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第五話 消えたおきつねさまと烏天狗

消えたおきつねさまと烏天狗1

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 小さいころ、私は迷子になったことがある。
 両親とはぐれて迷い込んだところは、とある神社の境内。普段の住宅街とは違う雰囲気に、幼心にもここが普通の場所ではないことを感じ取っていた。
 不安で心細くて泣きながら神社の境内を歩いているとき、ふと神社の社殿にあるお賽銭箱の陰になにかが見えた。

 それは白くてふさふさしていて、なんだか気持ちよさそうなものに思え、私はそっと近づいていった。
 賽銭箱の裏を覗いてみると、そこにいたのは綺麗な生き物だった。雪のように白い毛並みは穢れのない美しさで、すっと尖った顔つきは上品に見えた。特に目を惹いたのは、その瞳で、ルビーのような赤い色は見とれてしまうほどに綺麗だった。

 けれど、その生き物は少し元気がないように思えた。どうしてだろうと様子を見ていると、どうやら脚を怪我しているらしいことに私は気がついた。

 ――大丈夫?

 声をかけるとその生き物は私のほうに顔を向けたかと思うと、すぐに目を閉じた。

 ――怪我してるんだね。私が手当してあげる。

 私は持っていたハンカチを自分のスカートのポケットから取り出すと、その生き物の怪我をしている脚に巻いて縛った。
 すると、その生き物は再び目を見開き、私の顔を見た。
 やっぱりその瞳の色は宝石のように美しく思った。

 ――あなたも一人なの? 私もパパとママとはぐれちゃって一人になっちゃった。

 私はその生き物の隣にちょこんと座り、遠くの空を見つめた。忘れていた涙がまた目頭に盛り上がってきた。
 すると、膝に載せていた私の手に、温かい感触が伝わってきた。
 見れば隣にいた生き物が私の手に頭を擦りつけていた。

 ――うふふ。ありがとう。

 くすぐったくて優しいその柔らかな毛並みの感触が心地よく、こぼれ落ちそうだった涙がすぐに引っ込んでいった。

 ――そうだ。あなたにいいものをあげるね。

 私は仲良くなったその生き物に、ハンカチを入れていたほうのポケットとは反対のポケットに入れていたそれをつけてあげたのだった。





 六月最後の日曜日の朝。ぼんやりと見上げる部屋の天井には、なんの変哲もない丸いカバーのついた電灯がついているだけだった。しかし私の意識はそんなつまらない天井の風景ではなく、先程見た夢のことで占められていた。

 どうして忘れていたのだろう。
 あの神社は――。

 そう。あの神社は、あの日、雨女と子供を捜している途中で見つけた神社に違いなかった。あのとき、いつか来たことがあるような気がしてならなかったのは、やはり思い違いではなかった。
 私はあの神社を一度訪れたことがある。
 そして、私はあの不思議な生き物と出会ったのだ。

 私はむくりと体を起こし、周囲に視線をめぐらした。今ここにおきつねさまはいない。
 あれから一週間。
 突然姿を見せなくなった空孤のことが、私はどうしてだか気になって仕方がなかった。
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