婚約者に逃げられて精霊使いになりました〜私は壁でありたいのに推しカプが私を挟もうとします。〜

一花カナウ

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2:私の人生が動くとき

精霊使いって安全……なわけがないですよね

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※※※※※


 目が覚めたとき、どういう状況になっているのかよくわからなかった。
 えっと……ふたりに挟まれて寝ていたはずだけど。
 私はむくりと身体を起こす。足元のほうにふたりの気配を感じた。

「…………」

 気持ちよさそうに、アメシストとシトリンがくっついて寝ていた。青年の姿をしているのに、仔犬が身を寄せ合って寝ているみたいな様子でなんとも微笑ましい。
 昨日も思ったけどさ、仲良いよね……
 もともとひとつの石だったのだ。接触しているほうが安定するのかもしれない。

「別々に喚び出すのがあの石にとって正解だったのかもしれないけれど、こういうのを見せられるとアメトリンとして喚ぶべきだったんじゃないかって考えちゃうよねえ……」

 ふたりの頭を撫でてやると、くすぐったそうに身じろぎをして目を開けた。

「んー、おはよう、マスター」
「おはよう。眠れなかったのか?」

 それぞれが小さくあくびをして身体を起こした。

「おはようございます、アメシストさん、シトリンさん。私はちゃんと眠れたので元気です。おふたりはいかがですか?」
「僕は元気だよ。マスターの隣で寝ると回復も早いみたいだねえ」
「俺も元気だ。ここは寝心地がいい」
「そりゃあまあ、狭いベッドでぎゅうぎゅうに寝ていたのと比べたら、心地がいいんじゃないですかね?」

 病院では一人用のベッドにふたりで寝ていたのだ。このベッドは充分すぎるくらい広いのだから、それだけでも快適だろう。

「今夜も一緒に寝られるとありがたいんだが」
「私に手を出さない約束ができるなら、前向きに検討しましょう」
「僕も一緒がいいなあ。次は毛布も持ってくるから、ね?」
「……考えさせてください」

 ふと思い出したが、ルビは夜中にこの部屋を訪ねたのだろうか。ぐっすり寝過ぎて私は起きもしなかったのだが。


※※※※※


 アメシストとシトリンのふたりを連れ立って食堂を訪ねると、朝食の準備が進んでいた。焼いたパンの匂いとお茶の香りが満ちている。

「おはよう、マスター。昨夜はお楽しみだったのか?」
「おはようございます、ルビさん、別に何も楽しいことはありませんが」

 なんのことだろうと首を傾げると、アメシストとシトリンが居心地悪そうにした。厨房から顔を出したオパールが笑っている。

「あまりからかってやるなよ、ルビくん。マスターの部屋に忍び込めなかったからって、そういうのは感心しないなあ」
「鉱物人形がマスターに触れ合いを求めるのは自然だろう? あんただって、教官殿とよろしくしていたんじゃないのか?」

 不満げにルビが返すと、オパールは朝食の準備をしながら余裕の笑みを浮かべる。

「そりゃあオレと彼女は夫婦だからな。することはするぞ」
「……ご夫婦なんですか?」

 思わぬ発言に、私は適当な椅子に腰を下ろして尋ねた。オパールはこちらを見る。

「説明されなかったのか。協会職員は別段の事情がない限りは既婚者なんだよ。人間の伴侶がいなければ、オレらみたいに人間と鉱物人形で結婚しているんだぜ。回復させることを考えたら、そういうことにしておいたほうが都合がいいだろ?」

 なるほど、粘膜接触……
 私はわかったようなわからないような気持ちで頷いておく。
 そういえば、セレナの姿が見えないのだが、体力的なものでまだ寝ているということだろうか。
 むむむ……いつかはそういうことをしないといけなくなるんでしょうか……
 私はしれっと両隣に挟んで座るアメシストとシトリンを見やる。
 大きな怪我をさせなければいい話、よね?

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