おきつねさまと私の奇妙な生活

美汐

文字の大きさ
上 下
35 / 55
第五話 消えたおきつねさまと烏天狗

消えたおきつねさまと烏天狗1

しおりを挟む
 小さいころ、私は迷子になったことがある。
 両親とはぐれて迷い込んだところは、とある神社の境内。普段の住宅街とは違う雰囲気に、幼心にもここが普通の場所ではないことを感じ取っていた。
 不安で心細くて泣きながら神社の境内を歩いているとき、ふと神社の社殿にあるお賽銭箱の陰になにかが見えた。

 それは白くてふさふさしていて、なんだか気持ちよさそうなものに思え、私はそっと近づいていった。
 賽銭箱の裏を覗いてみると、そこにいたのは綺麗な生き物だった。雪のように白い毛並みは穢れのない美しさで、すっと尖った顔つきは上品に見えた。特に目を惹いたのは、その瞳で、ルビーのような赤い色は見とれてしまうほどに綺麗だった。

 けれど、その生き物は少し元気がないように思えた。どうしてだろうと様子を見ていると、どうやら脚を怪我しているらしいことに私は気がついた。

 ――大丈夫?

 声をかけるとその生き物は私のほうに顔を向けたかと思うと、すぐに目を閉じた。

 ――怪我してるんだね。私が手当してあげる。

 私は持っていたハンカチを自分のスカートのポケットから取り出すと、その生き物の怪我をしている脚に巻いて縛った。
 すると、その生き物は再び目を見開き、私の顔を見た。
 やっぱりその瞳の色は宝石のように美しく思った。

 ――あなたも一人なの? 私もパパとママとはぐれちゃって一人になっちゃった。

 私はその生き物の隣にちょこんと座り、遠くの空を見つめた。忘れていた涙がまた目頭に盛り上がってきた。
 すると、膝に載せていた私の手に、温かい感触が伝わってきた。
 見れば隣にいた生き物が私の手に頭を擦りつけていた。

 ――うふふ。ありがとう。

 くすぐったくて優しいその柔らかな毛並みの感触が心地よく、こぼれ落ちそうだった涙がすぐに引っ込んでいった。

 ――そうだ。あなたにいいものをあげるね。

 私は仲良くなったその生き物に、ハンカチを入れていたほうのポケットとは反対のポケットに入れていたそれをつけてあげたのだった。





 六月最後の日曜日の朝。ぼんやりと見上げる部屋の天井には、なんの変哲もない丸いカバーのついた電灯がついているだけだった。しかし私の意識はそんなつまらない天井の風景ではなく、先程見た夢のことで占められていた。

 どうして忘れていたのだろう。
 あの神社は――。

 そう。あの神社は、あの日、雨女と子供を捜している途中で見つけた神社に違いなかった。あのとき、いつか来たことがあるような気がしてならなかったのは、やはり思い違いではなかった。
 私はあの神社を一度訪れたことがある。
 そして、私はあの不思議な生き物と出会ったのだ。

 私はむくりと体を起こし、周囲に視線をめぐらした。今ここにおきつねさまはいない。
 あれから一週間。
 突然姿を見せなくなった空孤のことが、私はどうしてだか気になって仕方がなかった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

御伽噺のその先へ

雪華
キャラ文芸
ほんの気まぐれと偶然だった。しかし、あるいは運命だったのかもしれない。 高校1年生の紗良のクラスには、他人に全く興味を示さない男子生徒がいた。 彼は美少年と呼ぶに相応しい容姿なのだが、言い寄る女子を片っ端から冷たく突き放し、「観賞用王子」と陰で囁かれている。 その王子が紗良に告げた。 「ねえ、俺と付き合ってよ」 言葉とは裏腹に彼の表情は険しい。 王子には、誰にも言えない秘密があった。

パーフェクトアンドロイド

ことは
キャラ文芸
アンドロイドが通うレアリティ学園。この学園の生徒たちは、インフィニティブレイン社の実験的試みによって開発されたアンドロイドだ。 だが俺、伏木真人(ふしぎまひと)は、この学園のアンドロイドたちとは決定的に違う。 俺はインフィニティブレイン社との契約で、モニターとしてこの学園に入学した。他の生徒たちを観察し、定期的に校長に報告することになっている。 レアリティ学園の新入生は100名。 そのうちアンドロイドは99名。 つまり俺は、生身の人間だ。 ▶︎credit 表紙イラスト おーい

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

アルバートの屈辱

プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。 『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

処理中です...