15 / 55
第二話 河童の落とし物
河童の落とし物8
しおりを挟む
「ありがとうなぁ~。これでおいら、力が取り戻せたよ」
皿かぞえの井戸を後にして、元の川沿いに戻った私たちは、河童に皿かぞえから返してもらった皿を渡した。河童は自分の頭に皿を乗せると、見るからに元気になっていった。その場でぴょんぴょんと飛び跳ねている様子は、そこらの子供が喜んでいるのと同じに見える。
「しかし、そんな大事なものをなくすほうもなくすほうじゃな。拾った相手がいつも善人であるとは限らないということを今後は胆に刻んでおくのじゃ」
おきつねさまにぴしりと言われ、飛び跳ねていた河童は申し訳なさげに頭を下げる。
「はい、空孤様! おいらこれから気を付けます」
「うむ」
河童を見下ろすおきつねさまは、白い水干の袖を揺らしながら鷹揚にうなずく。
「とりあえず、お菊さんもこれからおとなしく井戸で反省して過ごすみたいだし、まあ河童くんもこうして自分のお皿を取り戻せたわけだから、これで万事解決したってことでいいよね? もう妖怪同士でトラブルとかおこさないでよ!」
私が念を押すと、ドジな河童はへらりと笑ってこちらに向けてもぺこぺこと頭を下げた。
「わかりやした~。人間のお嬢さん。もうこれからは頭の皿を落っことしたりしないよう気を付けますよ~」
なんだか心配ではあるが、ここは本人(?)の言葉を信じておくことにしよう。
「それにしても、乾くん、大丈夫だったのかな?」
あれから乾刀馬は、しばらく休んで体力が回復したのか、けろりとした様子でここまでのなりゆきを見守っていた。しかし、事態がこのまま丸く収まりそうなのを見届けると、私が引き止める間もなくその場から去っていってしまったのである。
皿かぞえとのやりとりのせいで彼と話をしそびれてしまったが、彼のことに関してはいろいろと聞かなくてはならないと思う。
「もう、ちゃんと説明してから帰ってくれてもいいのに」
口べたなのか説明が面倒なのか、はたまた違う理由からか知らないが、前々から彼のことでは気になることがあったのだ。そして、今回、私の危機を彼は助けてくれた。あの日本刀のことといい、今度会ったときは、どういうことなのかきちんと彼の口から話してもらう必要がある。
「それに、お礼もちゃんと言ってなかったはず」
とはいえ、男の子にどんなお礼をすればいいのか。
「お礼? 儂にか? そうじゃそうじゃ。忘れてはおらぬぞ! 儂の好物をたんと用意すると、おぬし言っておったじゃろう。早う用意せよ!」
「え? ああ、そういえばそんなこと言ってたっけ。そうだね。おきつねさまにも助けてもらったからなぁ。あ、でもそっか。好物を食べさせてあげるっていうの、いいかも」
私は一人納得すると、自転車に跨り、夕方のスーパーへ向けて走り出した。
「いいか。お揚げと稲荷寿司と両方じゃからな。ちゃんと吟味していいものを献上するのじゃぞ!」
「はいはい」
私は上空を飛ぶおきつねさまを引き連れて、随分遅くなってしまったおつかいに向かったのだった。
<第二話 終わり>
皿かぞえの井戸を後にして、元の川沿いに戻った私たちは、河童に皿かぞえから返してもらった皿を渡した。河童は自分の頭に皿を乗せると、見るからに元気になっていった。その場でぴょんぴょんと飛び跳ねている様子は、そこらの子供が喜んでいるのと同じに見える。
「しかし、そんな大事なものをなくすほうもなくすほうじゃな。拾った相手がいつも善人であるとは限らないということを今後は胆に刻んでおくのじゃ」
おきつねさまにぴしりと言われ、飛び跳ねていた河童は申し訳なさげに頭を下げる。
「はい、空孤様! おいらこれから気を付けます」
「うむ」
河童を見下ろすおきつねさまは、白い水干の袖を揺らしながら鷹揚にうなずく。
「とりあえず、お菊さんもこれからおとなしく井戸で反省して過ごすみたいだし、まあ河童くんもこうして自分のお皿を取り戻せたわけだから、これで万事解決したってことでいいよね? もう妖怪同士でトラブルとかおこさないでよ!」
私が念を押すと、ドジな河童はへらりと笑ってこちらに向けてもぺこぺこと頭を下げた。
「わかりやした~。人間のお嬢さん。もうこれからは頭の皿を落っことしたりしないよう気を付けますよ~」
なんだか心配ではあるが、ここは本人(?)の言葉を信じておくことにしよう。
「それにしても、乾くん、大丈夫だったのかな?」
あれから乾刀馬は、しばらく休んで体力が回復したのか、けろりとした様子でここまでのなりゆきを見守っていた。しかし、事態がこのまま丸く収まりそうなのを見届けると、私が引き止める間もなくその場から去っていってしまったのである。
皿かぞえとのやりとりのせいで彼と話をしそびれてしまったが、彼のことに関してはいろいろと聞かなくてはならないと思う。
「もう、ちゃんと説明してから帰ってくれてもいいのに」
口べたなのか説明が面倒なのか、はたまた違う理由からか知らないが、前々から彼のことでは気になることがあったのだ。そして、今回、私の危機を彼は助けてくれた。あの日本刀のことといい、今度会ったときは、どういうことなのかきちんと彼の口から話してもらう必要がある。
「それに、お礼もちゃんと言ってなかったはず」
とはいえ、男の子にどんなお礼をすればいいのか。
「お礼? 儂にか? そうじゃそうじゃ。忘れてはおらぬぞ! 儂の好物をたんと用意すると、おぬし言っておったじゃろう。早う用意せよ!」
「え? ああ、そういえばそんなこと言ってたっけ。そうだね。おきつねさまにも助けてもらったからなぁ。あ、でもそっか。好物を食べさせてあげるっていうの、いいかも」
私は一人納得すると、自転車に跨り、夕方のスーパーへ向けて走り出した。
「いいか。お揚げと稲荷寿司と両方じゃからな。ちゃんと吟味していいものを献上するのじゃぞ!」
「はいはい」
私は上空を飛ぶおきつねさまを引き連れて、随分遅くなってしまったおつかいに向かったのだった。
<第二話 終わり>
0
お気に入りに追加
22
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
天鬼ざくろのフリースタイル
ふみのあや
キャラ文芸
かつてディスで一世を風靡した元ラッパーの独身教師、小鳥遊空。
ヒップホップと決別してしまったその男がディスをこよなく愛するJKラッパー天鬼ざくろと出会った時、止まっていたビートが彼の人生に再び鳴り響き始めた──。
※カクヨムの方に新キャラと設定を追加して微調整した加筆修正版を掲載しています。
もし宜しければそちらも是非。
学園戦記三国志~リュービ、二人の美少女と義兄妹の契りを結び、学園において英雄にならんとす 正史風味~
トベ・イツキ
キャラ文芸
三国志×学園群像劇!
