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Chapter.6 夏休みの始まり
7 カラオケ
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店を出ると、灼熱の太陽がすぐに照りつけてきた。
「うわ、あっつー」
あまりの暑さに、相田はすぐに顔をしかめた。
「ねえ。これからどうしよう。せっかくみんな集まったんだし、どっか行かない?」
沙耶ちゃんがそう提案してきた。
「そうだね。どこがいいだろう」
「カラオケ! カラオケ行こう! 歌いたいのあるんだ」
「あ、いいね。そうしよ! 小太郎ちゃんと美周くんもそれでいいかな?」
僕と美周に異存はなかった。行く場所はすぐに決まり、僕たちはカラオケ店へと足を向けた。
駅裏から少し行ったところに、そのカラオケ店はあった。店内に入ると、思っていた以上に内装が豪華で少し驚いた。フロントのあるロビーは吹き抜けになっていて、天井からはシャンデリアが吊されていた。階段の手すりも、お城をイメージしているのか、凝った装飾が施してある。女子たちが勝手に店員と応対し、二階にあるらしい部屋へとあがっていった。僕や美周はそれに付き従うといった感じだ。
僕たちは、二階にある個室のひとつに入っていった。部屋の中は思ったより広かった。大きなテレビや最新のカラオケ機器。なんだか不思議な世界にきたような錯覚を起こしそうだった。
「小太郎ちゃん、さっきからなにきょろきょろしてるの?」
「え? ああ、いや。カラオケの店に来るのって初めてだから」
僕がそう言うと、いきなり相田が爆笑した。
「なにー。じゃあ、今日がカラオケデビューなんだ?」
「わ、笑うなよ。いいだろ別に」
「ごめんごめん。笑ったことは謝るよ。でもいいじゃん。篠宮のそーゆーすれてないとこが逆に好感度アップというか」
そんなものなのだろうか。逆にっていうのがちょっと引っかかるが。
女子たちはさっそくメニューを広げ、飲み物や食べ物の相談を始めた。美周は部屋の隅のほうで機械をいじくっている。
「美周も来たことあるのか? こういうとこ」
少し気になって訊いてみた。カラオケ店に一度も来たことがない高校生というのは、やはり珍しいものなのだろうか。
「いいや。僕も今日が初めてだ」
美周は顔色ひとつ変えずに、そう言った。視線は先程からカラオケの端末と思しきものから離さず、真剣そうだ。「なるほど、これがこうで、こういうふうになるわけか」などとぶつぶつとつぶやいている。
なんだ。ここにも一人いるじゃないか。
相田は手慣れた感じで入ってきたドアの横についている受話器を手に取り、飲み物などをオーダーしていった。
「さー、じゃんじゃん歌うぞー。あんたたちも知ってる曲入れて入れて! どんどん曲入れ
てかないと、あたしの歌ばっかになっちゃうからな」
なんだかよくわからないが、沙耶ちゃんに教えてもらいながら、分厚い本をめくって自分でも歌えそうな曲を探してみる。相田は慣れたもので、端末から直接曲を入れていっていた。
二曲続けて入っていたのは、相田の入れた曲だった。相田はマイクを手にして立ちあがり、これでもかというくらいに熱唱した。歌う気満々だっただけあって、なかなかうまいものだった。
僕と沙耶ちゃんは手拍子をして盛りあげる。ああ、なんだかカラオケって感じがしてきたぞ。
続いて入ってきたのは沙耶ちゃんの曲だ。ちょっと前にはやっていた歌で、CMでも聞いたことがある。曲に乗って流れてきた沙耶ちゃんの歌声は、透明で心地がよかった。いつまででも聴いていたい。そんな響きだった。
沙耶ちゃんの歌が終わり、僕は拍手喝采した。カラオケサイコー!
