婚約者に逃げられて精霊使いになりました〜私は壁でありたいのに推しカプが私を挟もうとします。〜

一花カナウ

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2:私の人生が動くとき

腹の探り合い

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「協会のお世話になるのはダメなんですか?」
「仲間と離れ離れになることが確定しているからな。場合によっては、鉱物人形にならずに破棄されることも考えられる。俺は、いや、俺たちは、自分が望む相手ときちんと契約したいんだ」

 真っ直ぐな目だ。
 彼が仲間を商品として見せてきたことについては腑に落ちないところはあれど、ひとつも売れていないのは彼が拒んだからではないだろうか。
 いや、そもそも商品として広げていたのは、仲間たちが新しいマスターを見定めるためなのかもしれない。つまり初めから、あのペンダントトップらは私に売るつもりなんて微塵もなかったということだ。
 それなら、アメトリンのペンダントトップをあとから出して押し付けてきた理由にも合点がいく。
 スタールビー自体は強運の石。魔除けの石。彼が仲間を本当に売るつもりでいたなら、あそこに残っていた石の数はもっと少なかったはず。誰でもいいから売ろうとしていた、というわけではないと告げたのはおそらく真実だ。
 これはちゃんと向き合ったほうがいい問題のようね……

「……えっと。とりあえず、食べてもいいですか? お腹すいてまともに考えられそうにないんで」

 お腹がぐぅっと鳴った。家のこと以外も考え出したら頭が空腹を認識し出したらしい。

「それはそうだな。食事は大事だと前のマスターも言っていたし」
「では、失礼して」

 遠慮なくもぐもぐと食べる。
 自然な甘みがあってパンが美味しい。食事が美味しいと思える程度には元気になってきたようだ。

「……いい食いっぷりだな」
「多少お行儀が悪くても、目を瞑ってくださいね」

 楊枝があったけれど、私はチーズを指先でつまんで口に入れた。味が濃厚だ。お腹が空いているにしても、これはなかなか上等なものではなかろうか。
 葡萄酒があれば最高なんだけどなあ。入院中でお酒はまずないと思うけど。
 味わいながらもぐもぐしている私を、ベッドに座り直したスタールビーがじっと見ている。興味深そうな顔だ。はしたないとでも考えているのだろうか。
 すると、スタールビーが口を開いた。

「なんだ、魔力の感じからするに、いいところのお嬢さまだと思っていたが。違うのか?」
「名門の家系だからこそ、人目のつかないところでは羽を伸ばしたいんですよ」
「なるほどな。だが、社交界には出ていなかっただろう?」

 私は手を止めた。
 社交の場に連れて行ってもらえなかったのは事実だ。兄はよく連れて行ってもらっていたようだし、そこでいろいろなことを学んだと聞いているけれど。私には必要ないことだからと、自慢するだけ自慢していたのを思い出す。

「あなた、何かご存知なのですか? 私の事情も」
「さあて、どうかねえ?」
「…………」

 どう尋ねれば私がほしい情報を引き出せるだろうか。
 すぐには方法が浮かばなくて、私はジュースを飲んだ。
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