8 / 123
2:私の人生が動くとき
まさかの婚約解消なのです⁉︎
しおりを挟む
※※※※※
翌朝。
私宛に手紙が届いた。大きな封筒に厚みのある書類。何かと思えば婚約者からだ。
上体を起こせるようになった私は机を出してもらって中身を広げる。
「……え?」
婚約解消のお知らせだ。穢れた私は要らないという内容がしたためられた冊子が届いたらしかった。
私が頭痛を覚えて額に手をやる。
アメシストが心配して私の顔を覗き込む。
「どうしたの?」
「来月に控えていた結婚がなくなったのよ」
これ、うちの両親はなんて言っているんだろう。聞いたところでは実家経由でこちらに届けられたとの話だったが。
「じゃあ、僕たちと一緒にいられる?」
「可能性は高くなったけれど、それよりも面倒なことを処理しないといけなくて……」
婚約者――いや、もう元婚約者、か。あの人は本当にそんなことで婚約解消を選んだのだろうか。
この結婚は私の家と彼の家の都合による政略結婚だった。この結婚は必要な仕事であるとお互いに割り切っていたのではなかったのか。それなのに、私が精霊管理協会の世話になってしまったという点で結婚はなかったことに、とは。
「別にあの人と結婚がしたかったわけじゃないけど……」
そう。結婚がしたかったわけではない。
だが、このために私は外界から隔離された生活を強いられていたのだ。結婚後も自由はないからと、最後の自由な時間になるだろうからと、苦労して苦労してやっと外出許可がおりたと思ったらこれである。
「どうしよう」
魔物と遭遇したのは不運だ。そもそも都会で魔物が観測されることは極めて稀であり、ここ数年は報告がなかったはずなのだ。そうじゃなければ、単独でのお出かけの許可がおりるわけがない。
だったら、泣いて縋って、私が清いことを証明すべきだろうか。
いや、無駄だ。
瘴気を取り除くために隔離された上で入院させられているのだ。弁解がしようがない。詰みだ。
私は長く長く息を吐き出した。
「深刻そうだな」
「縁を切られそうなんで」
「どうして?」
シトリンとアメシストが私の左右から様子をうかがってくる。
どう説明したらいいのだろう。
私の家がだいぶ特殊であることは察しているつもりだが、彼らにどの程度の常識があるのかもわからない。どこが一般的な家庭と違うのか、自分の感覚があてにならないので悩ましいのだった。
「……家庭の事情が複雑なもので。結婚が白紙になると、私は実家に居られないんですよ。というか、そもそも穢れなき身である必要があったんですよね。それがまあ、この度、魔物に襲われて失われてしまったわけで」
伝わりやすく説明するならこんなところだろうか。
翌朝。
私宛に手紙が届いた。大きな封筒に厚みのある書類。何かと思えば婚約者からだ。
上体を起こせるようになった私は机を出してもらって中身を広げる。
「……え?」
婚約解消のお知らせだ。穢れた私は要らないという内容がしたためられた冊子が届いたらしかった。
私が頭痛を覚えて額に手をやる。
アメシストが心配して私の顔を覗き込む。
「どうしたの?」
「来月に控えていた結婚がなくなったのよ」
これ、うちの両親はなんて言っているんだろう。聞いたところでは実家経由でこちらに届けられたとの話だったが。
「じゃあ、僕たちと一緒にいられる?」
「可能性は高くなったけれど、それよりも面倒なことを処理しないといけなくて……」
婚約者――いや、もう元婚約者、か。あの人は本当にそんなことで婚約解消を選んだのだろうか。
この結婚は私の家と彼の家の都合による政略結婚だった。この結婚は必要な仕事であるとお互いに割り切っていたのではなかったのか。それなのに、私が精霊管理協会の世話になってしまったという点で結婚はなかったことに、とは。
「別にあの人と結婚がしたかったわけじゃないけど……」
そう。結婚がしたかったわけではない。
だが、このために私は外界から隔離された生活を強いられていたのだ。結婚後も自由はないからと、最後の自由な時間になるだろうからと、苦労して苦労してやっと外出許可がおりたと思ったらこれである。
「どうしよう」
魔物と遭遇したのは不運だ。そもそも都会で魔物が観測されることは極めて稀であり、ここ数年は報告がなかったはずなのだ。そうじゃなければ、単独でのお出かけの許可がおりるわけがない。
だったら、泣いて縋って、私が清いことを証明すべきだろうか。
いや、無駄だ。
瘴気を取り除くために隔離された上で入院させられているのだ。弁解がしようがない。詰みだ。
私は長く長く息を吐き出した。
「深刻そうだな」
「縁を切られそうなんで」
「どうして?」
シトリンとアメシストが私の左右から様子をうかがってくる。
どう説明したらいいのだろう。
私の家がだいぶ特殊であることは察しているつもりだが、彼らにどの程度の常識があるのかもわからない。どこが一般的な家庭と違うのか、自分の感覚があてにならないので悩ましいのだった。
「……家庭の事情が複雑なもので。結婚が白紙になると、私は実家に居られないんですよ。というか、そもそも穢れなき身である必要があったんですよね。それがまあ、この度、魔物に襲われて失われてしまったわけで」
伝わりやすく説明するならこんなところだろうか。
0
お気に入りに追加
48
あなたにおすすめの小説

