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第三話 旧校舎トイレの怪
旧校舎トイレの怪2
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「旧校舎のトイレに落ち武者が現れた?」
一時間目が終わり、次の授業までの短い休み時間に再び亜矢子が近くまでやってきて今朝の話の続きをし始めた。
「そ。なんか先週末くらいからそんな噂が飛び交っててさ。何人かの生徒が見たらしいんだよ」
「トイレの中で? マジで?」
「そう。しかも首と胴体が離れてるらしい」
うげ。
「トイレの花子さんならぬトイレの落ち武者。面白くない? 学校の怪談って感じで」
「あれ、でもこの学校、その手の学校の七不思議ってあったよね。それだとトイレの怪談は花子さんだけだったような」
「そう! トイレの花子さんの噂も最近再燃してるんだよ。落ち武者を見たという噂とともに、見知らぬ女の子の姿を見たとかいうのも噂になっててさ。もともとあった花子さんの噂とトイレの落ち武者の噂。どういうことだかわからないけど、これはスクープだよ!」
そう言って亜矢子は目をキラキラと輝かせる。
彼女はこの手の話が結構好きで、ホラー映画とかも一人で観に行ってしまうほどの変わり者なのである。そのうえ超がつくほどの噂好き。よく考えると、私はとんでもない変人を友人に持ってしまったのかもしれない。そんなことを私が考えているのを知ってか知らずか、亜矢子は話を続ける。
「果たしてこの落ち武者は、どんな恨みを持ってこの学校に現れるようになったのか。そして花子さんは本当にいるのか。これは調査する必要があるとあたしは思うわけだ」
ちろりと視線を私に合わせる亜矢子は、なんだかとても楽しそうである。
「ちょ、ちょっとー。やめてよ。そういうの! 私はホラーとかそういう話興味ないんだからっ。どちらかといえば苦手なほうなんだから!」
「え? またまたぁ。結月、よく変なものが見えるっていうじゃないか。絶対霊感あると思うんだけど」
「違うっ。それは……!」
妖怪、と言いそうになり、慌てて言葉を飲み込む。妖怪が見えるなんて、幽霊が見えるよりも変じゃないか。だいたい、幽霊もある意味妖怪の類に入るとも言えるし、こんなことを言ったら、この怪奇好きで噂好きの亜矢子がどう反応するか。
下手をすれば、変人というレッテルを貼られるのは私のほうになってしまうに違いない。
「なになに? 続きは?」
なにやら意味深な目つきをする亜矢子だったが、その手には乗るものか。
「なんでもない! それより次の授業始まるよ」
タイミングよく(?)、二時間目の授業が始まるチャイムが教室に鳴り響いた。亜矢子はまだなにか言いたそうにしていたが、仕方なく自分の席に戻っていった。
私はほっとして、前を向いた。
絶対あやつには妖怪の話はするものか。
ましてや三千年も生きた狐の大妖怪が取り憑いているなんて、口が裂けても言えない。
そう思いながらふと窓の外に目をやると、私はぎょっとして口から心臓が飛び出そうになった。
そこにいたのは、他でもないその狐の大妖怪、おきつねさま。
二階にあるはずの教室の外を、ぷかぷかと宙に浮きながら寝転んでいる。
(おきつねさま!? なにやってるのよー!)
口から叫びそうになるのを必死で堪えて心で叫びをあげると、おきつねさまはこちらに視線を寄こした。そして、次の瞬間、またしても驚くべきことがおきた。
『おお。結月。儂もお前の通う学校とやらを見てみたくてちょいと見に来てみたぞ』
(――――ッ!!)
びっくりして、心の中で絶句する。なに、今の?
『ん? これか。儂の神通力で精神同士の対話をしておるのじゃ。これなら口で話さずとも会話ができる』
(精神同士? テレパシーみたいなもの?)
