婚約者に逃げられて精霊使いになりました〜私は壁でありたいのに推しカプが私を挟もうとします。〜

一花カナウ

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3:運命の歯車が回りだす

気持ちのいいやり方

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「気持ちのいいやり方が知りたいなら、俺に聞いてくれよ。手ほどきするぜ?」
「遠慮しておきますね」

 テーブルを挟んだ正面に回ってきたルビが私を誘う。
 両脇がピリッとしたのを感じ取って、私は素早く毅然と返した。

「つれないなあ」

 引き下がらないルビを、私は睨む。彼は意外そうな顔をした。

「アメシストとシトリンを刺激するような発言は控えてください、あなたのマスターとして命じます」

 はっきりと宣言をする。ここははっきりさせておかないといけない。

「お気に入りを贔屓するってことかよ」
「そうとっていただいて結構です」
「……わかった」

 怯まずに言い切ったからか、少し驚くような表情を見せてルビが引き下がった。
 人間関係を調整するのも精霊使いの仕事だとセレナから聞いている。通常であれば少しずつ鉱物人形を喚び出して慣らしていくものらしいが、今回は緊急事態でもあったので私の身の丈に合わない鉱物人形が揃ってしまった。しかもスタールビー、ルビ、ダイヤは先代のマスターがいる。関係づくりに難航するのは当然だと言われた。
 なるほどなあ……
 受動的な人間関係を構築してきたこれまでの私のやり方では彼らになめられてしまう。もっと能動的に、積極的に関係を築いていかないといけない。
 こんな状態でうまくやっていけるのだろうか。
 一山越えたかと思ってホッとしていると、左右からの尊敬の視線を感じ取った。
 アメシストとシトリンが私を見て目を輝かせている。

「僕たちは君のお気に入りなの?」
「君にとって特別ってことなのか?」

 すごく嬉しそうだ。
 君たちはほんと、仔犬みたいだね?
 紫黄水晶にも、紫水晶も黄水晶も、鉱物自体にそういう性質はなかったはずだ。こうして懐いてくるのは精霊使いと鉱物人形という関係によるものなのだと思いたい。
 私は意識して微笑む。

「おふたりはお気に入りで特別ですよ。そうじゃなかったら、部屋に入れたりしませんよ」

 使役する鉱物人形への好意に差異を設けるのは得策ではない。だが、みんなとうまくやっていくのは私には無理だ。ふたりの好意を利用する形でしか、私は私を守れない。

「ふふふ。嬉しいな」
「そう思い続けてもらえるように努力しよう」

 ニコニコされると、良心が痛む。ふたりを好いているのは本当なのだけども。

「――セレナは昼近くまで休んでいるだろうからいいとして、スタールビーはどうしたんだろうな?」
「おや、確かに見ていないですね」

 オパールの問いに、厨房で手伝いをしていたらしいエプロン姿のダイヤが返す。
 食堂には、私とアメシスト、シトリン。ルビとオパールとダイヤの六にんが揃った。セレナは部屋にいるとのことなので、まだ見ていないのはスタールビーである。

「オバケを怖がって眠れなかったんじゃないだろうな」

 やれやれといった様子でルビが言う。

「夜中も静かではありましたがねえ。建物内の異常もありませんでしたし」

 ダイヤが思い出しながら告げる。念のためということで、昨夜はダイヤに徹夜で見回りをしてもらったのだった。

「ったく、何を恐れているんだか。説明がつかない超常現象って言っても、ここの場合は瘴気が見せる幻覚だろう?」
「瘴気が原因なら魔除けや浄化の能力がある鉱物人形には影響がない話ですし、心配する必要はないと私も思いますよ」

 ルビとダイヤにはスタールビーが怖がる理由がわからないようだ。

「それはそうと、ルビ。そろそろ食事を始めたいので、スタールビーを呼んできてください」
「了解。冷やかしてくる」

 面倒くさそうな様子で、ルビは食堂を出て行った。
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