「はー。なんかみんなの前で歌うのって緊張するね。なんかうまく歌えなかった」
「そんなことないよ。すごく上手だったよ」
「次誰? この曲入れたの」
「あ。それ僕だ」
僕がそう言うと、マイクを手渡された。うまく歌えるか心配ではあったが、とにかく歌ってみよう。
曲は、二年くらい前にはやっていた曲だ。好きで以前はよく聞いていたから、たぶんこれなら歌えるはずだ。前奏が終わり、歌が始まった。
歌ってみると、思ったより気持ちがよかった。喉の奥を開いて、思い切り声を出す。こんなふうに歌を歌うのは、初めてだった。声をマイクにぶつけていくと、胸の奥に溜まっていたなにかがはき出されて、消えていくようだった。
歌い終わり、ほっと息をつく。なるほど、カラオケがストレス解消にもなるというのは、少しだけわかるような気がした。
しかし周りの面々を見ると、なぜかみなぽかんとした様子で僕の顔を見つめていた。
え? なにか僕はやらかしてしまったのだろうか。
「篠宮!」
「こ、小太郎ちゃんっ」
「は、はいっ」
なんなんだ。この反応。なにがいけなかったのだろう。
「サイコー!」
「超うまいよ! わたし聴き惚れちゃった」
女子二人がキャーキャー言って喜んでいる。な、なんだ。そうだったのか。
ほっとして息をついていると、なんだか聴いたことのある音楽が流れてきた。
「え? なにこれ。誰、入れたの」
「僕だ」
美周がそう言って立ちあがった。曲は『アンパンマンのマーチ』。
お世辞にもうまいとも言えない歌いかたで、美周が歌いだした。なんだなんだなんなんだ。それは狙ってやっているのか。それとも天然なのか。おもしろすぎるだろ!
案の定、相田は腹を抱えて笑っている。沙耶ちゃんもくすくすと笑いを噛み殺していた。
その後も美周の選曲は、『サザエさん』、『水戸黄門』や童謡など、独特なものばかりだった。しかも直立不動の妙な歌い方で。
頼む。これ以上は腹がよじれて死ぬからやめてくれ。
「もー駄目ー! 笑い死ぬー」
相田は身もだえして、笑い苦しんでいた。
そのうち誰かがドアをノックした。もう時間になったのだろうか?
「ちーす。来たよ」
「お! やってるね!」
現れたのは小林と幸彦だった。
「あ、あたしが呼んだんだ。せっかくだからみんなで楽しく盛りあがろうぜ!」
相田がそう言って、二人を招き入れると、部屋の中が一層賑やかになった。
「さっそく俺様の美声を聴かせてあげちゃいましょうかね」
幸彦は端末に手を伸ばし、すぐに曲を入れ始めた。
「夏休みにこのメンバーが揃うのも、なんか変な感じだな」
小林は相変わらず落ち着いている。
なんだかよくわからないが、カラオケはこれからが本番のようだった。明日から合宿が始まるのだが、こんなことをしていていいのだろうか。そう思って沙耶ちゃんのほうを見ると、なんだかとても楽しそうに笑っていた。
まあ、いいか。今日くらいは。
夏休みなんだから。
「うわ、あっつー」
あまりの暑さに、相田はすぐに顔をしかめた。
「ねえ。これからどうしよう。せっかくみんな集まったんだし、どっか行かない?」
沙耶ちゃんがそう提案してきた。
「そうだね。どこがいいだろう」
「カラオケ! カラオケ行こう! 歌いたいのあるんだ」
「あ、いいね。そうしよ! 小太郎ちゃんと美周くんもそれでいいかな?」
僕と美周に異存はなかった。行く場所はすぐに決まり、僕たちはカラオケ店へと足を向けた。
駅裏から少し行ったところに、そのカラオケ店はあった。店内に入ると、思っていた以上に内装が豪華で少し驚いた。フロントのあるロビーは吹き抜けになっていて、天井からはシャンデリアが吊されていた。階段の手すりも、お城をイメージしているのか、凝った装飾が施してある。女子たちが勝手に店員と応対し、二階にあるらしい部屋へとあがっていった。僕や美周はそれに付き従うといった感じだ。
僕たちは、二階にある個室のひとつに入っていった。部屋の中は思ったより広かった。大きなテレビや最新のカラオケ機器。なんだか不思議な世界にきたような錯覚を起こしそうだった。
「小太郎ちゃん、さっきからなにきょろきょろしてるの?」
「え? ああ、いや。カラオケの店に来るのって初めてだから」
僕がそう言うと、いきなり相田が爆笑した。
「なにー。じゃあ、今日がカラオケデビューなんだ?」
「わ、笑うなよ。いいだろ別に」
「ごめんごめん。笑ったことは謝るよ。でもいいじゃん。篠宮のそーゆーすれてないとこが逆に好感度アップというか」
そんなものなのだろうか。逆にっていうのがちょっと引っかかるが。
女子たちはさっそくメニューを広げ、飲み物や食べ物の相談を始めた。美周は部屋の隅のほうで機械をいじくっている。
