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3:運命の歯車が回りだす
大浴場にて
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※※※※※
「わぁ、広い!」
風呂は大浴場である。男女で別々に使えるように内部でふた部屋に分かれている。タイルの床に広い浴槽――複数人が同時に入れるお風呂は初めてだ。実家の庭に設置していたプールと同じくらいの浴槽はときめくものがある。
さすがに泳ぎはしませんけどね。
「二人で使うには広いわね。でも、部屋に風呂はついていないし、シャワーもないからねえ」
今はセレナと二人きりである。一緒に入りたがった連中をセレナが黙らせて、こうなった。
まあ、セレナさんが一緒なら、なにか起きても対応できるだろうから安心だよね。
隣の男湯から、アメシストとシトリンのはしゃぐ声がする。楽しそうでなによりだが、やはり見た目に対して態度が幼くはなかろうか。
ちなみに、鉱物人形は人間と違って代謝がないので入浴する必要は特にないとのこと。ただ、元となった鉱石の性質によっては入浴することが望ましい個体も、絶対に入らないほうが良い個体も存在する。例えば、オパールは性質の都合で入浴が好きらしい。蛋白石は乾燥が大敵だからだろう。
「研修中は私たちの貸切なんですか?」
「そうよ。基本的には研修が終わるまで誰も来ないわ」
「へえ……」
お湯を浴びて体を洗い始めるセレナの隣で、私もごそごそと体を洗い始める。
「魔物もおそらくは出ないでしょうね。山を包む瘴気の霧がこの建物の気配をすっかり隠してしまうから、私たちが出入りしていても外部からは気づきにくいのよ」
「それでここ、なんですね」
集落は瘴気を避けて作られる。それは瘴気に長時間さらされると人体に影響が出るから、というのが国民の常識だ。守り石は余計な瘴気をまとわずに済むようにという意味合いでも身につけていることが多い。ダイヤが瘴気が濃いことを案じていたのはそういうことだ。
それでもこの場所を選んだというのには、ここがたまたま空いていたから以上の理由があったというわけである。
土地の特性も利用する、なるほど。
だが、一方で、懸念することはあった。私は手を止めて、セレナを見る。
「……セレナさんは私が魔物を引き寄せているんだってお考えなんですか?」
「そうね、否定しないわ」
即答だった。こういう態度には好感がもてる。
「怖くないんですか? オパールさん、あんな大怪我負っていたのに」
「これが私の日常だからねえ。彼が傷つくことに、心を痛めないわけはないんだけど、兵器を兵器らしく扱うのも精霊使いではあるから」
そう答えて。セレナは肩をすくめた。
……あ。
石鹸の泡が流れて見えた彼女の白い肌に複数の傷があることに気づく。完治しているように見えることから、さっきの戦闘によるものではないことは明白だ。戦場に出る協会職員である彼女もまた、これまでの魔物との戦闘で何度も怪我を負ってきたに違いない。
「それにオパールは仕事のパートナーだし、お互いに仕事をしてなんぼでしょ。怖がって仲良くおままごとをするのは、なんか違うって思うのよねえ」
「強いですね」
「あなたも充分に強いわ。私とは別の方向だけど」
「…………」
私は返事に困った。なにをもって彼女は強いと評したのだろう。私はそのまま黙ってしまう。
もし、私の特性を知っているからだったら――
セレナは私の事情をどこまで理解しているのだろう。
「ふふふ。まあ、困ったことがあったらなんでも聞いてちょうだい。答えられることはなんでも教えるから」
「わかりました」
他愛のない話を交わして、夜はふけていく。
「わぁ、広い!」
風呂は大浴場である。男女で別々に使えるように内部でふた部屋に分かれている。タイルの床に広い浴槽――複数人が同時に入れるお風呂は初めてだ。実家の庭に設置していたプールと同じくらいの浴槽はときめくものがある。
さすがに泳ぎはしませんけどね。
「二人で使うには広いわね。でも、部屋に風呂はついていないし、シャワーもないからねえ」
今はセレナと二人きりである。一緒に入りたがった連中をセレナが黙らせて、こうなった。
まあ、セレナさんが一緒なら、なにか起きても対応できるだろうから安心だよね。
隣の男湯から、アメシストとシトリンのはしゃぐ声がする。楽しそうでなによりだが、やはり見た目に対して態度が幼くはなかろうか。
ちなみに、鉱物人形は人間と違って代謝がないので入浴する必要は特にないとのこと。ただ、元となった鉱石の性質によっては入浴することが望ましい個体も、絶対に入らないほうが良い個体も存在する。例えば、オパールは性質の都合で入浴が好きらしい。蛋白石は乾燥が大敵だからだろう。
「研修中は私たちの貸切なんですか?」
「そうよ。基本的には研修が終わるまで誰も来ないわ」
「へえ……」
お湯を浴びて体を洗い始めるセレナの隣で、私もごそごそと体を洗い始める。
「魔物もおそらくは出ないでしょうね。山を包む瘴気の霧がこの建物の気配をすっかり隠してしまうから、私たちが出入りしていても外部からは気づきにくいのよ」
「それでここ、なんですね」
集落は瘴気を避けて作られる。それは瘴気に長時間さらされると人体に影響が出るから、というのが国民の常識だ。守り石は余計な瘴気をまとわずに済むようにという意味合いでも身につけていることが多い。ダイヤが瘴気が濃いことを案じていたのはそういうことだ。
それでもこの場所を選んだというのには、ここがたまたま空いていたから以上の理由があったというわけである。
土地の特性も利用する、なるほど。
だが、一方で、懸念することはあった。私は手を止めて、セレナを見る。
「……セレナさんは私が魔物を引き寄せているんだってお考えなんですか?」
「そうね、否定しないわ」
即答だった。こういう態度には好感がもてる。
「怖くないんですか? オパールさん、あんな大怪我負っていたのに」
「これが私の日常だからねえ。彼が傷つくことに、心を痛めないわけはないんだけど、兵器を兵器らしく扱うのも精霊使いではあるから」
そう答えて。セレナは肩をすくめた。
……あ。
石鹸の泡が流れて見えた彼女の白い肌に複数の傷があることに気づく。完治しているように見えることから、さっきの戦闘によるものではないことは明白だ。戦場に出る協会職員である彼女もまた、これまでの魔物との戦闘で何度も怪我を負ってきたに違いない。
「それにオパールは仕事のパートナーだし、お互いに仕事をしてなんぼでしょ。怖がって仲良くおままごとをするのは、なんか違うって思うのよねえ」
「強いですね」
「あなたも充分に強いわ。私とは別の方向だけど」
「…………」
私は返事に困った。なにをもって彼女は強いと評したのだろう。私はそのまま黙ってしまう。
もし、私の特性を知っているからだったら――
セレナは私の事情をどこまで理解しているのだろう。
「ふふふ。まあ、困ったことがあったらなんでも聞いてちょうだい。答えられることはなんでも教えるから」
「わかりました」
他愛のない話を交わして、夜はふけていく。
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