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3:運命の歯車が回りだす
情報の整理
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※※※※※
朝食を進めつつ状況をまとめたところ、スタールビーの足取りについてわかることは何もなかった。
一方で、前のマスターとスタールビーについての話は、ルビとダイヤからいくつか聞くことができた。スタールビーが仲間の中では最も古株であること、どういう経緯があってマスターと契約を結んだのかを知っている者はおそらくいないこと。前のマスターが亡くなって次々に鉱物人形としての姿を維持できなくなる中、スタールビーだけがほぼ影響がないように振る舞っていたこと――彼はだいぶ異質な存在だったようだ。
スタールビーという鉱物人形は仕様上では魔物との戦闘も得意であるが、彼という個体は戦闘よりも調査技能のほうが優位だったようだ。戦場に出ることは稀で、偵察任務や調査任務を好んでいたし、実際そっちの方が成績は良かったという。
「――一応、協会本部に再度照会を頼んでいるけれど、訳アリなのは間違いなさそうね」
話を聞いていて、セレナはそうまとめる。精霊管理協会所属の部隊にいた事実があるのなら、なんらかの情報が協会に残っているはずである。それを調べておこうというわけだ。
「セレナさん、その情報が届いたら、私にも共有していただけますか?」
「それはもちろんよ」
新しいマスターとして相応しいかの調査はしていると私と再会したときにスタールビーは告げていた。おそらく、接する相手を調べることが習慣になっているのだろう。
私が社交界に出ていない令嬢であることを、彼はすぐに見抜いた……ツテがあるのか、私の言動にそれを示すものがあったのか……他人と比べたららしくないのだろうとは思っているけど、目にあまる行動でもしていたのかなあ……
これでも、実家での軟禁生活ではきっちり躾けられていたはずなのだ。監視が常にあって、ひどい振る舞いをしていれば注意された。政略結婚で家を出ることになるから、品位を欠く行動はしないようにとキツく叱られていた。……まあ、あの人との結婚はなくなったけど。
「気が進まないけれど、部屋を調べてみましょうか。見落としていることもあるかもしれないし」
「そうだな……」
セレナの号令に、ルビが浮かない顔をした。心配しているからなのか、あるいは私たちに明かしていないなんらかの事情を抱えたままなのか、わからないが。
※※※※※
朝食の片付けをオパールに任せて、私たちはスタールビーの部屋に集まった。静かだ。
「部屋、入るぞ」
扉を叩いて反応がないことを確認し、ルビが声をかけて中に足を踏み入れた。
他の部屋がそうであるように、ベッドと机と棚、奥に窓と右手側にクローゼットがあるひとり部屋だ。ベッドは使われた形跡がなく、机の横に鞄が置かれているほかは異常があるように見えない。
「窓は閉められたままだな。鍵もかかっている」
カーテンを開けて、ルビが私たちに示した。鍵はかかっている。
「スタールビーには特殊技能ってあったのかしら?」
「さあ」
「どうでしたかねえ。彼は自分の手のうちを明かさない男でしたから」
セレナの問いに、ルビとダイヤが答える。嘘をついているようには見えない。
特殊技能……
私はそれを聞いて、あることを思い出した。小さく挙手すると、セレナが私を見やる。
朝食を進めつつ状況をまとめたところ、スタールビーの足取りについてわかることは何もなかった。
一方で、前のマスターとスタールビーについての話は、ルビとダイヤからいくつか聞くことができた。スタールビーが仲間の中では最も古株であること、どういう経緯があってマスターと契約を結んだのかを知っている者はおそらくいないこと。前のマスターが亡くなって次々に鉱物人形としての姿を維持できなくなる中、スタールビーだけがほぼ影響がないように振る舞っていたこと――彼はだいぶ異質な存在だったようだ。
スタールビーという鉱物人形は仕様上では魔物との戦闘も得意であるが、彼という個体は戦闘よりも調査技能のほうが優位だったようだ。戦場に出ることは稀で、偵察任務や調査任務を好んでいたし、実際そっちの方が成績は良かったという。
「――一応、協会本部に再度照会を頼んでいるけれど、訳アリなのは間違いなさそうね」
話を聞いていて、セレナはそうまとめる。精霊管理協会所属の部隊にいた事実があるのなら、なんらかの情報が協会に残っているはずである。それを調べておこうというわけだ。
「セレナさん、その情報が届いたら、私にも共有していただけますか?」
「それはもちろんよ」
新しいマスターとして相応しいかの調査はしていると私と再会したときにスタールビーは告げていた。おそらく、接する相手を調べることが習慣になっているのだろう。
私が社交界に出ていない令嬢であることを、彼はすぐに見抜いた……ツテがあるのか、私の言動にそれを示すものがあったのか……他人と比べたららしくないのだろうとは思っているけど、目にあまる行動でもしていたのかなあ……
これでも、実家での軟禁生活ではきっちり躾けられていたはずなのだ。監視が常にあって、ひどい振る舞いをしていれば注意された。政略結婚で家を出ることになるから、品位を欠く行動はしないようにとキツく叱られていた。……まあ、あの人との結婚はなくなったけど。
「気が進まないけれど、部屋を調べてみましょうか。見落としていることもあるかもしれないし」
「そうだな……」
セレナの号令に、ルビが浮かない顔をした。心配しているからなのか、あるいは私たちに明かしていないなんらかの事情を抱えたままなのか、わからないが。
※※※※※
朝食の片付けをオパールに任せて、私たちはスタールビーの部屋に集まった。静かだ。
「部屋、入るぞ」
扉を叩いて反応がないことを確認し、ルビが声をかけて中に足を踏み入れた。
他の部屋がそうであるように、ベッドと机と棚、奥に窓と右手側にクローゼットがあるひとり部屋だ。ベッドは使われた形跡がなく、机の横に鞄が置かれているほかは異常があるように見えない。
「窓は閉められたままだな。鍵もかかっている」
カーテンを開けて、ルビが私たちに示した。鍵はかかっている。
「スタールビーには特殊技能ってあったのかしら?」
「さあ」
「どうでしたかねえ。彼は自分の手のうちを明かさない男でしたから」
セレナの問いに、ルビとダイヤが答える。嘘をついているようには見えない。
特殊技能……
私はそれを聞いて、あることを思い出した。小さく挙手すると、セレナが私を見やる。
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