婚約者に逃げられて精霊使いになりました〜私は壁でありたいのに推しカプが私を挟もうとします。〜

一花カナウ

文字の大きさ
上 下
12 / 123
2:私の人生が動くとき

わざわざ正装で参上したってのにつれないな

しおりを挟む

「――ただいまぁ」

 そこにアメシストが戻ってきた。
 持っているお盆の上には飲み物が入ったコップと一口大の丸っこいパンが積まれている。よく見ると、チーズや加工肉、果実も少量並んでいるようだ。
 アメシストはベッドに腰を下ろしていたスタールビーを見るなり、嫌そうに顔を歪めた。

「まだいたのかあ」
「そう邪険にしてくれるなって。これから同僚だろう? 仲良くしようじゃないか」
「ええっ⁉︎」

 アメシストはお盆をシトリンに押し付けると、つかつかと私のそばにやってきた。
 なにをそんなに怒っていらっしゃるのだろう?
 私は首を傾げた。

「マスターは、こいつと契約したの?」
「いえ。契約の仕方はまだ習っていないですし、そもそも協会の許可もおりないと思いますよ」

 顔が近い。私はアメシストの胸を押す。なんとか離れてくれたものの、スタールビーとの間からは退こうとしなかった。

「いいかな、マスター。鉱物人形っていうのは、契約者がいないと存在できないものなんだよ。こうして契約者と離れて存在を確立させているだけで、こいつはだいぶ異質な存在なわけ。本来であれば、こういう野良の鉱物人形ってのは精霊管理協会が連れて行くもので、彼らから逃げ回っている時点で関わらない方がいい相手ってこと」

 関わらない方がいい相手。
 そう説明されれば、アメシストが警戒するのは当然のように感じる。
 スタールビーは苦笑して肩をすくめた。

「強運の宝石相手に厄病神のような言い方は感心しないなあ」
「事実じゃないか」

 奥のほうで見守っているシトリンはやれやれといった表情だ。
 私が知らないところで、彼らがこうならざるを得ない何かがあったのかもしれない。
 まあ、誰でも信用してしまうのはよくないという点は賛同しますけどねえ。初対面のとき、このひと、胡散臭いと思ったし。

「君たちを励起できる人間に引き合わせたんだから、礼の一つもあっていいくらいじゃないかい?」
「その点については多少は感謝するが、縁はそこまでだ」
「つれないなあ」

 がっかりといった表情を浮かべて、スタールビーはベッドからおりる。

「縁はそこまでっていうけどさ、俺もあのとき魔物に会わなければ、わざわざこんなところに来たりしないよ。それこそ、追われる身だったのに精霊管理協会管轄の病院にこうして仲間とともに正装で参上してるんだぜ?」

 そこでくるりと回った。膝下まで伸びる長いジレがふわりと広がる。なるほど、露天商スタイルじゃなかったのは、この衣装が彼の本来の姿だからか。

「状況、わかるでしょ?」

 スタールビーに言われて、アメシストはむっとしたまま黙り込んだ。
しおりを挟む
気軽に感想をどうぞ( ´ ▽ ` )ノノΞ❤︎{活力注入♪)
感想 0

あなたにおすすめの小説

魅了が解けた貴男から私へ

砂礫レキ
ファンタジー
貴族学園に通う一人の男爵令嬢が第一王子ダレルに魅了の術をかけた。 彼女に操られたダレルは婚約者のコルネリアを憎み罵り続ける。 そして卒業パーティーでとうとう婚約破棄を宣言した。 しかし魅了の術はその場に運良く居た宮廷魔術師に見破られる。 男爵令嬢は処刑されダレルは正気に戻った。 元凶は裁かれコルネリアへの愛を取り戻したダレル。 しかしそんな彼に半年後、今度はコルネリアが婚約破棄を告げた。 三話完結です。

君は妾の子だから、次男がちょうどいい

月山 歩
恋愛
侯爵家のマリアは婚約中だが、彼は王都に住み、彼女は片田舎で遠いため会ったことはなかった。でもある時、マリアは妾の子であると知られる。そんな娘は大事な子息とは結婚させられないと、病気療養中の次男との婚約に一方的に変えさせられる。そして次の日には、迎えの馬車がやって来た。

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

聖女召喚されて『お前なんか聖女じゃない』って断罪されているけど、そんなことよりこの国が私を召喚したせいで滅びそうなのがこわい

金田のん
恋愛
自室で普通にお茶をしていたら、聖女召喚されました。 私と一緒に聖女召喚されたのは、若くてかわいい女の子。 勝手に召喚しといて「平凡顔の年増」とかいう王族の暴言はこの際、置いておこう。 なぜなら、この国・・・・私を召喚したせいで・・・・いまにも滅びそうだから・・・・・。 ※小説家になろうさんにも投稿しています。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

酒の席での戯言ですのよ。

ぽんぽこ狸
恋愛
 成人前の令嬢であるリディアは、婚約者であるオーウェンの部屋から聞こえてくる自分の悪口にただ耳を澄ませていた。  何度もやめてほしいと言っていて、両親にも訴えているのに彼らは総じて酒の席での戯言だから流せばいいと口にする。  そんな彼らに、リディアは成人を迎えた日の晩餐会で、仕返しをするのだった。

【完結】私はいてもいなくても同じなのですね ~三人姉妹の中でハズレの私~

紺青
恋愛
マルティナはスコールズ伯爵家の三姉妹の中でハズレの存在だ。才媛で美人な姉と愛嬌があり可愛い妹に挟まれた地味で不器用な次女として、家族の世話やフォローに振り回される生活を送っている。そんな自分を諦めて受け入れているマルティナの前に、マルティナの思い込みや常識を覆す存在が現れて―――家族にめぐまれなかったマルティナが、強引だけど優しいブラッドリーと出会って、少しずつ成長し、別離を経て、再生していく物語。 ※三章まで上げて落とされる鬱展開続きます。 ※因果応報はありますが、痛快爽快なざまぁはありません。 ※なろうにも掲載しています。

好きでした、さようなら

豆狸
恋愛
「……すまない」 初夜の床で、彼は言いました。 「君ではない。私が欲しかった辺境伯令嬢のアンリエット殿は君ではなかったんだ」 悲しげに俯く姿を見て、私の心は二度目の死を迎えたのです。 なろう様でも公開中です。

処理中です...