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1:運命の出会い
運び込まれた先にて
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※※※※※
消毒液の匂いがする。
目が覚めた場所は病院らしき一室。周囲は真っ白なカーテンで仕切られていて、その中に置かれたベッドの上に私はいた。周囲があまりにも静かなので、ここは個室らしいが心もとない。
私がキョロキョロとしていると、空中にディスプレイが展開した。そういう画面があるらしいとは聞いていたが、これまで目にしたことがなかったのですごく驚いた。まさかこんな最新設備に接する機会が来るなんて。心臓がドキドキしている。
「――目が覚めたかしら?」
ディスプレイに映し出され、声をかけてきたのは精霊管理協会の制服を着た女性だった。記憶が朧げだが、あの戦場で私を保護してくれた人と同一人物だろう。
「は、はい」
「あなたは今、精霊管理協会が運営している病院の一室にいるわ。身体の調子はいかが?」
「えっと……」
上体を起こそうとしたがうまくいかない。力が入らないのだ。手を握ったり開いたりはできるが、この握力で何か持てるかと言われるとあやしい感じがする。腕と脚は移動こそ可能だが持ち上げられるわけではない。全身が鉛のように重かった。
これは一体……
「身体が動かないのね。無理もないわ」
「どういうことですか?」
「あなたはね、精霊使いの才能があるの。生命の危機に瀕したあなたは、その力を開花させ、鉱物人形を作り出して身を守ったってわけ」
「はあ……」
私は曖昧に頷いた。
というのも、精霊管理協会が魔物と戦っていることは国民が概ね認識しているところだが、どのように戦っているのかまでを把握しているのはごく一部の人間なのだ。私のような民間人は知らなくてもいいことなのである。
そもそも、魔物と遭遇して生き残った民間人はそんなにいないわけで。
「それで。あなたは魔物と接触したおそれがあるから、瘴気の駆除のため隔離させてもらっているわ。二、三日して、検査結果が良好なら退院できるから安心して。親御さんへの連絡はしてあるわよ」
親御さんと言われるとちょっとむかっと来る。
確かに今は実家暮らしではあるけれど、来月には結婚の予定があるくらいには大人なのだ。童顔だからといってそういう扱いを受けるのは不本意である。せめて、家族に連絡したと言ってほしい。
腹は立ったが、本題ではない。そこに文句をつけていても話は進まないのだ。私はぐっと堪えて自分の置かれた状況を確認していく。
「私の身体がおかしいのは、その、瘴気のせいなんですか?」
少しでも早く退院するためにはなにが必要なのかを知りたかった。まずは身体の異変が何から来ているか、だ。
私の質問に、彼女は腕を組んで唸った。
「それも影響があるでしょうけれど、鉱物人形のせいでしょうねえ」
「その、鉱物人形とは?」
聞きなれない単語だ。さっきは知らないことが多すぎて聞き流してしまったが、重要な単語だと察した。
私が聞くと、彼女は人差し指を立てて左右に振る。
「あなたを担いできた紫色の髪の青年、あれが鉱物人形よ。紫水晶の鉱物人形・アメシスト」
おおよそ人間ではないと感じていたが、なるほど、と頷く。
そして、アメシストのほかにももうひとりいたことを思い出した。
「あの、もうひとりいたんです。金髪のキラキラした青年が。弟だって言ってましたけど」
「ああ、弟ね。彼は黄水晶の鉱物人形・シトリンよ。あなた、まだライセンスを持っていないのに二体も呼び出したの? それじゃあ身体が動かないのも道理だわ」
「はあ……」
説明が足りなすぎる。
だが、私を助けてくれた青年たちの名前がわかった。
紫の子がアメシスト。黄色い子がシトリン。命の恩人だ。
「あ。それで、アメシストさんとシトリンさんはどこに?」
直接お礼を言いたい。行方知れずかもしれないと思いつつも、念のために尋ねる。何かしらの情報は得られるはずだ。
私がモニターに向かって食い気味に告げれば、扉が軽く叩かれた。部屋の外に誰かいる。
「廊下で護衛も兼ねて待機してもらってる。あなたの鉱物人形であることは間違いなさそうだし、野放しにするわけにもいかないからね。部屋に入れてもいいなら返事をするといいわ。私は医師に連絡するから、一度下がるわね。困ったことがあったら、ベッドのそばに呼び出しボタンがあるから気軽に押してちょうだい」
彼女がひらひらと手を振ると、ディスプレイは消失した。
って、気軽に押したくても動けないんですが。
あきれてしまったが、外にアメシストとシトリンがいるのであればどうにかしてもらえるかも知れない。恩人にこれ以上頼み事をするのは気が引けたが。
「……マスター? 話が終わったなら入れてほしいな」
声が聞こえる。この少年みたいな幼い声、柔らかな喋り方、覚えがある。
「兄よ、大きな声を出すのは良くない。ここは病院で――」
さっきの声よりは少し低く落ち着いた声。こちらも記憶にあった。
「だって待ちくたびれたよ。僕たち、すごく頑張ったんだから。ご褒美もらってもいいくらい働いたでしょうに」
「それとこれとは話が別だ」
「弟は頭が硬いよ。せっかく身体を得たんだし、もっとふんわり生きよう」
「硬いのは当然だ。俺は鉱物人形だからな」
「そういう意味じゃないよ」
ため息が響く。
なんの掛け合いをしてるの?
