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3:運命の歯車が回りだす

君たちはマスターを正しく導いてほしい

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 私はなんとなく両隣に立つアメシストとシトリンを見やった。
 ふたりとは結婚もないだろうし、恋愛もないな……。仕事仲間だ。

「どうかした?」
「ううん。なんでもないです。みんな無事でよかったなあって思っただけで」
「こっちはあまり無事じゃないんだが」

 ルビがげんなりした声で割り込んできた。

「思ったよりも溶けた」

 利き腕の右腕の衣装が溶けていた。肌も爛れたようになっている。見た目は痛そうだが、ルビはケロッとしていた。鉱物人形にも痛覚はあるように思っていたのだが、平気なのだろうか。
 スタールビーがルビの怪我を覗き込んだ。

「それ以上は溶けないようで良かったじゃないか」
「俺のほうが小柄だから率先して腹の中入ることにしたけどな、どちらかと言えば毒耐性が強いのはスタールビーの方だろ?」
「怪我人に突撃させるつもりかい?」
「次はあんたが行けって言っている」
「次はないさ。俺は戦場には出ないからね」

 肩をすくめて、スタールビーは私の後ろにまわった。

「手当てのために触れても大丈夫。もう毒の効果はないから」
「あ、はい」

 そう助言を受けて、私は振り返った。スタールビーが不思議そうな顔をしている。

「あなたの手当てもします。なので、待っていてください」
「いや、遠慮しておくよ。俺は君の鉱物人形ではないからね」
「ですが、怪我をしているでしょう? 私のために戦ってくれたんですから、遠慮なんてしなくていいんですよ?」
「なら、共寝をお願いするけれど?」
「……ともね?」

 言葉の意味がわからなくて私が首を傾げるのと同時に、左右から手が伸びた。アメシストとシトリンにぎゅっと抱きしめられてしまう。

「それはダメ!」
「治癒のためだとはわかっているつもりだが、断る」
「ええっと?」
「そいつ、君が思っているよりムッツリだからな。油断してると喰われるぞ」

 アメシストとシトリンが狼狽えている。その理由がわからなかったが、ルビがからかいながら指摘してくるのを聞いてなんとなく想像がついた。
 まじか。
 一歩下がってスタールビーから距離をとる。彼は快活に笑った。

「あっはっは。俺はお嬢さんを気にいっているからなあ」
「気に入られるようなことはしていないと思いますが……」

 私のためにステラと対峙して体を張ってくれたのはありがたかったけれど、それにあたうような何かを彼にしただろうか。

「君の魔力が美味しいと思えたのが君を意識するようになったきっかけではあるんだが、君の将来がすごく楽しみになってきてさ。失うには惜しいと思った」

 困ったように笑って、スタールビーはアメシストとシトリンをそれぞれ見る。

「君らは、マスターを大事にするんだぞ。俺やステラは道を間違えた。持ち主を導く石なのに、な。だから君たちはマスターを正しく導いてほしい」
「言われなくても、マスターの意志を尊重するよ」
「心配するような過ちは起こさない」

 ふたりから強めに抱きしめられるとちょっと苦しい。腕をポンポンと叩くとやっと緩めてくれた。守ってくれるのは嬉しいのだが、過保護気味ではなかろうか。
 私が無防備すぎるのかな?
 一般的な加減がよくわからない。実家にいたときにそばにいたステラのことを考えると、あれもあれで過保護気味だったと思うので、参考にならなかった。

「頼もしい後輩だな」

 眩しいものを見るように目を細めて、スタールビーはセレナに顔を向ける。
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