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第二話 河童の落とし物

河童の落とし物8

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「ありがとうなぁ~。これでおいら、力が取り戻せたよ」

 皿かぞえの井戸を後にして、元の川沿いに戻った私たちは、河童に皿かぞえから返してもらった皿を渡した。河童は自分の頭に皿を乗せると、見るからに元気になっていった。その場でぴょんぴょんと飛び跳ねている様子は、そこらの子供が喜んでいるのと同じに見える。

「しかし、そんな大事なものをなくすほうもなくすほうじゃな。拾った相手がいつも善人であるとは限らないということを今後は胆に刻んでおくのじゃ」

 おきつねさまにぴしりと言われ、飛び跳ねていた河童は申し訳なさげに頭を下げる。

「はい、空孤様! おいらこれから気を付けます」

「うむ」

 河童を見下ろすおきつねさまは、白い水干の袖を揺らしながら鷹揚にうなずく。

「とりあえず、お菊さんもこれからおとなしく井戸で反省して過ごすみたいだし、まあ河童くんもこうして自分のお皿を取り戻せたわけだから、これで万事解決したってことでいいよね? もう妖怪同士でトラブルとかおこさないでよ!」

 私が念を押すと、ドジな河童はへらりと笑ってこちらに向けてもぺこぺこと頭を下げた。

「わかりやした~。人間のお嬢さん。もうこれからは頭の皿を落っことしたりしないよう気を付けますよ~」

 なんだか心配ではあるが、ここは本人(?)の言葉を信じておくことにしよう。

「それにしても、乾くん、大丈夫だったのかな?」

 あれから乾刀馬は、しばらく休んで体力が回復したのか、けろりとした様子でここまでのなりゆきを見守っていた。しかし、事態がこのまま丸く収まりそうなのを見届けると、私が引き止める間もなくその場から去っていってしまったのである。
 皿かぞえとのやりとりのせいで彼と話をしそびれてしまったが、彼のことに関してはいろいろと聞かなくてはならないと思う。

「もう、ちゃんと説明してから帰ってくれてもいいのに」

 口べたなのか説明が面倒なのか、はたまた違う理由からか知らないが、前々から彼のことでは気になることがあったのだ。そして、今回、私の危機を彼は助けてくれた。あの日本刀のことといい、今度会ったときは、どういうことなのかきちんと彼の口から話してもらう必要がある。

「それに、お礼もちゃんと言ってなかったはず」

 とはいえ、男の子にどんなお礼をすればいいのか。

「お礼? 儂にか? そうじゃそうじゃ。忘れてはおらぬぞ! 儂の好物をたんと用意すると、おぬし言っておったじゃろう。早う用意せよ!」

「え? ああ、そういえばそんなこと言ってたっけ。そうだね。おきつねさまにも助けてもらったからなぁ。あ、でもそっか。好物を食べさせてあげるっていうの、いいかも」

 私は一人納得すると、自転車に跨り、夕方のスーパーへ向けて走り出した。

「いいか。お揚げと稲荷寿司と両方じゃからな。ちゃんと吟味していいものを献上するのじゃぞ!」

「はいはい」

 私は上空を飛ぶおきつねさまを引き連れて、随分遅くなってしまったおつかいに向かったのだった。

<第二話 終わり>
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