『てれぱし?』
(うん、まあ、とにかくわかった。確かに人前でおきつねさまと会話なんてしてたら変な目で見られるに決まってるから、こっちのが助かるよ。これからも人がいるところではこの会話方法でお願いします)
『ふむ。それは構わぬが』
そう言っておきつねさまは、なにやら楽しげに教室内の様子を眺めた。
『ふうん。これが結月の過ごす学校の教室というところか』
(そうだよ。これから授業始まるからもう邪魔しないでよ)
そうこうしている間に、二時間目の日本史の授業はすでに始まっていた。他の生徒たちは
窓の外に狐の妖怪がいることになど気付かず、いつものようにおのおの授業を受けていた。
私はといえば、窓の外にいる白狐がいつ変なことをしでかさないかと心配で、ちっとも授業に身が入らなかったのだった。
一時間目が終わり、次の授業までの短い休み時間に再び亜矢子が近くまでやってきて今朝の話の続きをし始めた。
「そ。なんか先週末くらいからそんな噂が飛び交っててさ。何人かの生徒が見たらしいんだよ」
「トイレの中で? マジで?」
「そう。しかも首と胴体が離れてるらしい」
うげ。
「トイレの花子さんならぬトイレの落ち武者。面白くない? 学校の怪談って感じで」
「あれ、でもこの学校、その手の学校の七不思議ってあったよね。それだとトイレの怪談は花子さんだけだったような」
「そう! トイレの花子さんの噂も最近再燃してるんだよ。落ち武者を見たという噂とともに、見知らぬ女の子の姿を見たとかいうのも噂になっててさ。もともとあった花子さんの噂とトイレの落ち武者の噂。どういうことだかわからないけど、これはスクープだよ!」
そう言って亜矢子は目をキラキラと輝かせる。
彼女はこの手の話が結構好きで、ホラー映画とかも一人で観に行ってしまうほどの変わり者なのである。そのうえ超がつくほどの噂好き。よく考えると、私はとんでもない変人を友人に持ってしまったのかもしれない。そんなことを私が考えているのを知ってか知らずか、亜矢子は話を続ける。
「果たしてこの落ち武者は、どんな恨みを持ってこの学校に現れるようになったのか。そして花子さんは本当にいるのか。これは調査する必要があるとあたしは思うわけだ」
ちろりと視線を私に合わせる亜矢子は、なんだかとても楽しそうである。
「ちょ、ちょっとー。やめてよ。そういうの! 私はホラーとかそういう話興味ないんだからっ。どちらかといえば苦手なほうなんだから!」
「え? またまたぁ。結月、よく変なものが見えるっていうじゃないか。絶対霊感あると思うんだけど」
「違うっ。それは……!」
妖怪、と言いそうになり、慌てて言葉を飲み込む。妖怪が見えるなんて、幽霊が見えるよりも変じゃないか。だいたい、幽霊もある意味妖怪の類に入るとも言えるし、こんなことを言ったら、この怪奇好きで噂好きの亜矢子がどう反応するか。
下手をすれば、変人というレッテルを貼られるのは私のほうになってしまうに違いない。
「なになに? 続きは?」
なにやら意味深な目つきをする亜矢子だったが、その手には乗るものか。
「なんでもない! それより次の授業始まるよ」
タイミングよく(?)、二時間目の授業が始まるチャイムが教室に鳴り響いた。亜矢子はまだなにか言いたそうにしていたが、仕方なく自分の席に戻っていった。
私はほっとして、前を向いた。
絶対あやつには妖怪の話はするものか。
ましてや三千年も生きた狐の大妖怪が取り憑いているなんて、口が裂けても言えない。
そう思いながらふと窓の外に目をやると、私はぎょっとして口から心臓が飛び出そうになった。
そこにいたのは、他でもないその狐の大妖怪、おきつねさま。
二階にあるはずの教室の外を、ぷかぷかと宙に浮きながら寝転んでいる。
(おきつねさま!? なにやってるのよー!)
口から叫びそうになるのを必死で堪えて心で叫びをあげると、おきつねさまはこちらに視線を寄こした。そして、次の瞬間、またしても驚くべきことがおきた。
『おお。結月。儂もお前の通う学校とやらを見てみたくてちょいと見に来てみたぞ』
(――――ッ!!)
びっくりして、心の中で絶句する。なに、今の?
『ん? これか。儂の神通力で精神同士の対話をしておるのじゃ。これなら口で話さずとも会話ができる』
(精神同士? テレパシーみたいなもの?)
『てれぱし?』
(うん、まあ、とにかくわかった。確かに人前でおきつねさまと会話なんてしてたら変な目で見られるに決まってるから、こっちのが助かるよ。これからも人がいるところではこの会話方法でお願いします)
『ふむ。それは構わぬが』
そう言っておきつねさまは、なにやら楽しげに教室内の様子を眺めた。
『ふうん。これが結月の過ごす学校の教室というところか』
(そうだよ。これから授業始まるからもう邪魔しないでよ)
そうこうしている間に、二時間目の日本史の授業はすでに始まっていた。他の生徒たちは
窓の外に狐の妖怪がいることになど気付かず、いつものようにおのおの授業を受けていた。
私はといえば、窓の外にいる白狐がいつ変なことをしでかさないかと心配で、ちっとも授業に身が入らなかったのだった。
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