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第三話 旧校舎トイレの怪
旧校舎トイレの怪7
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旧校舎一階では、いくつかの文化部が各教室を使っていた。
教室のドア部分には、部活動の名前が貼られており、それぞれ将棋部、囲碁部、ダンス部に軽音部というのもあった。
確か二階にもいくつかの部活が部室として使っており、そこに新聞部も入っているはずである。
「なかなか賑やかなもんだねぇ」
なりゆきで新聞部に入ることになってしまった私だが、これまでは特に部活動をしていなかったため、他の部の様子などまともに見たことがなかった。しかし、文化部でもこれだけの部活があり、ちらりと見ただけでもそれなりに活発に活動している様子がうかがえた。
「そうか。これが世に言うところの青春というやつか……」
なぜかちょっぴり目頭が熱を帯びる。妖怪さえいなければきっと私も……。
「結月もこれからその青春とやらを味わうのであろう? ならばよいではないか」
私の気持ちなどこれっぽっちもわかっていない大妖怪様は、簡単にそんなことを言う。
「今のところ、青春なんて味わう余裕があるとはちっとも思えないんですけどね」
入部早々、部長は倒れ、これから得体の知れない妖怪と会わなければならないのだ。これが青春の一ページとかって、他の部とのあまりの格差に愕然として涙が出そうになったなんて、きっと説明したところでわかってなどくれはしまい。
「とにかく、亜矢子の仇でもある迷惑妖怪の正体をこの目で見てやろうじゃない。危険になったときはおきつねさま、よろしくね!」
「うむ」
そして私たちは問題の一階西側のトイレ前にたどり着いた。見た感じは、三階のトイレと同様、普通のトイレのように思えたが、おきつねさまいわく、今ここには得体の知れない妖怪がいるらしい。
「おきつねさま。その妖怪がいるのって、女子トイレのほうだよね?」
「うむ。そのようじゃな」
って、よく考えたらその妖怪って変態なのでは……。違う意味で怖い存在だったりして。
いろんなよからぬ想像が頭を駆け巡るが、とにかくこうして突っ立っていても仕方ない。
「じ、じゃー、入るよ」
私は覚悟を決めて、トイレに足を踏み入れた。
トイレ内は、三階のときと同様、今は誰も使用していないようだった。奥の小窓から入った陽の光が床に落ち、タイルの目地を照らしている。入って右側に三つ並んだトイレの造りも上の階のものとそっくりそのままだった。たぶん男子トイレはこの反対の造りになっているのだろう。
「妖怪さーん。いらっしゃいますかー?」
なんとなく呼びかけてみるが、しばらく待っても返事はない。
「また逃げる前に、さっさとドアを開けていったほうがよいのではないか?」
他人事だと思って簡単に言うおきつねさま。
だから、それをするのにどんだけ勇気がいると思っているのさ!
