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第三話 旧校舎トイレの怪
旧校舎トイレの怪8
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「もう、心臓に悪いったら……」
「へるぷみいというのは、助けてと言う意味だったのじゃな。ならば早くそう言えばよいのに」
いや、見ればわかるでしょ。どんだけこっちがてんぱってたと思ってるのだ。
とりあえず、問題の妖怪は今、おきつねさまの神通力でがんじがらめにされてトイレの床に座らされている。その首はすでに取れてしまって、己の腕で抱えられていた。その姿はやっぱりグロい。
しかし、先ほどよりは見慣れたせいか、それほど恐怖を感じなくなっていた。
「えーと、まずは名前を訊いておこうかな。あなた、名前は?」
話しかけられた首なし侍は、最初自分が話しかけられているとはわからなかったようで、少し反応が遅れた。
「え、名前……? 拙者の、でござるか?」
「そう。あなたの名前」
私が話しかけると、首なし侍はびっくりしたように取れた首についたその目を大きく見開いた。
「拙者の名前は、新太郎と申す」
すっかりおとなしくなった新太郎さんは、素直に私の質問に答えてくれた。
「新太郎さんね。なんでまたこんな人を驚かすような真似をするようになったの? そして、どうしてこの旧校舎のトイレに出没するようになったの?」
「それは……」
新太郎さんは、少し考えるように目を上に向けた。
「居場所が欲しかった……からでござる」
「居場所が欲しかった?」
思いがけない答えに、私は驚きの声を発していた。
「そう。拙者はもとは斬首されて死んだただの幽霊であったのだが、成仏できずにこの世をうろついているうちに妖怪と化してしまったのでござる。人間だったころの拙者は何事も取り柄がない良いところのない男であった。妖怪となってもそれは同じで、首が斬れている以外に、なにという特徴のない拙者は、他の妖怪たちには馬鹿にされることが多かった」
なるほど、妖怪たちの世界にもいろいろと事情があるようだ。
私は相づちを打ちつつ、新太郎さんの話に耳を傾ける。
「もともと拙者は、人を驚かすことがそんなに好きなわけではなかった。だが、他の妖怪たちがそうして面白がっているのを見ているうちに、自分も妖怪の端くれとしてそうすることにしたのでござる。だが実際やってみると、首のないこの姿だけでも人間たちは面白いように驚いてくれた。それでやっと、他の妖怪たちも拙者のことを認めてくれるようになり、拙者自身も自分にも取り柄があったのだと思えるようになったのでござる」
「取り柄など、いちいち面倒なことを考えるものじゃな。まあ、人を驚かすのが好きな妖怪というのは多いが」
新太郎さんの悩みなどまったく興味がないらしいおきつねさまは、どこから持ってきたのか、デッキブラシを片手でくるくると回して遊んでいる。
「それで、どうしてまたこの旧校舎のトイレに?」
私が続きを促すと、新太郎さんは微かに眉間に皺を寄せてから口を開いた。
「拙者が人間を驚かすことで、少しずつ妖怪社会で認められるようになっていたある日、とある妖怪が言ったのでござる」
――その程度では駄目だ。もっと多くの人間を驚かさないと、と。
「そこで、拙者は人間の多く集まる場所というのを探してみたのでござる。そうして見つけたのが、この学校だった。そして拙者が気に入ったのがこの旧校舎。いい具合に古びており、妖怪などのあやかしが棲みつくにはぴったりの場所だったでござる。人間たちも面白いように拙者の存在に驚いてくれ、周りの拙者に対する評価も鰻登りであった。けれどうまくいったと思ったのに、そこにはまた思わぬ誤算もあった」
「それが花子さんの存在というわけね」
私の後ろに立っていた花子さんの方を見ると、彼女は複雑そうな表情で、新太郎さんを見つめていた。
「しかし拙者も先住妖怪がいたからといって、簡単に引き下がるわけにはいかなかった。先住妖怪がいるならそいつを追い出せば拙者の住み処にできる。それで拙者はそこの花子どのの邪魔をさせてもらうことにしたのでござる」
