婚約者に逃げられて精霊使いになりました〜私は壁でありたいのに推しカプが私を挟もうとします。〜

一花カナウ

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3:運命の歯車が回りだす

公式の記録から消えてください

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「はい?」
「この国の公式の記録から、消えていただく必要があるのです」
「な、なんで?」

 聞き間違いではなかったらしい。動揺している。
 ステラは薄く笑った。

「あなたのその魔力を、この国を保護する結界に転用しようという計画がありましてね。そのためにずっと保護をしていたのです」
「え、待って。結婚は?」
「所有権を譲るというために、結婚をすることになっていただけのこと。表向きの話です」
「ええ……じゃあ、結界を張るのはあの人が融資しているっていうあの組織の主導ってこと?」
「よくわかっているじゃないですか」

 拍手をしてもらったが、嬉しくない。

「でも、結婚はなかったことにって」

 婚約はなかったことにしてほしいという一方的な書類が届いている。あんな分厚い冊子を寄越しておきながら、やっぱり結婚はしましょうだなんて展開はないだろう。

「ええ。混じり気なしのあなたの魔力が必要だったのに、精霊使いとして力を放出してしまったので、ね。精霊と交わると、結界に影響が出るだろうと言われていたので、計画は白紙です」
「じゃあ、私がどうしようと、もう関係なくはありませんか?」

 計画自体がなくなったのだ。私も役割がなくなったはずで、はれて自由の身になるのではなかろうか。
 ステラは妖しく笑う。

「あなたの魔力はまだまだ利用のしがいがあるのです。あの人の計画は頓挫しましたが、それだけではありませんからね。この国の歴史に刻まれるべき力を持つ《聖女》であるあなたを望む者は多いのですよ。あなたの両親も、国に貢献するためにあなたを閉じ込めていたので、そう簡単に手放そうとは思わないのではないでしょうか」

 こわっ。本当にそういうことになってるの?
 身震いして、ステラの反応を見る。冗談を言っているようには感じられない。

「ええ……。死ぬまで利用されるってことでしょ?」
「そうですね。なので、自由になりたいなら、存在を抹消する必要があるのです」

 どう転ぶにしても、私が死んだことにしたほうが都合がいいようだ、ということは理解した。

「……ちょっと話を整理したいんだけど」
「ゆっくり噛み砕いて説明いたしますので、ワタシと一緒に参りましょう。ワタシはあなたの味方ですよ、我が愛し子ジュエル」

 手を差し出される。
 私は家に帰るつもりはないし、ステラの手を取るつもりもない。急にいろいろなことが繋がって、混乱している。
 大きく息を吸って、たっぷり吐き出す。

「……ごめんなさい。やっぱり一緒には行けません。外側からもっと私の周囲のことを調べたいのです。私が特殊な人間であることは知っています。でも、それがどういうものなのか、私は知らない。もっと勉強して、私は私の意志でこの力をどう使うのか決めたいの」
「あなたは無垢なままでいいんですよ。守り石であるワタシがあなたをお護りします」
「だから、それが嫌だって言ってるの!」

 私が叫ぶと、ステラは大きくため息をついて自身の青い髪をグシャッと掴んだ。

「ああ、煩わしい。ワタシの愛し子によけいなことを吹き込んだのはどこのどいつでしょうねえ。始末せねば」
「これは私の意志です!」
「そうでしょうか」

 ステラが右手を横に薙ぐと、キィンと耳鳴りがする。
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