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3:運命の歯車が回りだす
一緒に寝よう?
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夕食後。
私に割り振られた部屋は広かった。私が使うには大きすぎるベッドがどんっと置かれ、机と棚が壁に沿って並ぶ。右手奥にはクローゼット。その中に研修生用の制服と寝間着をセレナが置いてくれた。
ベッドが広いのはみんな一緒というわけではないのよね……
別のフロアのアメシストとシトリンの共同部屋は一人用のベッドが一台ずつ配置されていた。セレナが選んだ部屋は一人部屋で、ベッドは普通のサイズのものが一台である。
私の部屋としてここが割り振られたのには何か意図があるのか、ないのか……
ふむ、と唸っていると、扉がノックされた。警戒はするようにとセレナに言われていたので、外の気配を探る。この魔力の感じはアメシストとシトリンのようだ。
「マスター? 寝ちゃった?」
「なんですか?」
あとは眠るだけの状況で彼らを部屋に招くのはよくないと思いつつも、ふたりの顔を見たくなって私は扉を開けた。
そこには枕を持ったアメシストとシトリンがいた。支給されたお揃いの寝間着姿である。
アメシストが嬉しそうにニコッと笑った。
「一緒に寝ない?」
「いや……寝られないですね……」
私が困って返事をすると、シトリンが真面目な顔をして一歩近づいてきた。反射的に私は半歩後退りする。
「心配しないでくれ。兄は俺が止めるから」
「弟……僕がなにかやらかすのを前提で言わないでほしいよ」
「……はあ」
いろいろぐるぐる思うところはあったが、私は扉を大きく開けてふたりを部屋に招いた。
「いいですか、夜に異性の部屋を訪ねるのはマナー違反なんです。ましてや、一緒に寝ようだなんて不埒な誘いはよろしくないと思います」
まずは注意をしておこう。私は腰に手を当ててふたりに告げた。
ふたりはそろって首を横に傾げた。
「昨日は同じ部屋で寝たよ?」
「同じベッドではなかったでしょう?」
「それはそうだけど、さ」
私と同程度の良識は持ち合わせているようで、アメシストが葛藤しているのがわかる。話は通じそうでなによりだ。
それはそれだけど、君は一緒に寝たいんだね……
添い寝で済むなら、考えなくはないのだが。成人した男性の姿を持つ彼らと一緒にベッドに入ることが、あまりよろしくないだろうと思う程度には私だって警戒するのである。経験も知識もないけど、本能的に。
どう話を展開して説得しようかと悩み始めたアメシストを脇において、シトリンが私を見て口を開いた。
「マスター? 結界が張られているとはいえ、ここは幽霊騒ぎのある屋敷だ。なにか奇妙なことが起こる可能性は否定できない。そばにいたほうが対処しやすいと思うのだが」
合理的な考えである。私もそのことが引っ掛かって心細くなり、ふたりを部屋に招いてしまったことは否めない。
シトリンの意見に、アメシストが乗っかってくる。
「それに、ルビが夜這いに絶対に来ると思うんだよね。マスター一人じゃ対応できないでしょ? 僕らふたりが揃っていれば、追い払えるから」
「それはまあ……そうですねえ……」
ルビが私を見て何か企んでいる気配は察している。ダイヤも警戒しているようで、信頼できる誰かと一緒に寝たほうがいいと進言してきたほどだ。あれはそういうものだと考えた方がいいのだろう。
「隣で寝るだけにするから、さ」
甘えた声で言われても、隣で寝るのではなく夜通し番をしていろと命じたいところである。
シトリンが部屋を物色している。
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