なるほど、なんとなく新太郎さん側の事情はわかった。居場所が欲しい。確かにその気持ちはわからなくもない。
しかし、だからといって彼のやっていることを認めてもいいのだろうか。
「ねえ、新太郎さん。あなたの言いたいことはわかったわ。でも、ちょっとそれは酷いんじゃないかな?」
「酷い?」
「うん。だって、あなたの居場所を作るために、もともといた花子さんを追い出すなんて、花子さんに対して随分だと思わない?」
「そうじゃな。いくら妖怪同士だとはいえ、花子のことも考えてやるべきだと儂も思うぞ」
めずらしくおきつねさまとも意見が合う。
「花子さんも言いたいことあるよね?」
それまで沈黙を保っていた花子さんは、私と視線を合わせると、決心がついたのかこくりとうなずいた。そして新太郎さんのほうに視線を向け、話し始めた。
「私はこの校舎の三階女子トイレに住み着いている花子です」
新太郎さんは目の前の少女が声を発したことに、明らかに動揺を示した。
「私、困ってます。あなたがここに来るようになったせいで」
「……さようでござろうな」
「私はあなたがくるより前からあそこに住み着いていたの。ときどき名前を呼ばれたら顔を覗かせてみるのが私のやり方で。それもこの学校も学校の七不思議として受け入れてくれて、それでよかったの」
最初は控えめだった花子さんの口調だったが、話すことに慣れてきたのか、次第にそれは強くなっていった。
「なのに、あなたのせいで私の居場所が取られてしまった。あそこは私の居場所なの。あなたにあげるわけにはいかない」
きっぱりと、花子さんは言い切った。
譲れない。譲らない。そんな彼女の強い意志が、そこから感じられた。
新太郎さんは、花子さんに言われて戸惑っている様子だった。先ほどまでは自分の意見は正しいのだと信じている様子だったが、花子さんの話を聞いてからは、どこか迷いの色をその目に宿すようになっていた。
「しかし、拙者もここに住みたいと思っているのでござる」
「そんなの、あとから来て言われても、はっきり言って迷惑。早くここから出ていってよね!」
「し、しかし……」
新太郎さんは花子さんの気迫に気圧され、先ほどまでの強きはどこかへと飛んでいってしまったようである。
「拙者はここを自分のものに出来ないと困るのでござる……」
「困る? どうして困るの?」
私の疑問に、新太郎さんは意味深な言葉で返してきた。
「そうしないと、拙者はあの方に認めてもらうことができない……」
「あの方?」
私が再度疑問を口にした、そのときだった。
「東雲さん! 避けて!」
そんな叫び声が聞こえ、私は反射的にその場でしゃがみ込んだ。
その直後、すぐ近くからなにかの衝撃の気配と、うめき声が聞こえてきた。
「ぐ、がああああっ!!」
顔をあげるとそこに、なにか黒い霧のようなものに包まれ、苦悶の表情を浮かべている新太郎さんの姿が目に飛び込んできた。
「え、な、なに……?」
それからしばらくすると、新太郎さんの表情は苦悶のそれから自信のそれへと変貌していた。明らかに先ほどとは変わった様子に、私が不信感を抱いていると、黒いオーラを身に纏った新太郎さんが口を開いた。
「ここは拙者の住み処とするでござる。それを邪魔する者は消す」
新太郎さんはそう言うと、突然腰に差していた脇差しを抜き、こちらに向けて振りかざしてきた。
「え! ちょっと、危ないってば! 急になにするのよ!」
すぐに飛び退いて事なきを得たが、目の前の新太郎さんはすでに次の臨戦態勢に入ろうとしていた。私がわけがわからず、目を白黒させていると、おきつねさまが私の前に躍り出て、こう口にした。
「どうやら、後ろに厄介な妖怪がついていたようじゃな」
「厄介な妖怪……?」
私がどうしたらいいかわからずに立ち往生していると、トイレの奥にある窓の外から、再び声が聞こえてきた。
「東雲さん! とにかく今はそいつから逃げるんだ! 説明はあとでするから!」
そこに見えたのは、乾刀馬の顔だった。その表情は、なにかとても焦っているように見える。
「それと、狸には気を付けて!」
狸……?
