婚約者に逃げられて精霊使いになりました〜私は壁でありたいのに推しカプが私を挟もうとします。〜

一花カナウ

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3:運命の歯車が回りだす

廃墟にいたのは、私の――

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※※※※※


 空気が違う。肌がピリピリした。
 オパールが先行し、安全を確認してから一同は進む。足音は立てず、息を殺して少しずつ前進。何者かの気配も気にはなるところだが、そもそも放置されていただけあって建物全体が脆くなっている。大きな衝撃を与えることなく、慎重に進む必要があった。

「気配は上だな」

 階段を見つけて、ルビが知らせる。そこには何者かが通った形跡が残っていた。

「進むか?」
「そうね」

 時々建物が鳴る。咆哮に似た声はあれから聞こえていないが、何かが崩れる音や軋む音はどこかから響いてきた。
 何者かの気配も強くなっている。このフロアの上で何か起きている。

「私たちも進みます」
「了解」

 足元を気にしながら先へと進む。建物の奥に進めば進むほど暗く見えにくくなるので、ルビに明かりを出してもらった。紅玉には行き先を灯す力があるのだ。こういう能力は有難い。
 次のフロアに到達するなり、オパールがすぐに伏せるように指示を出した。床に這いつくばるなり、地響きと爆発音が駆け抜ける。空気が強く震えた。

「ちっ……」

 舌打ちする音。それは私たちの誰かが発したモノではない。

「――そろそろ愛し子を返していただきましょうか。そういう計画でしたよね? ワタシに嬲られるのは不本意でしょうに」
「話が違うのはどっちだよ。結局のところ、あんたも彼女を利用したいだけだろう?」

 スタールビーが言い放った。直後、衝撃波が周囲を薙ぐ。空間が悲鳴をあげた。

「彼女が精霊使いになることを望むわけがない。協会が彼女を洗脳したのでしょう? もともと流されやすいお方だ。お優しい心を利用して、精霊使いになるように唆したのです」

 この声。
 私ははっきりと声を聞きとって、スタールビーが対峙している相手が誰なのかに思い至った。
 でも、なぜ、彼が? いや、その前に、彼はやっぱり――

「それはあんたがやろうとしていたことだろ。彼女の膨大な魔力を利用しようとしたんだ」

 となると、この彼女ってのは私のこと?
 戦闘をしながらふたりは言い争っている。どういう状況なのか見えていないこともあってわからない。情報が少なすぎる。
 オパールはそのまま動くなと手で指示を出している。
 盗み聞きをしているのは趣味ではないものの、彼らは明らかに戦闘中、しかも互いに広範囲攻撃を放っているので迂闊に飛び出したら命の危険が伴う。従うのが最良だ。

「ただ死を待つよりはいいでしょうよ。あの男に嫁ぐよりも、ね」
「守り石のくせに、彼女の意志を尊重して守ろうと考えねえってのが気に食わない」
「それはあなたもではありませんか。ワタシを笑うことなんてできないでしょう?」
「…………」

 一瞬沈黙して、壁を殴る音が響いた。パラパラと壁が崩れる。

「計画通りに愛し子をお返しください。彼女を死んだことにできなかったのは残念ではありますが、もうあなたには頼らずこちらで手続きを進めることにします。これ以上あなたに匿わせる必要もないですからねえ」
「だから、なんでそれを彼女に相談しないのかって言ってんだ。あんたが俺に教えてきたよりもずっと彼女は賢いし大人だ。精霊使いになれるだけの基礎はできている。やっと自分の足で立つ決意ができそうだってのに、どうしてそう縛りつけようとする?」
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