上 下
7 / 18
フィールドワークは危険がいっぱい⁉︎

しおりを挟む

 私が黙っていると、アナスタージウス室長は言葉を続ける。

「だから、僕の助手が務まる人間は、手間がかからないほうが長続きするのかもね。僕はあまり他人にものを教えるのは向いていないから、初めから僕の研究に興味を持っていて教えをこおうとした人たちはすぐに辞めてしまったよ」
「え、それって皮肉ですか?」

 自分は質問は少ないほうだと思う。彼の手を煩わせたくなくて、気になったことはまずは自分で調べてから、それでもわからないときだけ質問をするようにしている。実家にいたときからの習慣でもあるので、別に室長が説明下手だからそうしてきたわけではない。
 すると、アナスタージウス室長は妖しく笑んだ。

「ふふ、どうだろうね。少なくとも僕はフィルギニア君が助手になってから、この研究がより楽しくて仕方がないよ」
「私は役に立っていますか?」
「邪魔にはなっていないね」

 軽く肩をすくめて流されてしまった。

 むぅ……別にムードメーカーとして就職したわけではないんですけど。

 彼からの評価をどう受け取ったらいいのか正直わからなかった。大人の男性が何を考えているのかよく見えないというか、たんにアナスタージウス室長がわかりにくいだけなのか。

 仕事で成果をあげないと、ずっと一緒にいられないのに。

 助手として、まだ日が浅い。だから評価をしにくい部分はあるだろう。でも、どうしたら、評価をもらえるのだろう。

「――この先に少し開けた場所があるんだ。そろそろ昼食にしようか」

 食事の後で植物採集をして帰ろうね――と説明されている途中で、私はあることに気づいた。

「室長、お弁当、忘れてきていませんか?」

 アナスタージウス室長の持つ荷物を見るに、お弁当が入った袋がない。入れ替えている様子もなかったので、雑木林の入口にある東屋に忘れてきたのだろう。
 私の指摘を受けて、アナスタージウス室長は自分の持つ鞄を慌てた様子で確認し、がっくりと肩を落とした。

「え、あ……本当だ。うっかり置いてきてしまったようだ。仕方がない、戻ろうか」

 彼はすぐに迷うことなく引き返そうとする。しかし、私は手を引っ張って止めた。

「ん?」
「私が一人で取りに戻ります。室長はここで待っていてください!」
「おや、また僕を年寄り扱いかい?」

 困った顔をするアナスタージウス室長に、私は大真面目な顔で首を横に振った。

「違います。――先ほどの説明ですと、ここまでの道に危険な植物はありませんでした。このあとの植物採集や帰路での馬の移動を思うと、室長は体力を残しておいたほうがいいと思うのです。荷物だってこうして全部持っていただいていますし。なので、ここでお待ちください。走っていけばすぐでしょうし」

 私がグイグイと迫りつつ説得したからか、アナスタージウス室長はやむなしといった感じで顔を綻ばせた。

「フィルギニア君がそこまで言うなら、お願いしようかな。昨日渡した虫除けオイルは塗っているんだよね?」
「はい。露出する部分以外もしっかりと塗ってきましたよ」

 虫除けオイルは着替える前に念入りに塗ってきた。肌が荒れないことをちゃんと確認した上で、二度塗りしたくらいである。これで足りないなら、そもそもの虫除け効果が薄かったか、効き目がない虫に遭遇したかになるだろう。
 私が胸を張って答えると、彼は安心した顔をした。

「それなら問題ないかな。植物自体に危険がなくても、そこに集まる虫や動物に危険があることも多いからね」
「そうですね。周囲には常に意識を向けるようにします」

 私はついつい植物限定での話をしてしまったが、ここには虫や動物だって生息している。当然ながら、それらに危険がないとは言えないだろう。私は真剣な顔をして頷いた。

「じゃあ、頼んだよ。一応待っていてあげるけれど、遅くなってきたら迎えに行くから」
「はい。承知いたしました!」

 ハキハキと元気に答えると、私は自分たちが歩いてきた獣道を引き返す。曲がりくねっているとはいえ、一本道なので迷いようがない。
 私は早足で東屋に向かった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