平凡な少年・リュービは高校に入学する。
彼が入学したのは、一万人もの生徒が通うマンモス校・後漢学園。そして、その生徒会長は絶大な権力を持つという。
しかし、平凡な高校生・リュービには生徒会なんて無縁な話。そう思っていたはずが、ひょんなことから黒髪ロングの清楚系な美女とお団子ヘアーのお転婆な美少女の二人に助けられ、さらには二人が自分の妹になったことから運命は大きく動き出す。
妹になった二人の美少女の後押しを受け、リュービは謀略渦巻く生徒会の選挙戦に巻き込まれていくのであった。
学園を舞台に繰り広げられる新三国志物語ここに開幕!
このお話は、三国志を知らない人も楽しめる。三国志を知ってる人はより楽しめる。そんな作品を目指して書いてます。
今後の予定
第一章 黄巾の乱編
第二章 反トータク連合編
第三章 群雄割拠編
第四章 カント決戦編
第五章 赤壁大戦編
第六章 西校舎攻略編←今ココ
第七章 リュービ会長編
第八章 最終章
作者のtwitterアカウント↓
https://twitter.com/tobeitsuki?t=CzwbDeLBG4X83qNO3Zbijg&s=09
※このお話は2019年7月8日にサービスを終了したラノゲツクールに同タイトルで掲載していたものを小説版に書き直したものです。
※この作品は小説家になろう・カクヨムにも公開しています。
失恋少女と狐の見廻り
紺乃未色(こんのみいろ)
キャラ文芸
失恋中の高校生、彩羽(いろは)の前にあらわれたのは、神の遣いである「千影之狐(ちかげのきつね)」だった。「協力すれば恋の願いを神へ届ける」という約束のもと、彩羽はとある旅館にスタッフとして潜り込み、「魂を盗る、人ならざる者」の調査を手伝うことに。
人生初のアルバイトにあたふたしながらも、奮闘する彩羽。そんな彼女に対して「面白い」と興味を抱く千影之狐。
一人と一匹は無事に奇妙な事件を解決できるのか?
不可思議でどこか妖しい「失恋からはじまる和風ファンタジー」
シャ・ベ クル
うてな
キャラ文芸
これは昭和後期を舞台にしたフィクション。
異端な五人が織り成す、依頼サークルの物語…
夢を追う若者達が集う学園『夢の島学園』。その学園に通う学園主席のロディオン。彼は人々の幸福の為に、悩みや依頼を承るサークル『シャ・ベ クル』を結成する。受ける依頼はボランティアから、大事件まで…!?
主席、神様、お坊ちゃん、シスター、893?
部員の成長を描いたコメディタッチの物語。
シャ・ベ クルは、あなたの幸せを応援します。
※※※
この作品は、毎週月~金の17時に投稿されます。
2023年05月01日 一章『人間ドール開放編』
~2023年06月27日
二章 … 未定
クラスメイトの美少女と無人島に流された件
桜井正宗
青春
修学旅行で離島へ向かう最中――悪天候に見舞われ、台風が直撃。船が沈没した。
高校二年の早坂 啓(はやさか てつ)は、気づくと砂浜で寝ていた。周囲を見渡すとクラスメイトで美少女の天音 愛(あまね まな)が隣に倒れていた。
どうやら、漂流して流されていたようだった。
帰ろうにも島は『無人島』。
しばらくは島で生きていくしかなくなった。天音と共に無人島サバイバルをしていくのだが……クラスの女子が次々に見つかり、やがてハーレムに。
男一人と女子十五人で……取り合いに発展!?
呂色高校対ゾン部!
益巣ハリ
キャラ文芸
この物語の主人公、風綿絹人は平凡な高校生。だが彼の片思いの相手、梔倉天は何もかも異次元なチート美少女だ。ある日2人は高校で、顔を失くした化け物たちに襲われる。逃げる2人の前に国語教師が現れ、告げる。「あいつらは、ゾンビだ」
その日から絹人の日常は一変する。実は中二病すぎる梔倉、多重人格メルヘン少女、ストーカー美少女に謎のおっさんまで、ありとあらゆる奇人変人が絹人の常識をぶち壊していく。
常識外れ、なんでもありの異能力バトル、ここに開幕!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる