おきつねさまと私の奇妙な生活

美汐

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第五話 消えたおきつねさまと烏天狗

消えたおきつねさまと烏天狗9

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 先に進んで行くと、急に私たちは開けた場所に出た。雑草は生え放題で整備された場所ではないようだが、なんとなく以前にこの場所になにかがあったように思った。

「乾くんはこの場所を知っているの?」

「ああ。たぶん……」

 そのときだった。私たちが立っている場所より数メートル先の草むらが少し揺れたかと思うと、突如ぴょこんとそれは現れた。

「あ!」

 茶色い筆先のようなそれは、間違いなく先程も目にした獣の尾らしきもの。
 そして、私が声を上げたのに反応したのか、ついにそれは姿を現した。
 三角の大きな耳。尖った鼻先。鋭く光る金色の瞳は、間違いなくこちらを見つめていた。

「狐! やっぱりいた!」

 毛並みは薄茶色ではあるが、狐は狐だ。私は逸る気持ちを抑えきれず、反射的にそちらへと動いていた。

「あ、東雲さん……っ!」

 背中から声が聞こえたが、私の足は止まらなかった。なぜかその狐に惹かれてしまう自分がいた。
 しかし、不思議なことに、その狐は私が近づいているのを見つめながら、その場から微動だにしなかった。宝石のように光る神秘的な瞳に導かれるように、私はその狐の元へとたどり着いていた。

「あ……えっと……」

 私は狐の瞳を見つめながら、ようやくすべてを悟った。

「あなた……もしかして……」

 狐は私の言葉を聞いて、返事をするように一度だけ瞬きをした。先程まで半信半疑だったが、それを見た瞬間、それは確信に変わった。

「あなた……。おきつねさま……空孤ね?」

 狐は今度ははっきりと、首を縦に振った。
 間違いない。どういう事情でこうなっているのかはわからないが、この狐は自分の知っているあの大妖怪――空孤なのだ。

「空孤? この狐が?」

 いつの間にか隣にやってきた乾くんが、驚いたように目を丸くしていた。

「どうやらそうみたい。なんでこんな姿になっているのか、よくわかんないんだけど」

 私はもう一度おきつねさまのほうに視線をやると、おきつねさまである狐は私と目を合わせたあと、なにかをうながすようにとある方向に顔を向けた。
 つられて私もそちらを見やると、生い茂った草むらの中に、なにか石碑のようなものが立っていることに気付いた。

「なんだろう。あれ」

 私が疑問を口にするのと同時に、おきつねさまはそちらへと近づいていく。どうやらついてこいと言っているようだ。

「わかった。そっちに行けばいいのね」

 なんとなく不安はあったが、おきつねさまが私になにかをするよう求めているのだとしたら、それを無下にすることはできない。きっと、おきつねさまがただの狐となってしまったのには、なんらかの事情があるのだ。これまで何度となく力を貸してもらったおきつねさまの助けができるのなら、躊躇などしている選択肢はない。

「東雲さん」

「大丈夫。……わからないけど、ここは行かないといけないと思うんだ」

 乾くんの心配げな呼びかけに、私はそう答える。
 大丈夫。
 自分に言い聞かせるように、心でその言葉を反芻し、一歩を踏み出した。

 石碑の前に狐がちょこんと座っている。私もその横まで移動し、石碑を間近にした。そしてそこに書かれてある碑文に目をやった。

『封』

 意味深な文字にどきりとする。かなり古いもののようだ。こんな山奥の寂れた場所に、忘れられたようにある石碑。なにやらいわくがありそうな雰囲気だが、この石碑の前に連れてこられたからには、避けて通るわけにはいかないのだろう。

「なにかいわくがありそうな石碑だが……」

「なにが眠ってるんだろう。ちょっと怖いような気もするけど」

 言いながら、私はなにげなく石碑に手を伸ばした。
 すると次の瞬間、突然私の目の前がまっ白な光に包まれた。
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