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2:私の人生が動くとき

賑やかな来訪者

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※※※※※


 いつの間に眠っていたんだろう。
 目が覚めて、まぶたを擦る。目が腫れていそうだ。

「起きたかい?」

 声をかけてくれたのはアメシストだった。ベッドの上に腰掛けて、こちらを見ていたらしかった。

「だいぶ寝ていましたかね?」

 ゆっくりと身体を起こす。もうベッドからおりられる程度には回復していた。
 テーブルは片付けられていて、封筒は中身がまとめられて棚に置かれている。ふたりがやってくれたに違いない。

「そうだね。お昼ごはんの相談をされたから、遅らせてほしいって伝えたよ。迷惑だったかな?」
「いえ。食欲がわかなかったので、助かります。――ところで、シトリンさんは?」

 姿が見えないし気配がない。部屋にはいないようだ。

「弟は来客対応中。僕は交渉ごとがあまり得意じゃなくてね」

 そう答えて、アメシストは軽く肩をすくめた。
 来客?
 家族も来ないだろうし、元婚約者も精霊管理協会には関連施設であっても近づかないだろう。私には親しい友人もいないので、訪ねてくる人物に思い至らない。
 しかし、ある事実に思い至る。

「来客って、記者の方、ですか?」

 魔物に遭遇して生き残った民間人である。取材が来るのならばわかるような気がした。精霊管理協会もディスプレイ越しに話をするくらいは許可を出しそうだし。
 私が尋ねると、アメシストは苦笑いを浮かべた。思った反応と違うので私は首を傾げる。

「来客は君に、じゃないんだ」
「おふたりのお知り合いってことですか?」
「まあ、そういうところ。押しかけられたくなかったんだけど、こっちも動けないから仕方がないよね」

 とても面倒くさそうである。

「アメシストさんはお会いしなくてよかったんですか?」
「僕は遠慮したいね。弟が戻ってこないあたり、難儀しているんだと思うよ」
「それならむしろ、助けに行かれた方がいいのでは……」

 私も目が覚めたことだし、少しの間であれば何も問題がないのではないか。
 私の提案に、アメシストはひょいっとベッドからおりた。

「それはそうかも。ちょっと出てくるよ。弟に押しつけるのもかわいそうだ」
「わかりました」
「ついでにお昼ごはんか軽食か頼んでくるね」
「でしたら、軽食をお願いします」
「了解」

 そう答えて、アメシストは手をひらひらと振って部屋を出ていったが、静寂はそう続かなかった。
 なに?
 廊下が騒がしい。その音は徐々に近づいてくる。ともすれば、扉が開く音がした。

「こんにちはー! そろそろ俺の出番じゃあないかい?」
「どうしてどいつもこいつも病院で大声を出すんだ……」

 聞き覚えがあるような軽いテンションとは対照的で憂鬱そうなシトリンの声が聞こえた。
 シトリンは苦労性なのかもしれない。
 カーテンがめくられる。そこに立っていたのは赤い髪の露天商だった。

「……って、ここ、人間は立ち入り禁止のはずなんですけど」

 赤髪の露天商は無遠慮にカーテンの中に踏み込み、空いているベッドにどかっと座った。床に金属製の大きな鞄を立てて、彼は長い足を組む。
 アメシストの姿が見えないが、どうやら入れ違いになってしまったようだ。

「ああ。俺は鉱物人形だからな。おっと。ちゃあんと許可なら取ってるぜ」

 癖が強くてツンツンとした赤髪、赤い宝石のような瞳。キリッとした見目麗しい顔立ちなのはおそらく鉱物人形の仕様なのだろう。前回会ったときとは違う、きらきらした赤い衣装を纏っている。とにかく派手だ。

「ええ……」

 病院の許可はもちろんですが、私の許可も取ってほしいんですけども。
 私は不満の声を上げる。
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