婚約者に逃げられて精霊使いになりました〜私は壁でありたいのに推しカプが私を挟もうとします。〜

一花カナウ

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4:私の選択

それぞれが抱えているもの

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「弟、すごいね……」
「俺は自分の鉱物人形としての能力をマスターに対して使おうとは思わない。俺は俺としてマスターと向き合いたいからな」
「でも、この力も僕の力なんだよ? 使って悪いことはないと思うんだけどな」

 シトリンに遠回しにたしなめられたアメシストは不満げである。

「俺は、黄水晶としての自分に、あまりアイデンティティを求めていないのかもしれない。あなたを兄と呼び慕うことは黄水晶の仕様ではないらしいからな」
「仕様ではないけど……そりゃあ、僕だっておまえのことを弟だと認識するのは、紫水晶の仕様じゃないよ。でも、僕は――」
「兄は兄のままでいいし、その力も使えると思うなら使えばいい」

 自分の部屋からあらかじめ運んできていた毛布を取って、私の隣にシトリンは横たわった。

「俺は寝る」
「う、うん。おやすみ、弟」

 アメシストの戸惑う声。シトリンはすぐに寝息を立てた。
 疲れが溜まっているのは事実なんでしょうね……
 意見の相違で喧嘩が始まるかと身構えたが、心配はいらなそうである。私としてはアメシストとシトリンが仲違いするのは嫌だ。

「……マスターは、弟のほうが好き?」

 シトリンが完全に眠っていると確信できるまで無言で見守っていたアメシストがポツリと尋ねた。

「私は……おふたりが仲良くしていらっしゃるのが好きであって、個別にはあまり意識していないのですが」

 どっちがどうであるとは考えていない。それは正直な気持ちだ。
 私が返事をすると、アメシストはうーん、と唸った。

「うん……君の言動から考えると、差があるようには感じていなかったんだけどさ。なんか、不安だよ」

 呟くような声で告げて、彼もまた自分の部屋から持ってきた毛布を掴んでベッドにのぼってきた。それは当然とばかりに、シトリンとは反対側に横になる。

「アメシストさん?」
「なあに、マスター?」
「シトリンさんとはくっついていなくていいんですか?」

 今朝は私から離れてアメシストとシトリンが互いにくっついていたことを思い出す。おそらく、ふたりは離れて寝るよりも接触していたほうが安定する――そう考えての発言だったが、アメシストは困ったように笑った。

「大丈夫だよ。僕は弟も大好きだけど、マスターにくっついているほうがもっと大好きだから」
「それならいいんですが」

 私が邪魔になるなら移動しようと思っただけである。ふたりにはしっかり休んでほしいのだ。

「ん? くっついてもいいの?」
「いいとは言っていません。言葉のあやです」

 すりっと寄ってくる気配があって、私へ片手を上げて否定した。
 アメシストは苦笑する。そして寂しげに笑った。

「……弟、気持ちよかった?」

 その質問の内容が掴めなくて一瞬困ったが、彼の表情から察するものがあって意図を理解した。はぐらかさないできちんと答えよう。

「えっと……どうでしょう。よくわかりません」
「ふふ。そっか……」
「ん?」
「弟は君を嘘つきって言ったけど、僕はとっても素直だと思ってるよ。そのどっちもが、きっと君なんだね。僕は僕なりに君を魅了してみせるよ」
「ええっと……」

 宣戦布告というやつだろうか。私の発言で彼を焚き付けてしまったのだったらあれは失言だったと思う。
 私が困っていると、アメシストはクスッと笑った。

「好きだよ、マスター。おやすみなさい」
「……おやすみ」

 アメシストの寝息が聞こえる。私は天井に目を向けた。
 ふたりとどう接するのが正解なんだろう。
 精霊使いとして独立したら、鉱物人形たちを戦場に送り出すことが増えていくだろう。その戦いは、私を守るためではなく、この国の国民を守るためになっていく。怪我を負うことも増えるはずだ。私以外の誰かを守るために傷つくことを厭わないようにと命じなければいけなくなる。
 私はふたりを戦場に送り出すことができない気がする。間接的には間違いなく私自身を守ることにつながる戦いなのだろうけれど、私の知らないところで傷ついて戻ってきた彼らを、私はちゃんと迎えることができるだろうか。
 想像すればするほど、できないような気がする。
 息を大きく吐き出して、私は目を閉じる。

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