なにがなんだかよくわからないが、とりあえずこの場からは立ち去ったほうが良さそうだった。
「この新太郎というやつのことは儂がなんとかしておくから、おぬしは花子と一緒にここから離れるのじゃ。それとこれを持っていけ」
そう言って、おきつねさまは先程まで手でもてあそんでいたデッキブラシを私に押しつけてくる。
「なに?」
「必要になることがあるやもしれぬ」
デッキブラシが?
いろんな疑問が脳裏を渦巻くが、とにかく私は乾くんとおきつねさまの言葉に従って、そこのトイレから離れることにした。花子さんとともに廊下へと躍り出る。
するとその直後、廊下の向こうから誰かの叫ぶ声が聞こえてきた。
「ヒッ!」
「うわあっ」
今度はなにが起きているのかと、そちらの方向に目を凝らしていると、ひとつの教室から、なにか黒っぽいものが飛び出してくるのが見えた。
「狸……!」
どうして狸がこんなところに現れたのかわからなかったが、先程の乾くんの言葉を思い出し、身を引き締める。
狸が今度はどちらに向かうのか見ていると、なんと次はこちらの方向へと体の向きを変えたのを見て、私は慌てた。
「え、ちょっ。こっちに来るわけ!?」
どうすべきか迷い、視線を辺りにめぐらす。そして、すぐに決断した。
「花子さんもついてきて!」
私は廊下の向こうからやってくる狸に向かって走り出した。
狸もこちらからやってくる私の姿に気付いた様子だったが、狸はそのままの速度を落とすことなく、私に向かって突進してくる。
「避けないなら、弾き飛ばすわよ!」
もうこうなったらままよ!
「でええええーーーいっっっ!!」
私はおきつねさまに渡されたデッキブラシを構えながら、狸に向かっていった。そして狸はそのまま私のデッキブラシに弾かれ、廊下の脇に飛ばされたのである。
「ごめん! どこぞの狸さんっ。急いでるから許して!」
そうして、私は花子さんとともに、その先の昇降口まで走り抜けていったのだった。
「へるぷみいというのは、助けてと言う意味だったのじゃな。ならば早くそう言えばよいのに」
いや、見ればわかるでしょ。どんだけこっちがてんぱってたと思ってるのだ。
とりあえず、問題の妖怪は今、おきつねさまの神通力でがんじがらめにされてトイレの床に座らされている。その首はすでに取れてしまって、己の腕で抱えられていた。その姿はやっぱりグロい。
しかし、先ほどよりは見慣れたせいか、それほど恐怖を感じなくなっていた。
「えーと、まずは名前を訊いておこうかな。あなた、名前は?」
話しかけられた首なし侍は、最初自分が話しかけられているとはわからなかったようで、少し反応が遅れた。
「え、名前……? 拙者の、でござるか?」
「そう。あなたの名前」
私が話しかけると、首なし侍はびっくりしたように取れた首についたその目を大きく見開いた。
「拙者の名前は、新太郎と申す」
すっかりおとなしくなった新太郎さんは、素直に私の質問に答えてくれた。
「新太郎さんね。なんでまたこんな人を驚かすような真似をするようになったの? そして、どうしてこの旧校舎のトイレに出没するようになったの?」
「それは……」
新太郎さんは、少し考えるように目を上に向けた。
「居場所が欲しかった……からでござる」
「居場所が欲しかった?」
思いがけない答えに、私は驚きの声を発していた。
「そう。拙者はもとは斬首されて死んだただの幽霊であったのだが、成仏できずにこの世をうろついているうちに妖怪と化してしまったのでござる。人間だったころの拙者は何事も取り柄がない良いところのない男であった。妖怪となってもそれは同じで、首が斬れている以外に、なにという特徴のない拙者は、他の妖怪たちには馬鹿にされることが多かった」
なるほど、妖怪たちの世界にもいろいろと事情があるようだ。
私は相づちを打ちつつ、新太郎さんの話に耳を傾ける。