しかし、文句を言っていても始まらないので、しぶしぶ私は亜矢子がやっていたように、手前のトイレのドアから順番に開けていくことにした。
「それじゃ、開けるよ」
ドアノブに手をかけ、ゆっくりとドアを開ける。
特に異常なし。ごくごく普通の和式トイレ。
「異常なし」
次は二つめのドア。ドキドキしながらドアノブを回す。
今度も個室内にはなにもいなかった。特に気になるところもない。
「ここも異常なし。ということは……」
「やはり三番目のトイレじゃな」
おきつねさまが呑気な口調で言う。
「花子さんといい、学校の七不思議とかってなぜか三番目のトイレに関係してるんだよね。なんか三番目なのに理由あるの?」
不思議に思って花子さんに訊ねてみる。
「うーん、特にこれといった理由はないけど……。強いて言うなら、やっぱりそこが落ち着くっていうか、そんな感じ? いつもここっていう」
「ああ、なんとなくわかるかも。家のリビングで座る場所とか、いつもと違うと変な感じするもん。定位置、みたいな?」
「そう、それ! 私のもそれだよ」
「そっかぁ。なるほどねー。そこを変な妖怪にとられちゃったらそれはやだよねー」
なぜか妖怪の花子さんと意気投合する私。知らぬうちに妖怪に慣れすぎている感がしなくもないが……まあ、いいか。
「とにかく、次が当たりっぽいよね。やだなー。その手の当たり開けるの」
「今さら怖がるほどのものでもないじゃろう。変な妖怪なんぞ、しょっちゅう見ておるではないか」
「だからー、あえて見たくないものをこちらから見に行くっていうこの行為そのものが嫌なの! それに、いつも見てるから慣れてるとか思われてるのも心外! 妖怪なんて見なくて済むなら頼まれても見たくないんだから!」
私の全力の抗議もどこ吹く風とばかりに聞き流し、「それより早くせぬか」と催促するおきつねさま。まったく、他人事だと思って。
しぶしぶ三番目のドアのドアノブに手をかけ、回す私。
だいたい、うら若き乙女がなにが悲しくてトイレを調べ回らなくてはいけないのか。
と、ゆっくりとドアを開きかけた私の足もとに、突然冷たい感触が襲った。
ぞわり、と背筋が粟立つ。
視線をトイレのほうへとやると、そこにはあってはならないものが這い出てきていた。
「ぎ、ぎゃあああああ!!」
私の足首を掴んでいるのは、萎びた手。その先にあるのは、着物を着た胴体。
そして、その上には、ちょんまげをつけた男の頭。しかもそれは首から先が皮一枚で繋がっているだけの状態。
それがトイレから現れたのだ。これがホラーでなくてなんなのだ!
「お、おきつねさまおきつねさま!! ヘヘヘ、ヘルプ! ヘルプミー!!」
「へるぷ、みい?」
「だだだだからあ!! わかるでしょお!!」
もう完全に恐怖と怒りで頭は沸騰状態である。
「助けてえええええっっっ!!」
「おお。そうじゃったな。とりあえずそいつをおとなしくさせんと」
ようやく気付いた様子のおきつねさまは、私の気も知らないで、実にのんびりと役目を務めてくれたのだった。
教室のドア部分には、部活動の名前が貼られており、それぞれ将棋部、囲碁部、ダンス部に軽音部というのもあった。
確か二階にもいくつかの部活が部室として使っており、そこに新聞部も入っているはずである。
「なかなか賑やかなもんだねぇ」
なりゆきで新聞部に入ることになってしまった私だが、これまでは特に部活動をしていなかったため、他の部の様子などまともに見たことがなかった。しかし、文化部でもこれだけの部活があり、ちらりと見ただけでもそれなりに活発に活動している様子がうかがえた。
「そうか。これが世に言うところの青春というやつか……」
なぜかちょっぴり目頭が熱を帯びる。妖怪さえいなければきっと私も……。
「結月もこれからその青春とやらを味わうのであろう? ならばよいではないか」
私の気持ちなどこれっぽっちもわかっていない大妖怪様は、簡単にそんなことを言う。
「今のところ、青春なんて味わう余裕があるとはちっとも思えないんですけどね」
入部早々、部長は倒れ、これから得体の知れない妖怪と会わなければならないのだ。これが青春の一ページとかって、他の部とのあまりの格差に愕然として涙が出そうになったなんて、きっと説明したところでわかってなどくれはしまい。
「とにかく、亜矢子の仇でもある迷惑妖怪の正体をこの目で見てやろうじゃない。危険になったときはおきつねさま、よろしくね!」
「うむ」
そして私たちは問題の一階西側のトイレ前にたどり着いた。見た感じは、三階のトイレと同様、普通のトイレのように思えたが、おきつねさまいわく、今ここには得体の知れない妖怪がいるらしい。
「おきつねさま。その妖怪がいるのって、女子トイレのほうだよね?」
「うむ。そのようじゃな」
って、よく考えたらその妖怪って変態なのでは……。違う意味で怖い存在だったりして。
いろんなよからぬ想像が頭を駆け巡るが、とにかくこうして突っ立っていても仕方ない。
「じ、じゃー、入るよ」
私は覚悟を決めて、トイレに足を踏み入れた。
トイレ内は、三階のときと同様、今は誰も使用していないようだった。奥の小窓から入った陽の光が床に落ち、タイルの目地を照らしている。入って右側に三つ並んだトイレの造りも上の階のものとそっくりそのままだった。たぶん男子トイレはこの反対の造りになっているのだろう。
「妖怪さーん。いらっしゃいますかー?」
なんとなく呼びかけてみるが、しばらく待っても返事はない。
「また逃げる前に、さっさとドアを開けていったほうがよいのではないか?」
他人事だと思って簡単に言うおきつねさま。
だから、それをするのにどんだけ勇気がいると思っているのさ!