「美周も来たことあるのか? こういうとこ」
少し気になって訊いてみた。カラオケ店に一度も来たことがない高校生というのは、やはり珍しいものなのだろうか。
「いいや。僕も今日が初めてだ」
美周は顔色ひとつ変えずに、そう言った。視線は先程からカラオケの端末と思しきものから離さず、真剣そうだ。「なるほど、これがこうで、こういうふうになるわけか」などとぶつぶつとつぶやいている。
なんだ。ここにも一人いるじゃないか。
相田は手慣れた感じで入ってきたドアの横についている受話器を手に取り、飲み物などをオーダーしていった。
「さー、じゃんじゃん歌うぞー。あんたたちも知ってる曲入れて入れて! どんどん曲入れ
てかないと、あたしの歌ばっかになっちゃうからな」
なんだかよくわからないが、沙耶ちゃんに教えてもらいながら、分厚い本をめくって自分でも歌えそうな曲を探してみる。相田は慣れたもので、端末から直接曲を入れていっていた。
二曲続けて入っていたのは、相田の入れた曲だった。相田はマイクを手にして立ちあがり、これでもかというくらいに熱唱した。歌う気満々だっただけあって、なかなかうまいものだった。
僕と沙耶ちゃんは手拍子をして盛りあげる。ああ、なんだかカラオケって感じがしてきたぞ。
続いて入ってきたのは沙耶ちゃんの曲だ。ちょっと前にはやっていた歌で、CMでも聞いたことがある。曲に乗って流れてきた沙耶ちゃんの歌声は、透明で心地がよかった。いつまででも聴いていたい。そんな響きだった。
沙耶ちゃんの歌が終わり、僕は拍手喝采した。カラオケサイコー!
「はー。なんかみんなの前で歌うのって緊張するね。なんかうまく歌えなかった」
「そんなことないよ。すごく上手だったよ」
「次誰? この曲入れたの」
「あ。それ僕だ」
僕がそう言うと、マイクを手渡された。うまく歌えるか心配ではあったが、とにかく歌ってみよう。
曲は、二年くらい前にはやっていた曲だ。好きで以前はよく聞いていたから、たぶんこれなら歌えるはずだ。前奏が終わり、歌が始まった。
歌ってみると、思ったより気持ちがよかった。喉の奥を開いて、思い切り声を出す。こんなふうに歌を歌うのは、初めてだった。声をマイクにぶつけていくと、胸の奥に溜まっていたなにかがはき出されて、消えていくようだった。
歌い終わり、ほっと息をつく。なるほど、カラオケがストレス解消にもなるというのは、少しだけわかるような気がした。
しかし周りの面々を見ると、なぜかみなぽかんとした様子で僕の顔を見つめていた。
え? なにか僕はやらかしてしまったのだろうか。
「篠宮!」
「こ、小太郎ちゃんっ」
「は、はいっ」
なんなんだ。この反応。なにがいけなかったのだろう。
「サイコー!」
「超うまいよ! わたし聴き惚れちゃった」
女子二人がキャーキャー言って喜んでいる。な、なんだ。そうだったのか。
ほっとして息をついていると、なんだか聴いたことのある音楽が流れてきた。
「え? なにこれ。誰、入れたの」
「僕だ」
美周がそう言って立ちあがった。曲は『アンパンマンのマーチ』。
お世辞にもうまいとも言えない歌いかたで、美周が歌いだした。なんだなんだなんなんだ。それは狙ってやっているのか。それとも天然なのか。おもしろすぎるだろ!
案の定、相田は腹を抱えて笑っている。沙耶ちゃんもくすくすと笑いを噛み殺していた。
その後も美周の選曲は、『サザエさん』、『水戸黄門』や童謡など、独特なものばかりだった。しかも直立不動の妙な歌い方で。
頼む。これ以上は腹がよじれて死ぬからやめてくれ。
「もー駄目ー! 笑い死ぬー」
相田は身もだえして、笑い苦しんでいた。
そのうち誰かがドアをノックした。もう時間になったのだろうか?
「ちーす。来たよ」
「お! やってるね!」
現れたのは小林と幸彦だった。
「あ、あたしが呼んだんだ。せっかくだからみんなで楽しく盛りあがろうぜ!」
相田がそう言って、二人を招き入れると、部屋の中が一層賑やかになった。
「さっそく俺様の美声を聴かせてあげちゃいましょうかね」
幸彦は端末に手を伸ばし、すぐに曲を入れ始めた。
「夏休みにこのメンバーが揃うのも、なんか変な感じだな」
小林は相変わらず落ち着いている。
なんだかよくわからないが、カラオケはこれからが本番のようだった。明日から合宿が始まるのだが、こんなことをしていていいのだろうか。そう思って沙耶ちゃんのほうを見ると、なんだかとても楽しそうに笑っていた。
まあ、いいか。今日くらいは。
夏休みなんだから。
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