婚約者に逃げられて精霊使いになりました〜私は壁でありたいのに推しカプが私を挟もうとします。〜

一花カナウ

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4:私の選択

手を繋いで

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「誰しも、完璧なんてないのですから、歪みはあるものではないでしょうか」
「鉱物ってのは、結晶だからねえ。あまり歪みはないんだと思う。不純物は含んでいるだろうけど」
「アメシストさんはそういう感覚なんですか」
「実際はどうかなんてわからないけど、僕の感覚をたとえるならそういう感じ」
「なるほど。面白いですね」

 人間と鉱物人形は似ているところもたくさんあるし、違うところもたくさんある。そこが興味深い。

「――とにかく、私はもう元気です。心配させてしまいすみませんでした。朝までまだ時間がありそうですし、寝直しましょう」

 率先して私が横になると、それが当然とばかりにふたりは私の左右に寝転んだ。

「……またうなされるようなことがあったら、起こしてもいいのだろうか?」
「そうですね。私を呼んでください」

 左側にいるシトリンの問いに、私は頷いた。すると右側のアメシストが私の服を引っ張る。

「僕も、呼んでいい?」
「はい。お願いします」
「ふふ。任せて」

 ニコッと笑うと、アメシストは目を閉じた。私も安心して瞼を下ろす。


※※※※※


 夢から覚めて、目を擦ろうと思ったら手が動かない。左右どちらも。
 なんぞ?
 目を開けて右手を見ると、アメシストが私の手を握って眠っている。
 左側を見やれば、シトリンが同じようにして眠っていた。
 こういうときの行動も同じなんですねえ……
 見た目は青年であるふたりだけれど、こういう仕草は可愛いと思ってしまう。力で攻められたらねじ伏せられてしまうことは昨夜のやり取りでよくわかったつもりだが、可愛いものは可愛いのだからしようがない。
 私に妹か弟がいたら、また感覚が違っただろうか。
 手を離してほしくてにぎにぎすると、にぎにぎし返された。
 うーん? そういうことじゃないんだけど、可愛いな?
 飽きるまで続けていたが、放してもらえないばかりか起きる気配もない。両手をそれぞれに握られているために動きが制限されている。声をかけるしかなさそうだ。

「アメシストさん、シトリンさん。手を離してくれませんか?」
「うー……マスターの手は温かくて気持ちがいい……」
「兄と同意見だ。手放すには惜しい……」

 なんだ、起きているじゃない。
 どうもふたりとも、寝たふりをして私の手を堪能していたようだ。

「怖い夢は見なくて済んだので、もういいですよ。気にかけてくださりありがとうございました」
「それならよかった。でも、それはそれとして、もう少し一緒にいたいんだ」
「こんなふうにそばにいられるとは限らないからな」

 アメシストもシトリンも甘えた声を出す。
 可愛いな……
 甘えられることがなかったということもあるのだろう。私はこうして求められると嫌だと言えないらしい。少なからずとも好意を持っている相手でもあるので、彼らが悲しむと思うと強く言えないのだ。

「……で、でもですね。お腹が空いてきたので、朝食に行きたいんですよね」
「まあ、触れ合っていれば、君から魔力を吸い上げることになるからな。空腹を感じるのは正しい反応だろう」

 シトリンが解説してくれる。魔力と空腹に関係があるというのは初耳であるが、魔力をふたりに吸われている感覚はあるので、概ねそういうものなのだろう。眠って休んでいたのに、体に倦怠感がある。
 まあ、疲れているのは昨日の騒動の影響も少なからずあるのだと思うけれど。
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