しかし、文句を言っていても始まらないので、しぶしぶ私は亜矢子がやっていたように、手前のトイレのドアから順番に開けていくことにした。
「それじゃ、開けるよ」
ドアノブに手をかけ、ゆっくりとドアを開ける。
特に異常なし。ごくごく普通の和式トイレ。
「異常なし」
次は二つめのドア。ドキドキしながらドアノブを回す。
今度も個室内にはなにもいなかった。特に気になるところもない。
「ここも異常なし。ということは……」
「やはり三番目のトイレじゃな」
おきつねさまが呑気な口調で言う。
「花子さんといい、学校の七不思議とかってなぜか三番目のトイレに関係してるんだよね。なんか三番目なのに理由あるの?」
不思議に思って花子さんに訊ねてみる。
「うーん、特にこれといった理由はないけど……。強いて言うなら、やっぱりそこが落ち着くっていうか、そんな感じ? いつもここっていう」
「ああ、なんとなくわかるかも。家のリビングで座る場所とか、いつもと違うと変な感じするもん。定位置、みたいな?」
「そう、それ! 私のもそれだよ」
「そっかぁ。なるほどねー。そこを変な妖怪にとられちゃったらそれはやだよねー」
なぜか妖怪の花子さんと意気投合する私。知らぬうちに妖怪に慣れすぎている感がしなくもないが……まあ、いいか。
「とにかく、次が当たりっぽいよね。やだなー。その手の当たり開けるの」
「今さら怖がるほどのものでもないじゃろう。変な妖怪なんぞ、しょっちゅう見ておるではないか」
「だからー、あえて見たくないものをこちらから見に行くっていうこの行為そのものが嫌なの! それに、いつも見てるから慣れてるとか思われてるのも心外! 妖怪なんて見なくて済むなら頼まれても見たくないんだから!」
私の全力の抗議もどこ吹く風とばかりに聞き流し、「それより早くせぬか」と催促するおきつねさま。まったく、他人事だと思って。
しぶしぶ三番目のドアのドアノブに手をかけ、回す私。
だいたい、うら若き乙女がなにが悲しくてトイレを調べ回らなくてはいけないのか。
と、ゆっくりとドアを開きかけた私の足もとに、突然冷たい感触が襲った。
ぞわり、と背筋が粟立つ。
視線をトイレのほうへとやると、そこにはあってはならないものが這い出てきていた。
「ぎ、ぎゃあああああ!!」
私の足首を掴んでいるのは、萎びた手。その先にあるのは、着物を着た胴体。
そして、その上には、ちょんまげをつけた男の頭。しかもそれは首から先が皮一枚で繋がっているだけの状態。
それがトイレから現れたのだ。これがホラーでなくてなんなのだ!
「お、おきつねさまおきつねさま!! ヘヘヘ、ヘルプ! ヘルプミー!!」
「へるぷ、みい?」
「だだだだからあ!! わかるでしょお!!」
もう完全に恐怖と怒りで頭は沸騰状態である。
「助けてえええええっっっ!!」
「おお。そうじゃったな。とりあえずそいつをおとなしくさせんと」
ようやく気付いた様子のおきつねさまは、私の気も知らないで、実にのんびりと役目を務めてくれたのだった。
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