婚約者に逃げられて精霊使いになりました〜私は壁でありたいのに推しカプが私を挟もうとします。〜

一花カナウ

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3:運命の歯車が回りだす

ベッド以外に寝られる場所はないので

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「……ベッド以外で休めそうな場所はないんだな」
「部屋は広いんですけど、長椅子もないので」

 書き物をするのにちょうどいい座り心地の椅子はあるが、そこで休めるかといえば否である。ベッド以外で寝るなら、床の上だろう。床の部分もまあまあ広い。

「ベッドは並んで寝られるだろうか」

 シトリンの発言に、つい私は彼らを見上げてベッドを見やる。一人で寝るには広すぎるが、三人くらいでもわりと余裕がある気がする。

「寝られそうなくらいは広いんですよね……」
「マスター、そこは素直に答えなくてよかったんじゃないか?」

 素直な感想を呟くと、シトリンが意外そうな顔をしてふっと笑った。
 しまったな。

「……ああ、えっと、そうですね……。誘っているつもりはないので、誤解しないでほしいんですけど」
「誤解させてほしいものだ」

 ほいっと自分が抱えてきた枕をアメシストに押し付けると、シトリンは私を横抱きにした。困惑している間にベッドの中央に寝かされてしまい、起き上がるまもなく腰の上に跨られた。

「シトリン、さん? ええ、あの、こういうことをするのはアメシストさんのほうかと――」

 逃げ場所を探してキョロキョロするが、手遅れであることを示すものしか目に入らない。右を向けば彼の左手が、反対を向けば彼の右手が降ってきた。
 どうするのよ、私!

「君は少々油断が過ぎる。安全だと思ってくれるのは嬉しいし、喜ばしいことだ。君の気持ちを裏切るようなことはしたくない」
「ごめんなさい。私、引きこもってばかりだったから、コミュニケーションを取るのがうまくないんです。思わせぶりに感じていたら、申し訳ないんですけど、そういう意図はなくって」

 わたわたしてしまう。この状態は詰みであって、逃げきれないと覚悟している。どう話し合ったらいいんだろう。わからない。

「それはわかってるんだ。だが、ルビに気安く触られているのを見て、俺はとても不快だった。兄が君に触れているぶんにはなんとも思わなかったから、鉱物人形とマスターはそういう関係でいいのだろうと考えていたんだがな……あれは他所者ではない、仲間になったと言葉では理解している。でも、この落ち着かない気持ちはなんだろうな。こういう方法でしか、君にぶつけられないのがもどかしい」

 そう訴えられても、どうしたらいいのかその方法を知らないのだ。
 切ない感情が黄水晶の瞳に滲んでいる。
 適切ではないとは、シトリンさんもわかっているんだろうけれど……

「……こ、これ以上は触らないで」

 止めたのに、シトリンは手の甲で私の頬を撫でた。くすぐったい。思わず目を細める。

「だ、だめ、で、すっ。魔力の補給なら、ちゃんと適宜しますから、触らないで」
「マスター……」

 顔が近づいてくる。逃げられない。
 ここでキスされたら。私。
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