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第三話 旧校舎トイレの怪
旧校舎トイレの怪3
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放課後。どういう経緯でこうなったのかいまいちわからないまま、私は旧校舎の三階東側の女子トイレ前まで来ていた。
そして、私の隣には亜矢子と、もう一人、どういうわけか乾刀馬が立っていた。そんな私たちを後ろから俯瞰するように、おきつねさまがふわふわと宙に浮いている。
「えーと? 亜矢子? なんでここに私たちを連れてきたのかな?」
なぜか不気味な笑みを浮かべながら、私の質問に亜矢子はこう答えた。
「うふふふふ。言っただろ。我が新聞部のスクープ記事を書くのに、どうしてもあなたたちの協力が必要なんだって」
授業が終わって帰ろうとする私を強引に引き止め、とにかく来てという文句で私を引っ張り、さらには廊下に立っていた乾くんを有無を言わさず捕まえた亜矢子。なんだか嫌な予感がしつつも、彼女の勢いに飲まれる形で私と乾くんはここまでついてきてしまった。
「えーと。ここってあれでしょ。朝言ってたトイレの怪で噂の場所だよね。そこで、なんで私と乾くんの協力が必要なわけ?」
「あたしが知ってる限り、うちの学年で部活に入ってなくって暇そうにしてるのって、結月と乾くんくらいなんだよね。そしてわが新聞部が廃部寸前のピンチだということはすでにわかっていると思うんだけど」
確かに私と乾くんは帰宅部で、亜矢子の新聞部は先日受験のために三年生が部活をやめた影響で、現在部員が亜矢子一人となってしまい、もはや存続の危機が危ぶまれているということも知っている。だがしかし、それと今のこの状況と、いったいなんの関係があるというのだろう。
「ううん。まだ意味がよくわからないんだけど。私と乾くんがどうしてここに連れてこられているわけだ?」
「実はな。先日顧問の先生にあたしは宣告されたのだ。一週間以内に新しい部員を最低二人は連れてこなければ、新聞部は廃部だと。さらに、こう釘を刺された。形だけの幽霊部員じゃ駄目。ちゃんと部活動として認められる活動をしている証拠も持ってこいと」
「え……。それってつまり……」
亜矢子は両手を合わせ、懇願のポーズで私と乾くんに迫った。
「お願いだ! 二人とも! どうか新聞部に入部して、私と一緒に新聞記事作るのに協力してくれ!」
私は必死な亜矢子にどう答えていいのか困り、隣に立っていた乾くんに視線をやる。すると、乾くんもまたこちらを見て、困ったように頭を掻いていた。
「絶対廃部にはしたくないんだよ~。一生のお願いだから~」
「うーん」
私は困って腕を組む。親友の亜矢子の一生の頼みとあっては無下に断るのもためらわれる。とはいえ、私が帰宅部でいることは、重要な理由があってのことなのだ。それはつまり、夕方過ぎてから多発する妖怪との遭遇に対する自己防衛になるわけなのだが。
そう考え、先日の河童と皿かぞえの一件を思い出し、再びちらりと隣の乾刀馬の顔を見やった。涼しげな顔で佇む彼は、今は天井のほうを見つめながら物思いに耽っているようだった。
あのとき彼は、なぜ私を助けてくれたのか。
何度か彼にそのことを尋ねようと隣のクラスに足を運んだりしていたのだが、なぜかいつもどこかに行ってしまっていなかったり、すれ違いでいなくなったりして会えないままだった。この前など、あからさまに私の姿を見て、距離を取られてしまい、軽くショックを受けたりもした。
どうやら私は彼に避けられている。なにか嫌われるようなことでもしたのだろうかと考えるが、そもそもあの一件こそが謎なだけで、特別今まで彼と親しくしていたことなどなかったことを思い出す。
結局、謎は謎のまま、彼と話をすることができないまま今現在に至っていた。
ミステリアスな男だ。
そんな感想を抱きながら、今はそれよりも目の前の問題を考えなくてはいけないことを思い出した。
「あのね。亜矢子」
亜矢子には悪いけれど、私も部活で帰り時間を遅くするわけにはいかないのだ。ここは心を鬼にして、彼女の頼みを断らなくては。
そう言おうと思ったときだった。
『いいのではないか? このものの頼み、聞き入れても』
(え?)
驚いて振り返ると、そこには胡坐をかいた態勢で面白そうにこちらを見つめるおきつねさまがいた。
『おぬしが心配しているのは、夕刻過ぎてから多く出没する妖怪のことであろう? そんなもの、この儂が一緒にいれば蹴散らしてやれるのじゃ。先程から聞いておれば、このものは随分その新聞部とやらに思い入れを持っておる様子。おぬしも妖怪のことがなければ、このものの頼みを聞き入れたいと思っておるのじゃろう?』
(そ、それはそうだけど……)
『それなら断る道理はない。一生の願いとまで言うておるのじゃ。つきあってやるのがおぬしら人間の言うところの人情というものであろう』
おきつねさまの言葉が、ぐさりと胸に刺さった。
私は親友のここまでの必死な頼みに対し、簡単に断ろうと考えていた。後ろめたい思いを持ちながらも、妖怪のことで長年悩まされてきたことを思うと、聞き入れるのは無理だと思った。
けれど、言われてみればおきつねさまの言う通りだ。
妖怪のことも、おきつねさまがいてくれれば今までよりも安心していられるし、なにより、親友が大切に思っている新聞部の危機なのだ。それを助けてあげないで、どうして親友なんて言える?
