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2:私の人生が動くとき

私の家の事情

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 私に精霊使いとしての才能があったことには驚きだが、そもそも魔力値が非常に高い珍しい体質であることは知っていた。祝福された石を見抜く力とそれが関連しているのかわからないものの、精霊使いの才能があったならそっちは納得できる。
 両親は私の体質を知り、魔力が暴走することを防ぐための術を幾重もかけて、いつか来る婚礼の儀まで匿ってくれた。それが私のためになっていたのかは謎だけど、結婚をすることで彼らに恩返しができると、少なくとも私は考えていたのだ。
 私が肩をすくめると、アメシストとシトリンが左右から抱き締めてくれた。

「え、あの?」

 慰めようとでもいうのだろうか。ふたりの体温はほどよく温かくて落ち着く。

「君は穢れてなどないよ」
「協会が過保護なだけだ」

 穢れていない?
 ふたりの言葉に私は一瞬安堵したものの、すぐさま首を横に振る。

「でも、こうして入院しているわけで、元婚約者も両親も信じてくれないと思いますよ?」

 実際も大事だが、体裁の問題もある。彼らはその両方をすごく気にするだろう。
 私の言葉に、アメシストは唸る。

「あー、それはそうかも」
「むむ……精霊管理協会は君を精霊使いとして取り込みたいようだからな。瘴気を取り除くためだと言って、君を家庭から引き離すつもりなのだろう」
「なるほど、そういう……」

 組織としての思惑があるなら納得だ。
 入院の待遇は悪くないし、聞きたいことについての質問はあの女性職員さんがすぐに答えてくれる。説明の仕方が独特ではあるが、あれはいろいろな都合があってのことなのだと考えれば合点がいく。
 となると、彼らと交わってもいいって告げたのは、私を揶揄いたかったわけじゃなくて、婚約者から私を引き離すためでもあったのでしょうね。
 清い身であることを求められたのは、瘴気の話はもちろんのこと、処女であることもである。結婚まで口づけをしないと避けられていたあたりも、そういう潔癖ゆえだ。

「……私、聖霊使いに向いていると思います?」

 帰る家を失ったとして。
 私は構えておかねばならない。身の振り方ひとつで私の人生は大きく変わる。
 学問は専属の家庭教師を招いてきちんと修めているが、仕事は持っていない。婚約者の都合で、二十歳を過ぎた今でも一度も仕事をしたことがなかった。なんなら、家事も経験がないくらいである。
 個人の財産を持っていないことも気掛かりだ。家を追い出されて、果たして私は一人で生活できるのだろうか。
 才能を見込んでくれるなら、私は精霊使いになることを選びたい。
 私の質問に、ふたりはぎゅっと抱きしめることで応じた。

「才能はあるに決まってるじゃないか。このまま僕たちのマスターになってくれたら嬉しいよ!」
「ああ。ライセンスを持っていないにもかかわらず、俺たちを喚び出せた優秀なマスターだからな。胸を張っていい」

 ふたりの言葉は、思ったよりも胸にしみた。家で褒められることがほとんどなかったからかもしれない。

「……少し、泣いてもいいですか?」

 もちろん、と両隣から聞こえてくる。私は声を立てて泣いた。

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