先生!放課後の隣の教室から女子の喘ぎ声が聴こえました…

ヘロディア
恋愛
居残りを余儀なくされた高校生の主人公。 しかし、隣の部屋からかすかに女子の喘ぎ声が聴こえてくるのであった。 気になって覗いてみた主人公は、衝撃的な光景を目の当たりにする…

中でトントンってして、ビューってしても、赤ちゃんはできません!

いちのにか
恋愛
はいもちろん嘘です。「ってことは、チューしちゃったら赤ちゃんできちゃうよねっ?」っていう、……つまりとても頭悪いお話です。 含み有りの嘘つき従者に溺愛される、騙され貴族令嬢モノになります。 ♡多用、言葉責め有り、効果音付きの濃いめです。従者君、軽薄です。 ★ハッピーエイプリルフール★ 他サイトのエイプリルフール企画に投稿した作品です。期間終了したため、こちらに掲載します。 以下のキーワードをご確認の上、ご自愛ください。 ◆近況ボードの同作品の投稿報告記事に蛇補足を追加しました。作品設定の記載(短め)のみですが、もしよろしければ٩( ᐛ )و

壁の薄いアパートで、隣の部屋から喘ぎ声がする

サドラ
恋愛
最近付き合い始めた彼女とアパートにいる主人公。しかし、隣の部屋からの喘ぎ声が壁が薄いせいで聞こえてくる。そのせいで欲情が刺激された両者はー

お兄ちゃんが私にぐいぐいエッチな事を迫って来て困るんですけど!?

さいとう みさき
恋愛
私は琴吹(ことぶき)、高校生一年生。 私には再婚して血の繋がらない 二つ年上の兄がいる。 見た目は、まあ正直、好みなんだけど…… 「好きな人が出来た! すまんが琴吹、練習台になってくれ!!」 そう言ってお兄ちゃんは私に協力を要請するのだけど、何処で仕入れた知識だかエッチな事ばかりしてこようとする。 「お兄ちゃんのばかぁっ! 女の子にいきなりそんな事しちゃダメだってばッ!!」 はぁ、見た目は好みなのにこのバカ兄は目的の為に偏った知識で女の子に接して来ようとする。 こんなんじゃ絶対にフラれる! 仕方ない、この私がお兄ちゃんを教育してやろーじゃないの! 実はお兄ちゃん好きな義妹が奮闘する物語です。 

×一夜の過ち→◎毎晩大正解!

名乃坂
恋愛
一夜の過ちを犯した相手が不幸にもたまたまヤンデレストーカー男だったヒロインのお話です。

魔導師として宮廷入りしたので、そのお仕事はお引き受けしかねます!

一花カナウ
恋愛
難関の宮廷魔導師採用試験を突破し、アルフォンシーヌは魔導師として憧れの師匠のもとで鍛錬を重ねている。 ある夜、憧れの師匠――メルヒオールに押し倒されたところで、アルフォンシーヌは意識を取り戻す。 この状況は一体どうして起きたの? 誰かの策略? メルヒオールは状況に乗じているだけなの? ――たぶん、そんなファンタジックラブコメディ。 ※ストーリーよりもエロ優先(シチュエーション重視)です。 ※ヒーロー以外との絡みがあり、たいてい無理やりです。 ※(★)は挿絵つき ムーンライトノベルズ、pixivでも連載中です。 素敵な表紙画像はロジさま( http://www.alphapolis.co.jp/author/detail/248213085/ )に描いていただきました!感謝♪

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

【R18】通学路ですれ違うお姉さんに僕は食べられてしまった

ねんごろ
恋愛
小学4年生の頃。 僕は通学路で毎朝すれ違うお姉さんに… 食べられてしまったんだ……

処理中です...