可笑しくなって、ぷっと吹き出してしまった。
「おふたりとも、入っていいですよ」
私が声をかけると、扉が勢いよく開く音がした。続いて白いカーテンが引っ張られる。
消毒液の匂いがする。
目が覚めた場所は病院らしき一室。周囲は真っ白なカーテンで仕切られていて、その中に置かれたベッドの上に私はいた。周囲があまりにも静かなので、ここは個室らしいが心もとない。
私がキョロキョロとしていると、空中にディスプレイが展開した。そういう画面があるらしいとは聞いていたが、これまで目にしたことがなかったのですごく驚いた。まさかこんな最新設備に接する機会が来るなんて。心臓がドキドキしている。
「――目が覚めたかしら?」
ディスプレイに映し出され、声をかけてきたのは精霊管理協会の制服を着た女性だった。記憶が朧げだが、あの戦場で私を保護してくれた人と同一人物だろう。
「は、はい」
「あなたは今、精霊管理協会が運営している病院の一室にいるわ。身体の調子はいかが?」
「えっと……」
上体を起こそうとしたがうまくいかない。力が入らないのだ。手を握ったり開いたりはできるが、この握力で何か持てるかと言われるとあやしい感じがする。腕と脚は移動こそ可能だが持ち上げられるわけではない。全身が鉛のように重かった。
これは一体……
「身体が動かないのね。無理もないわ」
「どういうことですか?」
「あなたはね、精霊使いの才能があるの。生命の危機に瀕したあなたは、その力を開花させ、鉱物人形を作り出して身を守ったってわけ」
「はあ……」
私は曖昧に頷いた。
というのも、精霊管理協会が魔物と戦っていることは国民が概ね認識しているところだが、どのように戦っているのかまでを把握しているのはごく一部の人間なのだ。私のような民間人は知らなくてもいいことなのである。
そもそも、魔物と遭遇して生き残った民間人はそんなにいないわけで。
「それで。あなたは魔物と接触したおそれがあるから、瘴気の駆除のため隔離させてもらっているわ。二、三日して、検査結果が良好なら退院できるから安心して。親御さんへの連絡はしてあるわよ」
親御さんと言われるとちょっとむかっと来る。
確かに今は実家暮らしではあるけれど、来月には結婚の予定があるくらいには大人なのだ。童顔だからといってそういう扱いを受けるのは不本意である。せめて、家族に連絡したと言ってほしい。
腹は立ったが、本題ではない。そこに文句をつけていても話は進まないのだ。私はぐっと堪えて自分の置かれた状況を確認していく。
「私の身体がおかしいのは、その、瘴気のせいなんですか?」
少しでも早く退院するためにはなにが必要なのかを知りたかった。まずは身体の異変が何から来ているか、だ。
私の質問に、彼女は腕を組んで唸った。
「それも影響があるでしょうけれど、鉱物人形のせいでしょうねえ」
「その、鉱物人形とは?」
聞きなれない単語だ。さっきは知らないことが多すぎて聞き流してしまったが、重要な単語だと察した。
私が聞くと、彼女は人差し指を立てて左右に振る。
「あなたを担いできた紫色の髪の青年、あれが鉱物人形よ。紫水晶の鉱物人形・アメシスト」
おおよそ人間ではないと感じていたが、なるほど、と頷く。
そして、アメシストのほかにももうひとりいたことを思い出した。
「あの、もうひとりいたんです。金髪のキラキラした青年が。弟だって言ってましたけど」
「ああ、弟ね。彼は黄水晶の鉱物人形・シトリンよ。あなた、まだライセンスを持っていないのに二体も呼び出したの? それじゃあ身体が動かないのも道理だわ」
「はあ……」
説明が足りなすぎる。
だが、私を助けてくれた青年たちの名前がわかった。
紫の子がアメシスト。黄色い子がシトリン。命の恩人だ。
「あ。それで、アメシストさんとシトリンさんはどこに?」
直接お礼を言いたい。行方知れずかもしれないと思いつつも、念のために尋ねる。何かしらの情報は得られるはずだ。
私がモニターに向かって食い気味に告げれば、扉が軽く叩かれた。部屋の外に誰かいる。
「廊下で護衛も兼ねて待機してもらってる。あなたの鉱物人形であることは間違いなさそうだし、野放しにするわけにもいかないからね。部屋に入れてもいいなら返事をするといいわ。私は医師に連絡するから、一度下がるわね。困ったことがあったら、ベッドのそばに呼び出しボタンがあるから気軽に押してちょうだい」
彼女がひらひらと手を振ると、ディスプレイは消失した。
って、気軽に押したくても動けないんですが。
あきれてしまったが、外にアメシストとシトリンがいるのであればどうにかしてもらえるかも知れない。恩人にこれ以上頼み事をするのは気が引けたが。
「……マスター? 話が終わったなら入れてほしいな」
声が聞こえる。この少年みたいな幼い声、柔らかな喋り方、覚えがある。
「兄よ、大きな声を出すのは良くない。ここは病院で――」
さっきの声よりは少し低く落ち着いた声。こちらも記憶にあった。
「だって待ちくたびれたよ。僕たち、すごく頑張ったんだから。ご褒美もらってもいいくらい働いたでしょうに」
「それとこれとは話が別だ」
「弟は頭が硬いよ。せっかく身体を得たんだし、もっとふんわり生きよう」
「硬いのは当然だ。俺は鉱物人形だからな」
「そういう意味じゃないよ」
ため息が響く。
なんの掛け合いをしてるの?
可笑しくなって、ぷっと吹き出してしまった。
「おふたりとも、入っていいですよ」
私が声をかけると、扉が勢いよく開く音がした。続いて白いカーテンが引っ張られる。
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