43 / 55
第五話 消えたおきつねさまと烏天狗
消えたおきつねさまと烏天狗9
しおりを挟む
先に進んで行くと、急に私たちは開けた場所に出た。雑草は生え放題で整備された場所ではないようだが、なんとなく以前にこの場所になにかがあったように思った。
「乾くんはこの場所を知っているの?」
「ああ。たぶん……」
そのときだった。私たちが立っている場所より数メートル先の草むらが少し揺れたかと思うと、突如ぴょこんとそれは現れた。
「あ!」
茶色い筆先のようなそれは、間違いなく先程も目にした獣の尾らしきもの。
そして、私が声を上げたのに反応したのか、ついにそれは姿を現した。
三角の大きな耳。尖った鼻先。鋭く光る金色の瞳は、間違いなくこちらを見つめていた。
「狐! やっぱりいた!」
毛並みは薄茶色ではあるが、狐は狐だ。私は逸る気持ちを抑えきれず、反射的にそちらへと動いていた。
「あ、東雲さん……っ!」
背中から声が聞こえたが、私の足は止まらなかった。なぜかその狐に惹かれてしまう自分がいた。
しかし、不思議なことに、その狐は私が近づいているのを見つめながら、その場から微動だにしなかった。宝石のように光る神秘的な瞳に導かれるように、私はその狐の元へとたどり着いていた。
「あ……えっと……」
私は狐の瞳を見つめながら、ようやくすべてを悟った。
「あなた……もしかして……」
狐は私の言葉を聞いて、返事をするように一度だけ瞬きをした。先程まで半信半疑だったが、それを見た瞬間、それは確信に変わった。
「あなた……。おきつねさま……空孤ね?」
狐は今度ははっきりと、首を縦に振った。
間違いない。どういう事情でこうなっているのかはわからないが、この狐は自分の知っているあの大妖怪――空孤なのだ。
「空孤? この狐が?」
いつの間にか隣にやってきた乾くんが、驚いたように目を丸くしていた。
「どうやらそうみたい。なんでこんな姿になっているのか、よくわかんないんだけど」
私はもう一度おきつねさまのほうに視線をやると、おきつねさまである狐は私と目を合わせたあと、なにかをうながすようにとある方向に顔を向けた。
つられて私もそちらを見やると、生い茂った草むらの中に、なにか石碑のようなものが立っていることに気付いた。
「なんだろう。あれ」
私が疑問を口にするのと同時に、おきつねさまはそちらへと近づいていく。どうやらついてこいと言っているようだ。
「わかった。そっちに行けばいいのね」
なんとなく不安はあったが、おきつねさまが私になにかをするよう求めているのだとしたら、それを無下にすることはできない。きっと、おきつねさまがただの狐となってしまったのには、なんらかの事情があるのだ。これまで何度となく力を貸してもらったおきつねさまの助けができるのなら、躊躇などしている選択肢はない。
「東雲さん」
「大丈夫。……わからないけど、ここは行かないといけないと思うんだ」
乾くんの心配げな呼びかけに、私はそう答える。
大丈夫。
自分に言い聞かせるように、心でその言葉を反芻し、一歩を踏み出した。
石碑の前に狐がちょこんと座っている。私もその横まで移動し、石碑を間近にした。そしてそこに書かれてある碑文に目をやった。
『封』
意味深な文字にどきりとする。かなり古いもののようだ。こんな山奥の寂れた場所に、忘れられたようにある石碑。なにやらいわくがありそうな雰囲気だが、この石碑の前に連れてこられたからには、避けて通るわけにはいかないのだろう。
「なにかいわくがありそうな石碑だが……」
「なにが眠ってるんだろう。ちょっと怖いような気もするけど」
言いながら、私はなにげなく石碑に手を伸ばした。
すると次の瞬間、突然私の目の前がまっ白な光に包まれた。
「乾くんはこの場所を知っているの?」
「ああ。たぶん……」
そのときだった。私たちが立っている場所より数メートル先の草むらが少し揺れたかと思うと、突如ぴょこんとそれは現れた。
「あ!」
茶色い筆先のようなそれは、間違いなく先程も目にした獣の尾らしきもの。
そして、私が声を上げたのに反応したのか、ついにそれは姿を現した。
三角の大きな耳。尖った鼻先。鋭く光る金色の瞳は、間違いなくこちらを見つめていた。
「狐! やっぱりいた!」
毛並みは薄茶色ではあるが、狐は狐だ。私は逸る気持ちを抑えきれず、反射的にそちらへと動いていた。
「あ、東雲さん……っ!」
背中から声が聞こえたが、私の足は止まらなかった。なぜかその狐に惹かれてしまう自分がいた。
しかし、不思議なことに、その狐は私が近づいているのを見つめながら、その場から微動だにしなかった。宝石のように光る神秘的な瞳に導かれるように、私はその狐の元へとたどり着いていた。
「あ……えっと……」
私は狐の瞳を見つめながら、ようやくすべてを悟った。
「あなた……もしかして……」
狐は私の言葉を聞いて、返事をするように一度だけ瞬きをした。先程まで半信半疑だったが、それを見た瞬間、それは確信に変わった。
「あなた……。おきつねさま……空孤ね?」
狐は今度ははっきりと、首を縦に振った。
間違いない。どういう事情でこうなっているのかはわからないが、この狐は自分の知っているあの大妖怪――空孤なのだ。
「空孤? この狐が?」
いつの間にか隣にやってきた乾くんが、驚いたように目を丸くしていた。
「どうやらそうみたい。なんでこんな姿になっているのか、よくわかんないんだけど」
私はもう一度おきつねさまのほうに視線をやると、おきつねさまである狐は私と目を合わせたあと、なにかをうながすようにとある方向に顔を向けた。
つられて私もそちらを見やると、生い茂った草むらの中に、なにか石碑のようなものが立っていることに気付いた。
「なんだろう。あれ」
私が疑問を口にするのと同時に、おきつねさまはそちらへと近づいていく。どうやらついてこいと言っているようだ。
「わかった。そっちに行けばいいのね」
なんとなく不安はあったが、おきつねさまが私になにかをするよう求めているのだとしたら、それを無下にすることはできない。きっと、おきつねさまがただの狐となってしまったのには、なんらかの事情があるのだ。これまで何度となく力を貸してもらったおきつねさまの助けができるのなら、躊躇などしている選択肢はない。
「東雲さん」
「大丈夫。……わからないけど、ここは行かないといけないと思うんだ」
乾くんの心配げな呼びかけに、私はそう答える。
大丈夫。
自分に言い聞かせるように、心でその言葉を反芻し、一歩を踏み出した。
石碑の前に狐がちょこんと座っている。私もその横まで移動し、石碑を間近にした。そしてそこに書かれてある碑文に目をやった。
『封』
意味深な文字にどきりとする。かなり古いもののようだ。こんな山奥の寂れた場所に、忘れられたようにある石碑。なにやらいわくがありそうな雰囲気だが、この石碑の前に連れてこられたからには、避けて通るわけにはいかないのだろう。
「なにかいわくがありそうな石碑だが……」
「なにが眠ってるんだろう。ちょっと怖いような気もするけど」
言いながら、私はなにげなく石碑に手を伸ばした。
すると次の瞬間、突然私の目の前がまっ白な光に包まれた。
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説