「もともと拙者は、人を驚かすことがそんなに好きなわけではなかった。だが、他の妖怪たちがそうして面白がっているのを見ているうちに、自分も妖怪の端くれとしてそうすることにしたのでござる。だが実際やってみると、首のないこの姿だけでも人間たちは面白いように驚いてくれた。それでやっと、他の妖怪たちも拙者のことを認めてくれるようになり、拙者自身も自分にも取り柄があったのだと思えるようになったのでござる」
「取り柄など、いちいち面倒なことを考えるものじゃな。まあ、人を驚かすのが好きな妖怪というのは多いが」
新太郎さんの悩みなどまったく興味がないらしいおきつねさまは、どこから持ってきたのか、デッキブラシを片手でくるくると回して遊んでいる。
「それで、どうしてまたこの旧校舎のトイレに?」
私が続きを促すと、新太郎さんは微かに眉間に皺を寄せてから口を開いた。
「拙者が人間を驚かすことで、少しずつ妖怪社会で認められるようになっていたある日、とある妖怪が言ったのでござる」
――その程度では駄目だ。もっと多くの人間を驚かさないと、と。
「そこで、拙者は人間の多く集まる場所というのを探してみたのでござる。そうして見つけたのが、この学校だった。そして拙者が気に入ったのがこの旧校舎。いい具合に古びており、妖怪などのあやかしが棲みつくにはぴったりの場所だったでござる。人間たちも面白いように拙者の存在に驚いてくれ、周りの拙者に対する評価も鰻登りであった。けれどうまくいったと思ったのに、そこにはまた思わぬ誤算もあった」
「それが花子さんの存在というわけね」
私の後ろに立っていた花子さんの方を見ると、彼女は複雑そうな表情で、新太郎さんを見つめていた。
「しかし拙者も先住妖怪がいたからといって、簡単に引き下がるわけにはいかなかった。先住妖怪がいるならそいつを追い出せば拙者の住み処にできる。それで拙者はそこの花子どのの邪魔をさせてもらうことにしたのでござる」
なるほど、なんとなく新太郎さん側の事情はわかった。居場所が欲しい。確かにその気持ちはわからなくもない。
しかし、だからといって彼のやっていることを認めてもいいのだろうか。
「ねえ、新太郎さん。あなたの言いたいことはわかったわ。でも、ちょっとそれは酷いんじゃないかな?」
「酷い?」
「うん。だって、あなたの居場所を作るために、もともといた花子さんを追い出すなんて、花子さんに対して随分だと思わない?」
「そうじゃな。いくら妖怪同士だとはいえ、花子のことも考えてやるべきだと儂も思うぞ」
めずらしくおきつねさまとも意見が合う。
「花子さんも言いたいことあるよね?」
それまで沈黙を保っていた花子さんは、私と視線を合わせると、決心がついたのかこくりとうなずいた。そして新太郎さんのほうに視線を向け、話し始めた。
「私はこの校舎の三階女子トイレに住み着いている花子です」
新太郎さんは目の前の少女が声を発したことに、明らかに動揺を示した。
「私、困ってます。あなたがここに来るようになったせいで」
「……さようでござろうな」
「私はあなたがくるより前からあそこに住み着いていたの。ときどき名前を呼ばれたら顔を覗かせてみるのが私のやり方で。それもこの学校も学校の七不思議として受け入れてくれて、それでよかったの」
最初は控えめだった花子さんの口調だったが、話すことに慣れてきたのか、次第にそれは強くなっていった。
「なのに、あなたのせいで私の居場所が取られてしまった。あそこは私の居場所なの。あなたにあげるわけにはいかない」
きっぱりと、花子さんは言い切った。
譲れない。譲らない。そんな彼女の強い意志が、そこから感じられた。
新太郎さんは、花子さんに言われて戸惑っている様子だった。先ほどまでは自分の意見は正しいのだと信じている様子だったが、花子さんの話を聞いてからは、どこか迷いの色をその目に宿すようになっていた。
「しかし、拙者もここに住みたいと思っているのでござる」
「そんなの、あとから来て言われても、はっきり言って迷惑。早くここから出ていってよね!」
「し、しかし……」
