おきつねさまと私の奇妙な生活

美汐

文字の大きさ
上 下
17 / 55
第三話 旧校舎トイレの怪

旧校舎トイレの怪2

しおりを挟む
「旧校舎のトイレに落ち武者が現れた?」

 一時間目が終わり、次の授業までの短い休み時間に再び亜矢子が近くまでやってきて今朝の話の続きをし始めた。

「そ。なんか先週末くらいからそんな噂が飛び交っててさ。何人かの生徒が見たらしいんだよ」

「トイレの中で? マジで?」

「そう。しかも首と胴体が離れてるらしい」

 うげ。

「トイレの花子さんならぬトイレの落ち武者。面白くない? 学校の怪談って感じで」

「あれ、でもこの学校、その手の学校の七不思議ってあったよね。それだとトイレの怪談は花子さんだけだったような」

「そう! トイレの花子さんの噂も最近再燃してるんだよ。落ち武者を見たという噂とともに、見知らぬ女の子の姿を見たとかいうのも噂になっててさ。もともとあった花子さんの噂とトイレの落ち武者の噂。どういうことだかわからないけど、これはスクープだよ!」

 そう言って亜矢子は目をキラキラと輝かせる。
 彼女はこの手の話が結構好きで、ホラー映画とかも一人で観に行ってしまうほどの変わり者なのである。そのうえ超がつくほどの噂好き。よく考えると、私はとんでもない変人を友人に持ってしまったのかもしれない。そんなことを私が考えているのを知ってか知らずか、亜矢子は話を続ける。

「果たしてこの落ち武者は、どんな恨みを持ってこの学校に現れるようになったのか。そして花子さんは本当にいるのか。これは調査する必要があるとあたしは思うわけだ」

 ちろりと視線を私に合わせる亜矢子は、なんだかとても楽しそうである。

「ちょ、ちょっとー。やめてよ。そういうの! 私はホラーとかそういう話興味ないんだからっ。どちらかといえば苦手なほうなんだから!」

「え? またまたぁ。結月、よく変なものが見えるっていうじゃないか。絶対霊感あると思うんだけど」

「違うっ。それは……!」

 妖怪、と言いそうになり、慌てて言葉を飲み込む。妖怪が見えるなんて、幽霊が見えるよりも変じゃないか。だいたい、幽霊もある意味妖怪の類に入るとも言えるし、こんなことを言ったら、この怪奇好きで噂好きの亜矢子がどう反応するか。
 下手をすれば、変人というレッテルを貼られるのは私のほうになってしまうに違いない。

「なになに? 続きは?」

 なにやら意味深な目つきをする亜矢子だったが、その手には乗るものか。

「なんでもない! それより次の授業始まるよ」

 タイミングよく(?)、二時間目の授業が始まるチャイムが教室に鳴り響いた。亜矢子はまだなにか言いたそうにしていたが、仕方なく自分の席に戻っていった。
 私はほっとして、前を向いた。
 絶対あやつには妖怪の話はするものか。
 ましてや三千年も生きた狐の大妖怪が取り憑いているなんて、口が裂けても言えない。
 そう思いながらふと窓の外に目をやると、私はぎょっとして口から心臓が飛び出そうになった。

 そこにいたのは、他でもないその狐の大妖怪、おきつねさま。
 二階にあるはずの教室の外を、ぷかぷかと宙に浮きながら寝転んでいる。

(おきつねさま!? なにやってるのよー!)

 口から叫びそうになるのを必死で堪えて心で叫びをあげると、おきつねさまはこちらに視線を寄こした。そして、次の瞬間、またしても驚くべきことがおきた。

『おお。結月。儂もお前の通う学校とやらを見てみたくてちょいと見に来てみたぞ』

(――――ッ!!)

 びっくりして、心の中で絶句する。なに、今の?

『ん? これか。儂の神通力で精神同士の対話をしておるのじゃ。これなら口で話さずとも会話ができる』

(精神同士? テレパシーみたいなもの?)

『てれぱし?』

(うん、まあ、とにかくわかった。確かに人前でおきつねさまと会話なんてしてたら変な目で見られるに決まってるから、こっちのが助かるよ。これからも人がいるところではこの会話方法でお願いします)

『ふむ。それは構わぬが』

 そう言っておきつねさまは、なにやら楽しげに教室内の様子を眺めた。

『ふうん。これが結月の過ごす学校の教室というところか』

(そうだよ。これから授業始まるからもう邪魔しないでよ)

 そうこうしている間に、二時間目の日本史の授業はすでに始まっていた。他の生徒たちは
窓の外に狐の妖怪がいることになど気付かず、いつものようにおのおの授業を受けていた。
 私はといえば、窓の外にいる白狐がいつ変なことをしでかさないかと心配で、ちっとも授業に身が入らなかったのだった。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~

恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」 そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。 私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。 葵は私のことを本当はどう思ってるの? 私は葵のことをどう思ってるの? 意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。 こうなったら確かめなくちゃ! 葵の気持ちも、自分の気持ちも! だけど甘い誘惑が多すぎて―― ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

【完結】おれたちはサクラ色の青春

藤香いつき
キャラ文芸
国内一のエリート高校、桜統学園。その中でもトップクラスと呼ばれる『Bクラス』に、この春から転入した『ヒナ』。見た目も心も高2男子? 『おれは、この学園で青春する!』 新しい環境に飛び込んだヒナを待ち受けていたのは、天才教師と問題だらけのクラスメイトたち。 騒いだり、涙したり。それぞれの弱さや小さな秘密も抱えて。 桜統学園で繰り広げられる、青い高校生たちのお話。 《青春小説×ボカロPカップ8位》 応援ありがとうございました。

奇妙な日常

廣瀬純一
大衆娯楽
新婚夫婦の体が入れ替わる話

処理中です...