婚約者に逃げられて精霊使いになりました〜私は壁でありたいのに推しカプが私を挟もうとします。〜

一花カナウ

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2:私の人生が動くとき

報告を終えて

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「ん?」
「安心して。何かあっても、僕たちがいるから大丈夫さ」
「兄の言うとおりだ。君の鉱物人形は俺たちなんだから、真っ先に頼ってほしい」

 アメシストとシトリンが声をかけてくれた。暗い顔でもしていたのだろうか。ふたりを見ると、元気が出る。

「そう、ですね。アメシストさんとシトリンさんには期待していますよ」

 私が頷くと、両方からぎゅっと抱きしめられた。なんだ、この展開。

「わわっ、あのですね、許可を取って?」
「ちょっとだけ、だから。なんか、よそものに触られているのを見たらイラッとした」
「少しだけだ。許してほしい」
「ルビさんはもう、よそものではないんですけど……」

 嫌というわけではない。だから拒むこともできなくて、鉱物人形の回復のためでもあると知ったらなおさら離れてとは強く言えなかった。身体をはって私を守ってくれたのだから。
 ただ、抗議の意味合いを乗せた長いため息をつく。

「あなたは精霊に好かれる性質なのね」
「微笑ましく見守らないでください。結構困っているんですけど、これ」

 女性職員が笑うので、私は不満をぶつけた。まだアメシストもシトリンも離してくれない。

「すぐに慣れるわよ」
「慣れるとか慣れないとかいう話ではないかと……」

 身体がもたないのではなかろうか。この先のことを思うと頭が痛い。
 そんなやり取りをしている間に、女性職員が他の協会職員に呼ばれる。私たちに聞こえないように小声でやり取りをしていたが、彼女は頷くと私に視線を向けた。
 なんだろう?
 呼びにきた協会職員は元の持ち場に戻っていき、彼女は残っていた。

「ちょっといいかしら?」
「はい」

 キリッとした重めの空気に、アメシストとシトリンは離れて横に並ぶ。

「あなたには仮免許証を出しているけれど、このまま継続で精霊使いの研修を受けていただきます。あなたの身を守るためにも、それがきっと最良だから」

 女性職員に説明されて、私はポカンとしてしまった。
 研修を?

「え……いえ、私、まだ精霊使いになるとは決めていないんですが」

 私の反応に、彼女は困ったように笑った。

「研修は受けてもらうし、ゆくゆくは免許証も発行するけれど、仕事として続けるかどうかを決めるのはあとで構わないわ。こうしてあなたをマスターとして認めている鉱物人形が複数いて、免許証も持たないのに鉱物人形を増やされてはこちらの管理も面倒なのよ。まずは、精霊使いとしての知識と技術を身につけて、より安全な状態で鉱物人形たちと接してほしい」
「はあ……」
「特待生扱いで協会はあなたの研修を請け負うわ。金銭の要求はしないから、その点は心配しないで」
「むむ……」

 拒否できない感じだ。
 彼女の言い分、精霊管理協会の言い分はわからなくもない。精霊使い、ひいては鉱物人形を管理する目的で精霊管理協会があるのならば、こうして管理外の私のような人間が勝手に鉱物人形を喚び出して侍らせているのはよろしくない状況なのだろう。
 この数日接している感じでは鉱物人形は人間に似ているが身体能力は彼らのほうが優れているようだ。魔物と戦えるだけの力を持ち、術を使える。人間も訓練をすれば術をある程度使えるようになるようだが、魔力を持っている人間も珍しければ、その力を自在に操れるようになるのも才能が必要で、たくさんいるわけではない。
 私は内包している魔力量がずば抜けて多いと聞いている。私の母も、そういう体質だそうで、今思えば、私の監視をしていた年齢不詳のあの美しい青年も、鉱物人形だったのかもしれない。母は精霊使いではないから、そこにいるスタールビーのような事情持ちか、私のように偶発的に喚んでしまった個体なのだろう。
 いや、物心がつく前に私が喚んだ可能性もあるか……
 外に連れ出すことなく、彼が私の軟禁生活に付き添っていたのが人間ではなかったからだったら、それは納得のいくものだった。
 私の両親、いや、私の一族は――
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