婚約者に逃げられて精霊使いになりました〜私は壁でありたいのに推しカプが私を挟もうとします。〜

一花カナウ

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3:運命の歯車が回りだす

外の探索

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※※※※※


 瘴気が濃い。鬱蒼としげる草木は周囲を薄暗く見せる。鳥の声はなく、木々の揺れる音のみ響く様は少々不気味だ。

「こりゃあ、気配を辿るのは無理だな」

 オパールがまわりを見渡しながら告げる。

「この土地の特性が仇となったわね」
「魔物から身を隠すにはうってつけなんだがなあ」

 さまざまな草が生い茂る地面を見るが、踏まれて道になっているということもない。外には出なかったということだろうか。
 そんなことを考えていたら、オパールがヒョイっと跳び上がってエントランスの屋根に着地した。

「霧も出ているなあ。遠くを視認するのも難しそうだ」
「……鉱物人形の身体能力ってすごいんですね」

 そうだった。人に似た姿をしているが、彼らは鉱物人形だ。人間の感覚で調べたところで、見つけられないものはある。地面を歩かずとも、ここから跳躍して木の上に着地することもおそらく可能であるわけで。

「まあ、そうだな」
「スタールビーが偵察や調査に特化していたとしても、基本的な身体能力が劣っているわけじゃないはずだ」
「ですよね。病棟から脱出したときも、五階から飛び降りて元気だったわけで」

 オパールが私たちのいる場所にふわりと降り立った。このくらいはたやすいということだろう。つまりはそういう視点で彼のとりうる行動を考えておく必要がある。

「――あ。あそこ、木が折れていませんか?」
「ん? 見てくる」

 離れた場所に飛んでいったと仮定をして目を凝らすと、なんらかには気付けるものだ。私が指で示した先に、オパールが跳んでいく。

「お、でかしたな。折れてそう経っていなさそうだぜ?」

 片手で掴むには心許ないくらいに太い枝を拾い、わかりやすくこちらに向かって振ってくれる。背の高い草にまぎれていたが、違和感は正しかったようだ。

「それに、この先は誰かが踏んでいったような跡がある」
「その先にいるんですかね?」
「行く価値はあるんじゃないか?」

 オパールの返事を聞いて、アメシストが私をさらっと横抱きにする。抵抗する間なんてなかった。

「はい?」
「足元、危ないから掴まってて」
「ええ……」

 もはや恥ずかしさなんてものはなくなっているのだが、だからといって移動のたびに抱えられるのはいかがなものなのだろうか。

「体力の温存だと思って、さ」
「兄の言うとおりだ。草木も怪我の元になる。協会が支給したその制服は肌の露出が少ないとはいえ、過信してはならない」
「……わかりました」

 アメシストとシトリンに言われてしまうと反論できない。ここは甘えておこう。

「……ま、その方が安全だな」

 ルビが私たちを見てそう呟くなり、オパールのほうに跳躍する。かと思えばオパールも戻ってきて、セレナを担ぐなりすぐにルビと合流する。

「精霊使いって、鉱物人形に抱えられて移動するものなんですかね?」
「精霊使いは非戦闘員だから、こうなりがちなんだろう」
「なるほど、だから現場には出ないんですねえ」

 鉱物人形を生み出す力はあっても、魔物と戦う力を必ずしも持っているわけではない。戦場に出たところで、足手まといになる精霊使いはおそらく多いのだろう。 
 私たちは何者かが通って行ったらしい痕跡を追って森の中を進む。
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