AV研は今日もハレンチ
楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo?
AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて――
薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
みちのく銀山温泉
沖田弥子
キャラ文芸
高校生の花野優香は山形の銀山温泉へやってきた。親戚の営む温泉宿「花湯屋」でお手伝いをしながら地元の高校へ通うため。ところが駅に現れた圭史郎に花湯屋へ連れて行ってもらうと、子鬼たちを発見。花野家当主の直系である優香は、あやかし使いの末裔であると聞かされる。さらに若女将を任されて、神使の圭史郎と共に花湯屋であやかしのお客様を迎えることになった。高校生若女将があやかしたちと出会い、成長する物語。◆後半に優香が前の彼氏について語るエピソードがありますが、私の実体験を交えています。◆第2回キャラ文芸大賞にて、大賞を受賞いたしました。応援ありがとうございました!
2019年7月11日、書籍化されました。


王道学園の冷徹生徒会長、裏の顔がバレて総受けルート突入しちゃいました!え?逃げ場無しですか?
名無しのナナ氏
BL
王道学園に入学して1ヶ月でトップに君臨した冷徹生徒会長、有栖川 誠(ありすがわ まこと)。常に冷静で無表情、そして無言の誠を生徒達からは尊敬の眼差しで見られていた。
そんな彼のもう1つの姿は… どの企業にも属さないにも関わらず、VTuber界で人気を博した個人VTuber〈〈 アイリス 〉〉!? 本性は寂しがり屋の泣き虫。色々あって周りから誤解されまくってしまった結果アイリスとして素を出していた。そんなある日、生徒会の仕事を1人で黙々とやっている内に疲れてしまい__________
※
・非王道気味
・固定カプ予定は無い
・悲しい過去🐜のたまにシリアス
・話の流れが遅い

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~
おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。
どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。
そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。
その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。
その結果、様々な女性に迫られることになる。
元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。
「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」
今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。
ひきこもり瑞祥妃は黒龍帝の寵愛を受ける
緋村燐
キャラ文芸
天に御座す黄龍帝が創りし中つ国には、白、黒、赤、青の四龍が治める国がある。
中でも特に広く豊かな大地を持つ龍湖国は、白黒対の龍が治める国だ。
龍帝と婚姻し地上に恵みをもたらす瑞祥の娘として生まれた李紅玉は、その力を抑えるためまじないを掛けた状態で入宮する。
だが事情を知らぬ白龍帝は呪われていると言い紅玉を下級妃とした。
それから二年が経ちまじないが消えたが、すっかり白龍帝の皇后になる気を無くしてしまった紅玉は他の方法で使命を果たそうと行動を起こす。
そう、この国には白龍帝の対となる黒龍帝もいるのだ。
黒龍帝の皇后となるため、位を上げるよう奮闘する中で紅玉は自身にまじないを掛けた道士の名を聞く。
道士と龍帝、瑞祥の娘の因果が絡み合う!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる