度をして食堂に向かいますね」
「ああ、そうしてくれ。アメシストくんもシトリンくんも、食べにくるんだぞ」
「はーい」
「あいわかった」

 ふたりの返事の雰囲気はいつもどおりだ。オパールと私が話をしている間に少し冷静になったのかもしれない。
 私はホッとして、オパールを見送ったのだった。
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