新太郎さんは花子さんの気迫に気圧され、先ほどまでの強きはどこかへと飛んでいってしまったようである。
「拙者はここを自分のものに出来ないと困るのでござる……」
「困る? どうして困るの?」
私の疑問に、新太郎さんは意味深な言葉で返してきた。
「そうしないと、拙者はあの方に認めてもらうことができない……」
「あの方?」
私が再度疑問を口にした、そのときだった。
「東雲さん! 避けて!」
そんな叫び声が聞こえ、私は反射的にその場でしゃがみ込んだ。
その直後、すぐ近くからなにかの衝撃の気配と、うめき声が聞こえてきた。
「ぐ、がああああっ!!」
顔をあげるとそこに、なにか黒い霧のようなものに包まれ、苦悶の表情を浮かべている新太郎さんの姿が目に飛び込んできた。
「え、な、なに……?」
それからしばらくすると、新太郎さんの表情は苦悶のそれから自信のそれへと変貌していた。明らかに先ほどとは変わった様子に、私が不信感を抱いていると、黒いオーラを身に纏った新太郎さんが口を開いた。
「ここは拙者の住み処とするでござる。それを邪魔する者は消す」
新太郎さんはそう言うと、突然腰に差していた脇差しを抜き、こちらに向けて振りかざしてきた。
「え! ちょっと、危ないってば! 急になにするのよ!」
すぐに飛び退いて事なきを得たが、目の前の新太郎さんはすでに次の臨戦態勢に入ろうとしていた。私がわけがわからず、目を白黒させていると、おきつねさまが私の前に躍り出て、こう口にした。
「どうやら、後ろに厄介な妖怪がついていたようじゃな」
「厄介な妖怪……?」
私がどうしたらいいかわからずに立ち往生していると、トイレの奥にある窓の外から、再び声が聞こえてきた。
「東雲さん! とにかく今はそいつから逃げるんだ! 説明はあとでするから!」
そこに見えたのは、乾刀馬の顔だった。その表情は、なにかとても焦っているように見える。
「それと、狸には気を付けて!」
狸……?
なにがなんだかよくわからないが、とりあえずこの場からは立ち去ったほうが良さそうだった。
「この新太郎というやつのことは儂がなんとかしておくから、おぬしは花子と一緒にここから離れるのじゃ。それとこれを持っていけ」
そう言って、おきつねさまは先程まで手でもてあそんでいたデッキブラシを私に押しつけてくる。
「なに?」
「必要になることがあるやもしれぬ」
デッキブラシが?
いろんな疑問が脳裏を渦巻くが、とにかく私は乾くんとおきつねさまの言葉に従って、そこのトイレから離れることにした。花子さんとともに廊下へと躍り出る。
するとその直後、廊下の向こうから誰かの叫ぶ声が聞こえてきた。
「ヒッ!」
「うわあっ」
今度はなにが起きているのかと、そちらの方向に目を凝らしていると、ひとつの教室から、なにか黒っぽいものが飛び出してくるのが見えた。
「狸……!」
どうして狸がこんなところに現れたのかわからなかったが、先程の乾くんの言葉を思い出し、身を引き締める。
狸が今度はどちらに向かうのか見ていると、なんと次はこちらの方向へと体の向きを変えたのを見て、私は慌てた。
「え、ちょっ。こっちに来るわけ!?」
どうすべきか迷い、視線を辺りにめぐらす。そして、すぐに決断した。
「花子さんもついてきて!」
私は廊下の向こうからやってくる狸に向かって走り出した。
狸もこちらからやってくる私の姿に気付いた様子だったが、狸はそのままの速度を落とすことなく、私に向かって突進してくる。
「避けないなら、弾き飛ばすわよ!」
もうこうなったらままよ!
「でええええーーーいっっっ!!」
私はおきつねさまに渡されたデッキブラシを構えながら、狸に向かっていった。そして狸はそのまま私のデッキブラシに弾かれ、廊下の脇に飛ばされたのである。
「ごめん! どこぞの狸さんっ。急いでるから許して!」
そうして、私は花子さんとともに、その先の昇降口まで走り抜けていったのだった。
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