「結月?」
突然背後を振り返り、考え込んでいた私に、怪訝そうに声をかける亜矢子。そんな彼女に、私はわざとらしいほどの笑顔を向けて言った。
「わかった。新聞部存続のため、この私が協力してあげようじゃない」
それを聞いた亜矢子は、みるみるうちに表情を明るくしていったのである。
そして、私の隣には亜矢子と、もう一人、どういうわけか乾刀馬が立っていた。そんな私たちを後ろから俯瞰するように、おきつねさまがふわふわと宙に浮いている。
「えーと? 亜矢子? なんでここに私たちを連れてきたのかな?」
なぜか不気味な笑みを浮かべながら、私の質問に亜矢子はこう答えた。
「うふふふふ。言っただろ。我が新聞部のスクープ記事を書くのに、どうしてもあなたたちの協力が必要なんだって」
授業が終わって帰ろうとする私を強引に引き止め、とにかく来てという文句で私を引っ張り、さらには廊下に立っていた乾くんを有無を言わさず捕まえた亜矢子。なんだか嫌な予感がしつつも、彼女の勢いに飲まれる形で私と乾くんはここまでついてきてしまった。
「えーと。ここってあれでしょ。朝言ってたトイレの怪で噂の場所だよね。そこで、なんで私と乾くんの協力が必要なわけ?」
「あたしが知ってる限り、うちの学年で部活に入ってなくって暇そうにしてるのって、結月と乾くんくらいなんだよね。そしてわが新聞部が廃部寸前のピンチだということはすでにわかっていると思うんだけど」
確かに私と乾くんは帰宅部で、亜矢子の新聞部は先日受験のために三年生が部活をやめた影響で、現在部員が亜矢子一人となってしまい、もはや存続の危機が危ぶまれているということも知っている。だがしかし、それと今のこの状況と、いったいなんの関係があるというのだろう。
「ううん。まだ意味がよくわからないんだけど。私と乾くんがどうしてここに連れてこられているわけだ?」
「実はな。先日顧問の先生にあたしは宣告されたのだ。一週間以内に新しい部員を最低二人は連れてこなければ、新聞部は廃部だと。さらに、こう釘を刺された。形だけの幽霊部員じゃ駄目。ちゃんと部活動として認められる活動をしている証拠も持ってこいと」
「え……。それってつまり……」
亜矢子は両手を合わせ、懇願のポーズで私と乾くんに迫った。
「お願いだ! 二人とも! どうか新聞部に入部して、私と一緒に新聞記事作るのに協力してくれ!」
私は必死な亜矢子にどう答えていいのか困り、隣に立っていた乾くんに視線をやる。すると、乾くんもまたこちらを見て、困ったように頭を掻いていた。
「絶対廃部にはしたくないんだよ~。一生のお願いだから~」
「うーん」
私は困って腕を組む。親友の亜矢子の一生の頼みとあっては無下に断るのもためらわれる。とはいえ、私が帰宅部でいることは、重要な理由があってのことなのだ。それはつまり、夕方過ぎてから多発する妖怪との遭遇に対する自己防衛になるわけなのだが。
そう考え、先日の河童と皿かぞえの一件を思い出し、再びちらりと隣の乾刀馬の顔を見やった。涼しげな顔で佇む彼は、今は天井のほうを見つめながら物思いに耽っているようだった。
あのとき彼は、なぜ私を助けてくれたのか。
何度か彼にそのことを尋ねようと隣のクラスに足を運んだりしていたのだが、なぜかいつもどこかに行ってしまっていなかったり、すれ違いでいなくなったりして会えないままだった。この前など、あからさまに私の姿を見て、距離を取られてしまい、軽くショックを受けたりもした。
どうやら私は彼に避けられている。なにか嫌われるようなことでもしたのだろうかと考えるが、そもそもあの一件こそが謎なだけで、特別今まで彼と親しくしていたことなどなかったことを思い出す。
結局、謎は謎のまま、彼と話をすることができないまま今現在に至っていた。
ミステリアスな男だ。
そんな感想を抱きながら、今はそれよりも目の前の問題を考えなくてはいけないことを思い出した。
「あのね。亜矢子」
亜矢子には悪いけれど、私も部活で帰り時間を遅くするわけにはいかないのだ。ここは心を鬼にして、彼女の頼みを断らなくては。
そう言おうと思ったときだった。
『いいのではないか? このものの頼み、聞き入れても』
(え?)
驚いて振り返ると、そこには胡坐をかいた態勢で面白そうにこちらを見つめるおきつねさまがいた。
『おぬしが心配しているのは、夕刻過ぎてから多く出没する妖怪のことであろう? そんなもの、この儂が一緒にいれば蹴散らしてやれるのじゃ。先程から聞いておれば、このものは随分その新聞部とやらに思い入れを持っておる様子。おぬしも妖怪のことがなければ、このものの頼みを聞き入れたいと思っておるのじゃろう?』
(そ、それはそうだけど……)
『それなら断る道理はない。一生の願いとまで言うておるのじゃ。つきあってやるのがおぬしら人間の言うところの人情というものであろう』
おきつねさまの言葉が、ぐさりと胸に刺さった。
私は親友のここまでの必死な頼みに対し、簡単に断ろうと考えていた。後ろめたい思いを持ちながらも、妖怪のことで長年悩まされてきたことを思うと、聞き入れるのは無理だと思った。
けれど、言われてみればおきつねさまの言う通りだ。
妖怪のことも、おきつねさまがいてくれれば今までよりも安心していられるし、なにより、親友が大切に思っている新聞部の危機なのだ。それを助けてあげないで、どうして親友なんて言える?
「結月?」
突然背後を振り返り、考え込んでいた私に、怪訝そうに声をかける亜矢子。そんな彼女に、私はわざとらしいほどの笑顔を向けて言った。
「わかった。新聞部存続のため、この私が協力してあげようじゃない」
それを聞いた亜矢子は、みるみるうちに表情を明るくしていったのである。
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