【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。
だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。
その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」

この度、皆さんの予想通り婚約者候補から外れることになりました。ですが、すぐに結婚することになりました。
鶯埜 餡
恋愛
ある事件のせいでいろいろ言われながらも国王夫妻の働きかけで王太子の婚約者候補となったシャルロッテ。
しかし当の王太子ルドウィックはアリアナという男爵令嬢にべったり。噂好きな貴族たちはシャルロッテに婚約者候補から外れるのではないかと言っていたが
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」と言ってみたら、秒で破棄されました。
桜乃
ファンタジー
ロイ王子の婚約者は、不細工と言われているテレーゼ・ハイウォール公爵令嬢。彼女からの愛を確かめたくて、思ってもいない事を言ってしまう。
「不細工なお前とは婚約破棄したい」
この一言が重要な言葉だなんて思いもよらずに。
※約4000文字のショートショートです。11/21に完結いたします。
※1回の投稿文字数は少な目です。
※前半と後半はストーリーの雰囲気が変わります。
表紙は「かんたん表紙メーカー2」にて作成いたしました。
❇❇❇❇❇❇❇❇❇
2024年10月追記
お読みいただき、ありがとうございます。
こちらの作品は完結しておりますが、10月20日より「番外編 バストリー・アルマンの事情」を追加投稿致しますので、一旦、表記が連載中になります。ご了承ください。
1ページの文字数は少な目です。
約4500文字程度の番外編です。
バストリー・アルマンって誰やねん……という読者様のお声が聞こえてきそう……(;´∀`)
ロイ王子の側近です。(←言っちゃう作者 笑)
※番外編投稿後は完結表記に致します。再び、番外編等を投稿する際には連載表記となりますこと、ご容赦いただけますと幸いです。

婚約破棄?一体何のお話ですか?
リヴァルナ
ファンタジー
なんだかざまぁ(?)系が書きたかったので書いてみました。
エルバルド学園卒業記念パーティー。
それも終わりに近付いた頃、ある事件が起こる…
※エブリスタさんでも投稿しています
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
将来を誓い合った王子様は聖女と結ばれるそうです
きぬがやあきら
恋愛
「聖女になれなかったなりそこない。こんなところまで追って来るとはな。そんなに俺を忘れられないなら、一度くらい抱いてやろうか?」
5歳のオリヴィエは、神殿で出会ったアルディアの皇太子、ルーカスと恋に落ちた。アルディア王国では、皇太子が代々聖女を妻に迎える慣わしだ。しかし、13歳の選別式を迎えたオリヴィエは、聖女を落選してしまった。
その上盲目の知恵者オルガノに、若くして命を落とすと予言されたオリヴィエは、せめてルーカスの傍にいたいと、ルーカスが団長を務める聖騎士への道へと足を踏み入れる。しかし、やっとの思いで再開したルーカスは、昔の約束を忘れてしまったのではと錯覚するほど冷たい対応で――?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる